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1_83 喜撰(きせん)


ラジオでは、観測史上最高を記録するほどの気温と言っていた真夏日。

わざわざ教官がこの日を選んだのは周知の事実だった。

「気合い入れろゴラァ!俺にこれ以上汗かかせてんじゃねーぞ畜生が!」

ロードバイクに乗って悠々自適に俺たちの背後から野次を飛ばすクソ教官。

照りつける真昼の炎天下の中、鉄鍋のように熱いアスファルトを、これまたクソ重たくて硬い

コンバットブーツで必死に蹴る。

蹴るたびに激しい痛みが全身を襲う。

視線の遥か彼方には逃げ水が見え、まるであの世へ続く蜃気楼のようにも見えた。

「おい二階堂!ペース落ちてんぞこの野郎!このままじゃあ不合格だなぁ~これまでの努力も水の泡だなぁおい」

「はぁ、はぁ、はぁ、ごほっ、は、は、」

息をするたび喉が焼けるように痛い。

喉が、身体が、全身が、ただただ水分を欲していた。

「おいおいおいおい、おい――――!こんな根性でレンジャーになれんのかおい!やれよちゃんと!足上げろおらぁ!」

「は、は、は、はっ」

「おい返事は!」

教官はただでさえ馬鹿でかい声なのにそのうえ拡声器も使うため、まるで鼓膜が破壊せんとばかりの声が響き渡る。

「れ、れ、れんじゃー」

「はぁ?!聞こえねーよ!」

「レンジャー!!」

喉が爆発しそうだった。

「やりゃできんじゃねーか!根性見せろ根性!」

(死ね!死ね!終わったら絶対殺してやる!)

その時、二階堂のやや前の方にいた隊員が膝から崩れ落ちた。

するとすぐ隣を走っていた救護車から衛生員がすぐに飛び出し、倒れこんだ隊員の顔に水を浴びせて

すぐにタンカーで運び出す。

その対応は実に手慣れたものであった。

「ハイ脱落、お前らも何時でもリタイアしていいからな~水あるぞ~ジュースも冷えてるぞ~、あ、そうだ、今日俺ビール

持ってきてんだった!今リタイアしたらお前らにも飲ましてやるぞ、特別だ、どうだ!」

教官の嬉々とした声も耳障りにしかならずただ鋭い目線で前を見据えて走る隊員たち。

「おいおいおいおい、リタイアしろよお前ら~ショウガネーナっと!」

ばしゃーーーん!

「ううううっ!!!」

駆ける隊員たちが一斉にうめき声をあげる。

教官は熱く焼けたアスファルトの上にバケツで水をまき散らして一帯は一気に熱気を帯びた蒸気と化した。

蒸気に入るたび灼熱の湯気が身体にまとわりつき、皆苦悶の表情を浮かべた。

たが、二階堂をはじめとした隊員たちは負けじと走りつづけた。

「ほら俺からの特別サービスだ!気分もリフレッシュしたろ、感謝しろよお前ら!」

(死ぬ、死ぬ、死ぬ・・・)

二階堂はもはや思考などほぼほぼ無くなり、ただ走るだけの道下と化していた。

「いやー今年も(レンジャー徽章取得)試験は絶好調だな、これぞ―――」


「自衛隊名物20km走破の名にふさわしい!」



「6番7番管、水平発射!!」

喜撰弟のレッグに装備されている小型ミサイル群が火柱を上げて飛び出し、二階堂達に迫りくる。

「ヲヲヲヲヲヲッ!!!!」

状況など耳で判断する、ただただ駆け抜け、走破する。

(あの教官の事は恨みつらみしかないが・・・今回ばかりは感謝してやる・・・少しだけな)

「いい走りっぷりです二階堂さんっ、私たちで言うところの誉れある日本男児ですね!」

喜撰・兄もまさに連中と絡んでいるだけあって常識外れの走りだった。

しかも走りながら息を切らすことなくこちらにそこそこ大きい声で話しかける。

どんな呼吸器官をしてるのか想像もできなかった。

アスリートも顔負けである。

ドンッ!ドンッ!ドンッ!・・・・ガラガラガラガラ!

ミサイルは美しき街並みを次々と破壊し、その圧倒的な暴力の差を見せつけている。

(逃げるにしたってっ・・・このままでは埒が明かん、どうする)

暴君(喜撰・弟)はミサイルを装備しているためか若干こちらより速度は落ちるものの

足に付けているホバー装置のようなものでこちらに迫ってくる。

その時、離れていた喜撰兄がこちらに歩み寄って耳打ちした。

「いいですか、二階堂さん。この先に”球面楚歌”と言う成金たちの作った競技場があります。

それまで耐えるのです!」

「くっ!」

走るのが得意とはいえ、直撃は避けられているがミサイルの爆風は二人を容赦なく襲い、その苦しみは頂点に達しようとしていた。

「はっ、はっ、はっはっ・・・くっ、あ、あれか!」

「見えましたっ!ここからは二手に分かれて入りましょう、個々状況判断を願います!」

「ちょっ・・・正気か?!」

その競技場入り口まで迫るや喜撰兄はすぐにその中に消えてしまった。

「ああっ!畜生っ」

二階堂は仕方なく、正面ゲートから競技場グラウンドらしいところに突っ込んだ。

「くっ、なんだここは?!」


そこは巨大な球体の”内側”と言わんばかりの場所であった。

直径300mはあろうかという球体の内側は一面銀一色でところどころに照明が埋め込まれている。

ウィーン、プシュッ、ガコンッ!

「しまった!」

二階堂が入ってきたゲートは隙間なくぴったりと閉じられ、まさにその空間は完全な球体となった。

その前方上部に、奴はいた。

「遅いぞ二階堂!貴様それでも帝国軍人か!」

既に到着していた暴君はそう吐き捨てるとホバーを使いゆっくりと降下して球体中央に降り立った。

”二階堂さん!”

その時、耳から聞きなれた声が飛び込んできた。

「省吾か?!無線が回復したのか」

”大事はないか二階堂?さっきまではオフラインだったが回復したようだ、位置も判明している”

「南山、ここは一体なんだ?!」

ここを一番よく知るであろう南山に急いで尋ねる。

”マズいぞ二階堂、そこはコロシアムだ!

ローリングマシンと言う物を足に付けて四方八方縦横無尽に駆け抜け殺し合いをする成金共の社交場だ”

その時、球体の側面の一部が等間隔に銀幕が透けてガラス張りのような客席が現れた。

「なっ!」

その客席には待ってましたと言わんばかりに兵たちが歓喜の声を上げた。

本来であれば数人しか入らないであろうその観客個室は多数の兵が入り込み、押し合いながら食い入るようにこちらを見つめている。

ひとしきり辺りを見渡した後、二階堂は事態を把握した。

「ヤバいことになったようだな・・・」

”お前の目の前にいる奴は喜撰か?あいつはここで何人もの人間を遊びのように葬り去った修羅だ、気を付けろ!”

「暴君に加えて、修羅とは・・・ふざけやがって!」

それを聞いた、南山は戦慄したように二階堂に問いかける。

”待て二階堂!!おまえ、暴君にもあったのか?!”

「なにいってんだおまえ・・・」

二階堂は南山の台詞に思わず背筋が凍った。

”弟の暴君、兄の修羅だ!二階堂、さっきまで無線が繋がらなかったがもしや・・・”

「やられた・・・」

二階堂が諦めにも似たセリフを吐いたときちょうど真向いやや上部の客席にいる人間と目が合った。

「古今・・・」

古今少佐はアンティーク調の椅子に腰かけ、こちらを見ながらニヤリと笑った。

そして、その隣にいたのは喜撰・兄。

そうだ、思い起こせばそうだった。

初めて会った時も、喜撰は古今少佐の側近という感じですぐ傍らに控えていた。

古今が喜撰兄に何か耳打ちすると喜撰は一歩前に出た。

拡声器越しに球面一体に喜撰兄の声が響き渡る。

「ようこそ二階堂さん・・・そして、申し訳ありませんでした。

あなたを騙していたこと、帝国軍人としてあるまじき行為です。この場をお借りし、深く謝罪申し上げます」

喜撰兄はそういうと深々と頭を下げた。

それは長く10秒以上は続いた。

「クソ喜撰が。そうだよな、弟がああなら、兄もそうだよな?早く察するべきだった。

おびき寄せたのはデスゲームをするのが目的か?」

「いえ、これは紛れもない決闘です。弟からの申し出を受けていただきたい」

すると中央で装備を整えていた暴君が高らかに声を上げた。

「二階堂!漢として、軍人として!貴様に決闘を申し込む!勝者は名誉、敗者は汚名を古今少佐より賜られる。

さあ武器を取るがいい!」

二階堂のすぐそばの側面が浮かび上がり、ライフル、拳銃、手りゅう弾、奴らの致命傷である針銃まで選り取り見取りである。

さらに中央にはRowling machineと印字された足に装備するであろうこの競技場の要が鎮座していた。

”どうします、二階堂さん?ここから脱出するのは困難とおも―――”

「省吾、お前は脱出方法を出来るだけ考えてくれ」

”??二階堂さん?”

二階堂はそういうとローリングマシンの付属説明書を流し見するとおもむろに足を突っ込んだ。


「嫌なこと思い出したこともあってか・・・完全に・・・キれちまったよ」


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