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1_52 小野と僧正


カランカランッ

「んもぅーー遅刻だぞっ!減点ポンポン!なーんてね☆」

「??」

二階堂は目の前に広がる桃源郷に呆然とした。

いつの間にか自分は色とりどりの調度品に囲まれたバラのフレグランスが香る、ゴシック調の部屋にいる。

いくつものモダンな机や椅子が並び、さしずめ高級喫茶のようだった。

ふと前をみると、目の前にはかわいいカチューシャの背の低い少女がいる。

メイド服なのかドレスなのか、よくわからないが可愛いらしい服を着こなして手足をパタパタさせている。

「あらっ珍しいですわね、あなたが遅刻なんて・・・そういえばあなた、顔色悪いわよ?

もしかして風邪でも引いたの?」

そう言ってすぐ隣にいた、背の高い胸の大きな清楚な少女が自身のおでこを二階堂の額に付けた。

「わわっ!?何?」

二階堂は突然のことに思わず身をひるませた。

「まぁまぁ、どうしたの?恥ずかしがっちゃって・・・今日はどうしちゃったのかしら」

「二階堂ちゃん、今日はなんだか可愛いっ☆そうだ、今日はウチが特別におめかししてあげるね☆」

背の低い少女は二階堂の腕に抱きついた。

柔らかい胸の感触と僅かなぬくもりが肌を伝ってくる。

「ちょっ・・・やめ、やめって、え・・・なにこれ、どういうこと」

二階堂はそこで強烈な違和感を感じた。

まず声が自分の声ではない。

まるで少女の声だ。

次に身体。

妙に軽い、そして下を見ると・・・わずかな膨らみが二つ。

自身の変化に呆然とする中、背の低い少女は強引に部屋の奥にある大きなウォールミラーの前に連れて行った。

「嘘・・・なに・・・これ、俺・・・か・・・?」

そこに映し出されたのは、おおよそ中年近い男とは程遠い、ボーイッシュな可憐な少女であった。

「さあ、早く着替えて。もうすぐ開店時間よ、ご主人様をお迎えする準備をしなければ」

「ご主人・・・様だって・・・さっきから何を・・・?」

すると背の高い少女は二階堂の腕を組んで耳元に吐息をゆっくり吹きかけた。

「ひゃう?!!!」

「ふふふ、今日は二階堂さんの好きな旦那様がお見えですよ・・・よかったですわね☆」

「わあ、いいなあ。でも―二階堂ちゃんは・・・ウチだけのものなんだから☆」

二人の少女に両腕を抱えられ、二階堂は錯乱した。

「な、な、え、え、俺、なんなの、いったい。これは」

「んもぅーー最近、新しいメイド喫茶が出来てほんと嫌になっちゃう。

二階堂ちゃんはウチのエースなんだから、頑張ってご主人様を取られないようにしてよね」

「まあまあ、二階堂さんは頼もしいですから、私たちのために頑張ってくれますわよっ」

二階堂は彼女たちの声が何故か幻聴のように聞こえ始め、やがて頭がぼんやりし始めた。

脳の思考がマヒし、やがて眼がうつろになる。

「そうだ、そうだ、ご主人様・・・お迎えしなくちゃ・・・私・・・目いっぱいイケてる・・・」

「うんうん!元気出てきたね☆それでこそ二階堂ちゃん!」

「さぁ、今日も頑張りますわよ~」

二人に両脇を抱えながら、二階堂はその少女の満面の笑みで微笑んでいった。

「うんっ!今日もやるわよ~」


その二階堂の目にはもはや光が消えていた。



”二階堂!!しっかりしろ!”

”二階堂さん、気を確かに、お願い正気に戻ってください!!!”

二階堂の骨伝導から届く南山や省吾の声に反応することもなく、ただよだれを垂れ流し、ヘラヘラと虚ろな表情をしていた。

両脇を屈強なウバメに抱えられ、廊下をまるで神輿を担ぐかの様に上下に揺らされながらおもちゃの様にされている。

やがて二階堂は大きな”光合成室”と書かれたプレートの部屋に担ぎ込まれた。

そこには、底の浅い大きなプールのようなものが作られており、吹き抜けの上からは柔らかな光が差し込んでいる。

そのプールには無数のウバメ達。

二階堂はそのプールの中に放り込まれた。


「きゃあ!もう、やったなぁ!」

「きゃー☆二階堂ちゃんのせいなんだからね」

背の低い少女はキャッキャとはしゃぎながら二階堂に向かって水を必死にかけていた。

白いフリルのワンピース水着が否が応でも目に留まる。

「こらー、そこの傍観してる乳デカ女~くらえっ」

そういうと今度は二階堂が傍らにいる背の高い少女に水をかけだした。

「うぁ!やりましたわね~もう、この~」

少女も負けじと水をかけだす。

可憐な少女の水着から弾けんばかりの豊満なボディラインは少女となった二階堂に目の毒であった。

「二階堂ちゃん!そりゃ!」

そういうと背の低い少女は背後から二階堂の胸を鷲掴みにして我武者羅にもみしだいた。

「きゃ、ああああっ。こ、こら~やったなぁ~」

「うふふ、また大きくなったんじゃない☆」

「まぁ、やだ☆」

「こ、こらあんたたち~恥ずかしいことを堂々と言ってくれちゃって!」

そういうと二階堂は少女を追い回し始めた。

「あっははははは~」

「二階堂さーん☆」

二階堂はこのプールで愉悦に浸っていた。

なんの虚ろいもなく、幸せの時間・・・・。

(ああ、なんて幸せなんだろう)


・・・・・・。

・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

Now Loading・・・・・


「ほ、ほほっほっほほほっほー見ろ僧正どの!あの二階堂の顔、ぷ、ぷぷぷぷぷ、あーたまらんたまらん」

「日本帝国の恥よ、愚か者め・・・」

だが白ける僧正をよそに小野はモニターを食い入るように見つめ、熱中している。

「脳内のドーパミン受動体を異常化させ、脳神経系LSD、さらには自律神経、ホルモンバランスを狂わせる

最高のカクテル・・・これが俺の発明したドキルエスピンLSDー00021通称、”異世界転生麻薬”よ!!」

「馬鹿馬鹿しい―――これが今の国民が望んでいるとでもいうつもりか?」

僧正は舌打ちをして、踵を返してモニタールームを出ようとした。

「待て僧正、お前はこれの偉大さを理解しておらん。いいか、今我が国のヘタレの若造どももやれ異世界だの

転性だの現実から逃げることしか考えておらん。だがそれはわが国だけでなく米国や欧州、中国から南国の辺境地に至るまで

ありとあらゆるところにはびこっておる。それはかつての阿片アヘンに傾倒した時代と同じだ。

この薬を世界中に蔓延させれば世界中には抜け殻のような人間にすることが可能。もちろん、皆”幸せ”を享受してだ!

そして、その時こそわが大日本帝国が・・・」

「お前も自分の頭に打つといい、きっといい夢が見られるはずだ」

話も半分に僧正は自身の装備品を持って出て行った。

「僧正どの!・・・ふん、時代遅れの脳筋軍人が・・・わしの偉業を馬鹿にしやがって。

いやあいつ、もしや二階堂のところに行くつもりか?そうはさせんぞ」

小野は自分のモルモットが奪われるのではないかと焦っては身支度を整え、急いで僧正の後を追った。


木漏れ日に満ちるプールの中。

いまだかつて感じたことのない幸せに、二階堂は一種のエクスタシーを感じていた。

その顔は悦楽に満ち、これ以上にないほど幸せに満ち溢れていた。

その時である。

ガ―――――――――――――――ッ!!!!!!


「うぎゃああああああああっ!」

二階堂は突如として耳に貫くような音に叫び声をあげた。


”どうだ?!”

”効果的です、音の方とは逆の方へ駆け出しました!ナイスアイデアですよイーノさん!”

省吾は声を弾ませてイーノに感謝した。

”かつて人民解放軍で”流行った”拷問方法ですヨ。省吾さん、もう少しデシベルの出力を上げてください。

均衡感覚はまだ正常の様です。このまま、音で誘導しましょウ”

”了解です!”

プールでのたうち回る二階堂は幻覚に苛まれながらも耳から聞こえる音に逃げ惑うように動き出した。


二階堂は注射され、瞬時に狂いだした。

その後、ウバメ達が現れて狂った二階堂を見て喜び、自分たちの体のいいおもちゃにし始めたのである。

モニターしていた南山達は打開策を何とか模索し、苦肉の策として鼓膜を破る寸前の音を二階堂に与えることに

よって正気に戻そうとしたのだ。


ガ―――――――――――――――ッ!!!!!!

「んきゃあああああああああああああああ!・・・ううう、頭がぁ、頭がぁ」

二階堂の視界が一瞬元に戻る。

目に飛び込んだのはプールで仰向けになったりはしゃぎながら光を受け、光合成するウバメ達。

そして自分を見て、腹を抱えて笑う者たち。

(ううううううっ、逃げなければっ!ここからっ!)

二階堂は僅かな正気を取り戻し、視界を回して出口のようなもの見つけては駆けだした。


「ご主人様☆」

「あそぼ~」

油断すると、すぐに”あれ”に引き戻される。


「ううううううううううううううううっ、やめろ!やめろ!ヤメロォォォ!!!」

二階堂は叫び、手をぶんぶん振り回しながら幻覚を振り払う。

両手を振り回し、千鳥足ながらもなんとかして出口と思われる自動ドアの前にたどり着いた。

その時、自動ドアが瞬時に開かれ腕が伸びてきた。

それは、二階堂の胸ぐらを掴むと一気に引き寄せられてドアの奥へと消えた。

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