1_71 在原
「状況は?」
「ブリーフィングの時はただただ信じられんことばかりであったが、この現実・・・」
制服の胸元に多くの徽章を付けたため息交じりに答えた。
陸上自衛隊第二北陸連隊・作戦本部テント。
「いいか?!”ターミネータ”みたいな奴がでたらすぐに撤退しろ!・・・そうだ、撃て!撃たなきゃ死ぬぞ!
死にたくなければ撃て!今すぐに!」
”こちら第6機動小隊、現在の状況は極めて困難!繰り返す、極めてっっ、、おいなんだ?このっ―――”
”こちら2番哨戒機、基地中央8時方向、昇降口のようなものから金属物体のようなものが多数―――”
”第3・4機動小隊、一番、二番装甲車沈黙、3番戦車大破!戦略的撤退の許可を願いたい!頼む撤退の―――”
”第1・3戦車隊。現在、ロングノーズ(自走砲)にて射撃開始も
敵基地に目立った効果は見られない模様、至急ロケット弾の―――”
”こちら、第4た、たのむ、救援・・・こんな、こんなバケモンっふ、ふざけるな――――!”
「悪夢だ・・・現在の被害状況は?」
背広の場違いそうな七三分けが頭を抱えながら傍らにいたインカムを付けた女性隊員に問いかける。
「現在、信号の途絶えた車両が18車両、敵対空システムにより航空機16機撃墜、他小隊ならびに作戦参加応答不能者多数」
「事だよ・・・・賠償金、損害額だけで俺の首と退職金が・・・大臣に・・・メディア共になんて説明すればいいんだ」
今にも泣き出しそうな七三を尻目に作戦本部長は各オペレータに的確に指示を出す。
そして、あらゆるアラームや怒号が響き渡る中、そばにいた参謀に目配せすると彼はゆっくりうなずき、そして
一呼吸ののち号令をかけた。
「作戦に参加する全隊員に告げる。もはや、現状においてこれ以上の―――」
「馬鹿を言うんじゃないっ!!!」
七三は本部長に掴みかかり、周りに無線の制止を促した。
「この作戦はただでさえ我が国における最秘匿事項なんだ、ただでさえ秘密裏にこしらえていた基地シェルターを乗っ取られ
それに加え、奪還もままならず仮に撤退なんてことになったら」
本部長はそのキャリア組であろう七三の手を軽く払いのけると、軽蔑の眼差しで問いかける。
「・・・・ではどうしろと?」
七三は少しだけ考えたのち、本部長に指を指しながら吐き捨てる。
「い、いま俺の部下がキャンプ・フォスターの調整官と連絡を取っている・・・いいか時間を稼げ、お前らはそれだけでいいんだ」
七三はそういうと電話を片手にテントを後にした。
(キャンプ・フォスター・・・在日米軍・・・何する気だ?)
本部長は顔面蒼白の七三が外へ出たのを確認すると、傍らのオペレーターに耳打ちした。
「・・・どうだ?」
「ええ、来てくれるそうです。あと九州からも」
「こういう時に長年培った人脈は役に立つな。できるだけ隊員の撤退を急がせろ、ここで犬時になんてまっぴらごめんだ」
「ですね」
本部長はそういうと再び戦況モニターに向き直った。
「古今少佐、後はお任せを―――」
「ふむ、在原よ頼むぞ。お前の作戦はやはり一片の曇りもない、我が帝国軍人の模範よ。私も鼻が高い・・・」
在原はそういうと深く下げた頭をさらに深く下げた。
「私は”下”に行く、何かあれば報告するように」
「はッ!!」
古今少佐は麗しいその容姿をひるがえし、作戦室を後にした。
そして在原はそれを名残惜しいように見届けるとオペレーターたちに向き直った。
その表情は鬼の形相である。
「新ノルデンフェルド砲、射撃開始!AA九九砲水平発射!追撃だ!
腑抜けた我が国民共に・・・似非軍人どもに活を入れてやれ!!」
「在原班長!六時方向の敵戦車隊がこちらに急速に迫っております」
傍らのオペレーターが在原に伝える。
「戦車などウバメどもにやらせてやれ!九百四十式を出していい!
いいか?!久しぶりの実戦なんだ、この俺に・・・・古今少佐に恥をかかせるんじゃない!
殺せ!なぶり殺せ!骸はみな貼り付けにしろ!そして腑抜けた我日本国民の目を覚まさせてやれ!」
「はっ!!」
オペレーターの背筋が伸びる。
その時、在原達のいる作戦室に轟音が響いた。
ごおおぉおおおおぉおお!
「何事だ!?」
オペレーターの一人が急いでコンソールを叩き確認する。
「確認しました。我隊秘蔵、虎の子”キ・902乙”が遠隔操作により自軍に攻撃を開始しております」
「なんだってぇ!!モニターに出せ、早くしろ!」
在原は辺りに怒鳴り散らし、オペレーター達は慌ててモニターに表示した。
表示されたモニターは痛々しい武装をし奇妙なキャタピラーを付けた戦車が
暴れ回るウバメ達をなぎ倒しながら暴れていた。
「なんという失態・・・”せきゅりてえ”は、防犯はどうなっていたんだ!」
在原は顔を真っ赤にしながら傍らにあった書類をガシガシ噛み、癇癪を起した。
「そ、それがサーバールームからの管理者権限による操作のもので・・・外部からの・・・敵からの第三者から仕掛けられたものとは
思えませんっ」
それを聞いた矢先、在原は地団駄を踏んでいた動きをピタリと止めた。
「・・・・あああああああ、あああそうだ、そうだ、きっと二階堂だ、二階堂に違いない!こんな!こんな!こんな!
他人の所有物を我が物顔で乗っ取るいかがわしく破廉恥なことをするのは!」
一呼吸置き。
「二階堂のクソ虫に違いないぃぃぃぃぃいいいい!!!!」
ホンの数分前――――。
”・・・かい、・・・かいどう!・・・・・・・にかいどう・・・・・・二階堂!”
「・・・・・・」
騒がしい。
”二階堂さん!二階堂さん!どうします南山さん、あれからピクリとも動きませんよ”
”もう一度あの狂音を聞かせてみてはどうですカ”
”バイタルサインや血圧やらステータスは以上ないんだな?なら仕方ないっ―――”
「起きてるよ・・・」
”二階堂!お前大丈夫なのか!!”
「暫く気を失っていたのか・・・・何が起こったのか全く分からない」
まだはっきりと覚醒しない頭をなでながら二階堂はリクライニングシートから身体を上げた。
”二階堂さん・・・あなたはサーバールームの奥まで行って急に倒れた後、暫くすると急に起き上がって
そこにある人形に向かってぎゃーぎゃー喚いた後、今座ってる椅子に倒れこんでそのまま寝てしまったみたいで”
傍らを見れば、骸骨の人形がオフィスチェアーに鎮座している。
「なんだって・・・・?あれは、夢だったのか?」
はっきりとは覚えていなかったが、最後に自身のガントレットコンソールに現れた”死神”の絵を見た後気を失ったような気がした。
”そういえば、二階堂。お前体調の方はどうなんだ?お前の身体をモニターしていたが
さっきまでボロボロだった数値が急激に正常に戻っていったぞ?一体どうなっている”
「一体どうなってって・・・?」
そういって二階堂は自身の身体を見た。
怪我が治っている。ウバメに折られたであろう骨も明らかに元に戻っている。
いや、痛みがないどころか、感覚は研ぎ澄まされ、脳は冴えわたってさえいた。
「俺は・・・一体どうなっている?」
軽い戦慄を覚える。
”そうだ、もしかしたらここには全自動AI外科手術マシンがあるのかもしれませんよ。
二階堂さんが行った奥の方を確認しましょうよ、奥の方は何故か私たちの方でモニタリングできなかったんです”
省吾が何故か慌てた様子で答えた。
”いやそれよりもだ二階堂、お前気絶する前のこと覚えているか?陸自の連隊が状況を開始していることを”
「そうだ、連中はどうなったんだ?!もしかしたら、ここに救援へっ」
そういって二階堂が立ち上がってモニターに向き直りその様子を目の当たりにしたがそれは絶望的な状況であった。
ウバメにおもちゃの様に破壊される戦車、装甲車。
帝国兵に蹂躙される陸上自衛隊兵。
あちこちに上がる火柱、黒煙、そして鳴り響く轟音。
辺りに散らばる肢体、死体、そして血だまり。
「悪夢だ・・・」
二階堂は再びリクライニングシートに脱力しながら腰かけた。
”二階堂さん、落ち着いて・・・”
「落ち着いてだと?!省吾!お前はまだ現役の自衛隊員だ!それが、これを見て、落ち着いてだと!ふざけるのも――」
”違う二階堂、聞け!”
省吾へ食いつく二階堂を南山が制止する。
”いいか、二階堂、まだ撤退中や応戦中の隊員が沢山いる。幸いにもここはサーバールーム。
ここはコントロールルームも兼用しているから奴らに一杯食わせてやることができる!”
「どういうことだ?」
”イーノに代わる、おいイーノ!”
南山がイーノに取り急ぎつなぐ。
”いいですか二階堂サン、あなたが眠っている間に多機能一眼レフの無線接続で何とかこのサーバールームのデータに
アクセスすることができましタ。ざっとこの基地の防衛機能に目を通した時に、
現在人民軍でも僅かな者しか知らない開発中の画期的な兵器がそこにあったのデス!”
イーノが珍しく息を荒げながら矢継ぎ早に伝える。
「なんだその”画期的な兵器”ってのは?」
”省吾!モニターに出してやれ”
”はい!ライブ映像で”
二階堂の目の前のパネルに一台の兵器が映し出される。
それはおおきなドックにおさまっており無数のコードがつながっていた。
「これは・・・」
”お前が寝ている間にこちらから何とか発進シーケンスまで漕ぎつけた!二階堂、お前の今座っているところは
コントロール席だ!そこから操縦してあいつ等を救ってやれ!”
「救えっていたって!どうやって操縦するんだ?!見たこともないようなものを」
南山はまごつく二階堂にイラつきながら答える。
”さっきも空中戦したろ!!満足に動かす必要なんてないんだ、暴れてやればいい!
お前のかつての古巣の仲間だろうが!”
「くそっ、都合のいい時だけ仲間呼ばわりしやがって、マジで帰ったら覚えてろよ南山。
イーノ!わかるところだけでいい、教えてくれ!」
”了解ですよ二階堂さン”
二階堂はそういって目の前の収納されているコンソール一式を引き出した。
NO.17 THE STAR (星) 正位置
「待てっ、俺達は投降するッ!この通りだ!」
その自衛隊員はアサルトライフルを地面に置き、両手を上げ膝を落とした。
強襲装甲車両を破壊され、決死の思いで脱出するも小隊のほとんどを射殺され
もはや後ろでうごめく負傷した仲間一人を除き彼の隊は全滅寸前だった。
目の前にいる、”たった二人”の小銃を持った服の上からでもわかる様な彫刻で掘り起こしたような
鋼の肉体をした帝国兵が投降を聞いて憤慨する。
「・・・こんな奴らが我ら大日本帝国陸軍の志を受け継いだものだとっ!ふざけるのも大概にしろ!」
「まるでガキの様に締まりのない顔!力のない眼光!根性のない精神!
時代にしてもだっ、仮にも敵に”投降”!あまつさえ”命乞い”など!今の日本人共は気が狂っとるのか!」
隣の鬼のような形相の帝国兵が言う。
「お前が真の帝国軍人というのであるならば、味方もろとも玉砕するのが本懐というもの!
万歳も分からんとは・・・嘆かわしいにもほどがある!」
そういうと投降の意思を示した隊員の胸ぐらを掴むとそのまま勢いよく地面へとたたきつけた。
「おい貴様!その場に穴を掘れ!」
「え・・・・!」
「いいから掘れ!掘るんだよ!ぶち殺すぞ!このヘタレが!」
「穴を掘るんだよ穴を!お前の ” 頭 ” が埋まるぐらいにだ!早くしろこのクソ虫が!」
意味を察した自衛隊員の顔が絶望に染まる。
そうして帝国兵が軍刀を自衛隊員の首に目掛け振り上げた時、帝国兵の頭が破裂した。
「!!!うわぁぁぁぁっぁあ!」
破裂音とともに飛び散った頭の肉片をみて自衛隊員は思わずのけぞった。
「おい大丈夫かっ!・・・・あれは!」
負傷した後ろの仲間がそこに駆け寄り、肩を抱きかかえながら見たその兵器は―――。




