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1_11 モルモットは放り込まれた

先週未明―――。


「大丈夫だって、”ツテ”はあるんだよ」

そのやや品性にかける男はソファで仰向けになり、同じく真向いのソファで成人雑誌を読みふける

少しみすぼらしい男になだめる様に言った。

その雑誌を読みふける男の名は二階堂(にかいどう) (すすむ)

身長は左程高くなく、だが身体はよく引き締まっており酒飲みとは思えないほどのスマートな体系をしている。

そう、酷くみすぼらしいことを除けば。

「どうだか?お前が嘘、でまかせほざくのは一度や二度じゃないからな、二年前のあの時だって―――」

「おい二階堂、お前今どれぐらい借入れしてんだよ。もう百、二百じゃ利かないだろう?」

男はニヤつきながら不貞腐れる二階堂の言葉を突発的に遮った。

人を小馬鹿にするような態度が実に鼻に付く、長身で少し小太りの品性の足りない男の名は

南山みなみやま わたる

「・・・・・・・」

南山は押し黙る二階堂に代わり、イヤミったらしく問いかける。

「三百、いや、金利含めてもうちょいいくか?」

「五百八十万だ」

「え?!」

二階堂は南山の態度に呆れて、とっとと切り出す。

「金利含めて五百八十万円抱えてる。カード系は全滅。消費者金融もアウト。まあブラックリスト確定だよ、笑え」

「まあまあ、落ち着けって」

南山は予想外に深刻な二階堂の借金に思わず顔を引きつらせ、さっそく本題を提示する。

「さっきも言った通りだ二階堂、今まで明るみにならなかった第六セクターと呼ばれる”戦後”に建てられた要人様のシェルター

兼用の基地が一部の政府関係者の主体で建造されていたらしいんだが一部情報が入ってそれがヤバそうなやつらに占拠されたらしい」

セクターという言葉が耳に入ったときに二階堂は怪訝な顔をする。

「さっきも思ったんだが、第六セクターって言ってもセクターって元々経済での産業などの”カテゴリー”を示すものじゃないのか?」

「まあ、それはそうなんだがそこらへんもひっくるめてだ。ことが公になる前に、俺達で情報をひとしきり入手して中国辺りに

売っちまおうってのが今回の話よ」

南山は今時珍しくA4用紙の一枚を二階堂に差し出した。

手に取ると、座標や僅かな数字の羅列、必要最低限の情報のみが記載されている。それも一部の人間にしかわからないような形で。

「情報はいいとしてだ。なぜ中国なんだ?」

それをきいて、南山は顔をニンマリさせる。

「それよそれ。いやな、今回その”秘密基地”を占領した連中がその政府関係者にコンタクトを取ったらしいんだけどな。言うんだよ」

「なにを?」二階堂は言いながら机に有ったコーヒーを手に取り、すすり始める。

「自分たちは”大日本帝国軍人”であるって」

ブッ!っと勢いよく二階堂は噴いた。向山の顔にかかる。

「おい二階堂、キタネェだろうがよ」

「あほらしい・・・戦後どれだけの月日が経ってると思うんだ。

今このボロ事務所から南極大陸のPCに瞬時にアクセスできるような時代に?

ていこくぐんじん?南山、お前毎日駐屯地で酒ばっか飲んでるから酔いすぎて脳細胞日に日に死んでいってるんじゃね?

ああ、終り終わりだこの話は終わり、俺は明日久しぶりに仕事が入っているんだ――――」

呆れてボヤク二階堂の眼前に向山は一本の指を示した。

「何やってんだよお前、ぶっ飛ばすぞ・・・?」

南山はそのまま真剣な眼差しで態勢を崩さない。

「もしかして・・・ギャラが良いのか?一千万とか・・・」

南山は微動だにせず。

「え、どういう―――」

「一億だ」

二階堂は目が点になり、頭の中は真っ白になった。

「絶対嘘だ、法を踏ませるとは言えこのいまの世の中に一億出すような人間がどこにいる?」

「俺の知り合いに解放軍(人民解放軍)の上官が友達の人間がいたろ?話を持って行ったら、なんとまぁ成功報酬は1億円。

あと準備・支度金で三百もくれた」

「待て待て待て、それでもだ。一億の理由がわからない、どういうことなんだ」

南山は食い下がる二階堂を見て面倒そうに訳を話す。

「いいか?簡単な話なんだよ。俺が持っていった話ってのは連中も既に追っていたわけ。

だが暗中模索の噂だけの手探り状態の中、何の確証もないところに・・・・」

「お前が来たという訳か・・・・」

そう言って南山は手提げカバンから百万円のひと束を応接机にポンと置いた。

「うぅっ・・・マジか」

常に金欠の二階堂はそれを見て思わず、札束に手を伸ばしそれを取ったと同時に南山はその上から自身の手を勢いよく重ねる。

そして二階堂の目を見て言う。

「お前には簡単な話だ。現役の頃は普通科の中でも成績はトップ、射撃だって何回も表彰状飾ったんだ、楽勝だよ」

南山はそう言うと顔をニヤつかせた。困ったときは直ぐ人を煽てて何かと取り入ろうとする癖は相変わらずであった。

「階級云々なしで腹割って話せるのはお前ぐらいなもんなんだよ・・・・なぁ?」

二階堂の顔は渋かった。胴元が中国なのである。しかし、喉から手が出るほど金が欲しいのも事実。

軽い苦悩の末、ため息交じりにうなづくと南山は待ってましたと言わんばかりにタブレットを取り出した。

「・・・・具体的な任務内容は?何をすればいい?」

「その第六セクターに潜入し占拠者の写真を撮りまくって情報を収集する。後第六セクター自体も調査の対象だ。

出来ればハードディスクや記憶媒体の類を仕入れることが出来れば直良い。とりあえずできるだけの情報を仕入れて早々に撤収するのみ。

ただ作戦中はリアルタイムで仕入れた情報を先方さんがチェックするらしい、そこは注意しろよ」

二階堂はそれを聞いて南山の手を払いのけると札束を自身のジャケットの懐に忍ばせた。

「ほかには誰が参加する」

「その話に上がった中国側からモニター通信オンリーで代表一人が参加。

俺の後輩の情報課の省吾しょうご、脚役で風俗野郎の江村えむらが一人、

後はバックアップの俺。

潜入役のお前。つまり俺ら側は全員で四人だ。金額もちょうどいい感じで割れるしな」

それを聞いた二階堂は顔色を変えて南山に詰問する。

「おい、ちょっと待て俺一人で潜入するのか?お前はよ?」

「行くわけないだろ?あの頃と違って俺は今立場があるんだ。

それにもしもの時どうするんだ。この仕事は駐屯地からばれないように装備品と運搬トラックとドローンを拝借することにもなるんだぞ」

それを聞いて二階堂は不満をあらわにして南山に指差した。

「ふざけんな・・・じゃあ現場に行く俺の取りは危険手当込みの三千五百だ!三千でもいい・・・・・・いややっぱ三千五百だ!

出さなきゃ今回の件を全部上官にゲロってやる」

「ちっ・・・解った解った。三千五百だな、もうちょっと割り切れる数字にしろよ・・・」

南山はそう言うと立ち上がって踵を返し、扉へと向かった。

「決行は来週だ、それまで精々なまった身体に油刺しとけよ」

「ほざいてんじゃねーよ小太りが、三千五百だからな!」

「はいはい」


(さんぜんごひゃく・・・・さんぜんごひゃくまんだ・・・)

これだけあれば借金はチャラ。人生だってリスタートできる。

そんな事が頭に過ぎりながら、

二階堂は条件反射何とか受け身を僅かに取りつつ地面に無様に落下した。

「ぐぇ!!!」着地の衝撃で嗚咽が漏れる。全身が激しい痛みに襲われる。

仰向けになって自身の先程いた天井を見つめる最中、こちらを興味津々で二階堂を覗き込むバケモンと目が合った。

「ぎゃぁぁぁっぁっぁぁ!」思わず絶叫する二階堂。

「イヤァアァァッァァ」つられて叫ぶバケモン。

「ひぃいいいいいいいいいいい!」

二階堂は飛び起き、脱兎の如く駆けだした。

全力疾走でホールの様な広い無機質な金属ともプラスチックともつかない壁が張り巡らされて部屋を出ようと必死にかける。

「ぐぅ!」

「ひぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇ!」

目の前にひょっこりと二人の巨人が飛び出した。

つま先立ちで、信じられない速度のソーラン節を踊りながらこちらを目指す。

「ふざけんじゃねーぞこのボケが!!」

足のグリップを巧みに利かせて、進路を変えるが。

「うわぁい」

「お前らいい加減にしろやボケ!!!」

また、数人の巨人がコサックダンスの動きをしながら目の前に立ちふさがった。

二階堂の目には既に涙が溜まっていた。

立ち止まったら殺される。なぜなら彼ら(彼女ら)が先程まで遊んでいた”おもちゃ”などは

他の何でもない人間の骸だったのだから。

走る最中、首に取り付けられた骨伝導式の通信機のボタンを必死に押す。

「南山、南山、おい、見てるんだろ!どうすればいい!」

すると、若干のノイズ交じりの南山の声が聞こえてきた。

”ヘマんじゃねーよ、タコ。そうだなーとりあえず逃げろ、逃げて逃げまくれ、足には自信があるだろ。何とかなるさ、はは”

「はあ、はあ、何・・・とか、じゃねーだろ、くそ、くそ、ちくしょう」

二階堂は鼻をほじりながらマイクに向かってほざく南山の姿が容易に想像できた。

しかし、危険が目前に迫っている為南山に憤りを感じている場合ではない。

(どこか・・・どこかに・・・活路を)

思案しながら軽く後ろを見ると巨人は今度はリズミカルにステップを踏みながら腕を真横に切りながら向かってくる。

それはもう目と鼻の先だった。

「ひひぃぃぃいぃぃ、も、もう、これ以上は・・」

息も絶え絶え、頭に絶望がよぎる瞬間。

視界の隅にダストシュートのようなものが飛び込んできた。人一人が何とか入れそうな大きさだ。

飛び込んだ先が有るのかどうか、迷う暇など微塵もない。

「オオオォォォオオオオオ!!!」

二階堂は決死の思い出ダストシュートまでたどり着き、

蓋を開けたと同時に曲芸師の様に飛び込んだ。

しかしそこは奈落の様な急斜面。

「ぐぅぅぅうぅううううう!」

急落下を押さえるため、必死に靴をブレーキに使うが勢いは収まることはなく

そのまま二階堂は十数メートル先のゴミ処理施設の様な掃きだめへと誘われのだった。

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