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1_51 小野と僧正


「共同作戦と行こうじゃないか、僧正殿」

小野はスキンヘッドが眩しい僧正にむけて笑みを浮かべていった。

「お前の団と小生が・・・?たわけが」

気性の激しい僧正は涼しい顔をした小野に詰め寄る。

「貴様はどうせ軍医だか科学班だか知らんが、どうせ奴に薬をぶち込んで高みの見物だろう。

帝国軍人たるものが、正々堂々立ち向かわんか馬鹿物が」

僧正はそう言って鼻を鳴らすと踵を返した。

「まあ待て僧正殿。折角、古今少佐は我々六火仙に機会を設けてくれたんだ。臨床実験のひとつでも・・・」

すると、踵を返していた僧正は再び小野に向き直りその胸に痛いほどの指を突き立てた。

「臨床実験?!ふざけるんじゃない、いいか?!二階堂のボケのせいで既に六火仙の内二人の貴重な兵が失われた。

あいつらは”遊び”でやったせいで思わぬ”火傷”をした。だがこれ以上の失態はナシだ、超長距離ライフルで麻酔を打ち込んで

古今少佐の元に連れ出す、それでお仕舞いだ!いいな!」

僧正は念を押すように小野に言う。

「ほう、そんなことを言うのか。お前には特別に”アレ”を融通してやっているというのに」

小野はそういうと下品な顔をして僧正の目の前に小袋を差し出した。

「おいっ、何やっているんだヤメロ!兵に見られでもしたらどうする!!」

僧正はそういうとその小袋を素早く鷲掴みにすると、胸の内に大事そうに隠した。

「軍医の立場を利用して阿片(麻薬)を古今少佐には黙って多く融通してやっているんだ。

ちょっとぐらい俺のわがままを聞いてくれてもいいじゃないか?」

ニタニタしながら小野は後方にあるデスクのファイルを取ると目を通し始めた。

「・・・・・・何を考えている」

「まあ見てろよ僧正・・・この”新薬”はこれ以上にないほどに画期的な代物よ。絶対に楽しめる価値がある

・・・なあ二階堂、待ってろよ。お前を最高にしてやる」

小野はそういうとガントレットコンソールを弄り、薬品冷凍庫のロックを解除した。


NO.10 WHEEL OF FORTUNE (運命の輪) 正位置


第四医務室-----。

「もう何が何だか・・・・俺は今どこにいる?ここは現実なのか」

二階堂はあっけにとられていた。

いま二階堂は見たこともないような手術ベッドに仰向けになっている。

―――全自動外科手術マシン。

二階堂は半年ほど前メディアで見たことがあった。

次世代AIの実装を経てようやくドイツにて完成し、現在試験段階中のものを含めても世界でも3台しかない

一台30億円はくだらない代物。

それが今こんなこじんまりとした医務室に鎮座し、しれっと起動しているのだ。

”もう少しで完了ですヨ”

「遠隔とはいえマジで頼むぜイーノ、しかしお目付け役が医療免許持っているとは・・・だが中国のだろ?大丈夫なのか・・・」

”中国ディスるとロクなことないですよ二階堂さん。素人の俺が見ても完璧だと思います、のっかってて大丈夫ですよ”

省吾の声が、なんとなく嫌味に聞こえた二階堂だった。

「しかし、すごいな・・・文字通り生き返るとはまさにこのこと、見ろ配合した腕の傷がもうわからないようになってきてって

そっちじゃわかりにくいか」

”言わんとしていることは解っている、本来は俺達のような”下級”国民ではなく雲の上の”上級国民用”だからな。

次世代ナノマシン治療、抜糸もギブスも必要ない3Dプリンター技術から量子コンピューターまで駆使した最高医療だよ”

南山がなにやらぼそぼそと言いながら省吾にこの先のナビについていくつか申し入れをしているようだった。

”最終シーケンス・・・二階堂サン、あと数分すればそちらのガイトアナウンスが流れます、そうすればオーケーです”

イーノの溜息と共に機械の術式アームが動いて各配合した傷にライトのようなものを当てている。

「おい、南山。なんか食うものはこのあたりにないのか?傷がふさがったとたん腹が減ってきた。きっとエネルギーを異様に

消費したに違いない」

二階堂は仰向けになったまま周りの棚などをしきりに見回した。

”お前、あれほどの事があったのに現金な奴だな・・・

そうだな、そういえば医務室には病床患者用のレーションゼリーがいくらかあったはず。青リンゴ味だ”

「ググッ、ここにきてゼリーかよ。ふざけやがって」

二階堂が悪態をついたとき、手術マシンからアナウンスが流れてきた。

治療が済んだらしい。

二階堂は機械のアーム類が収束する前にスタっと飛び起きそこらあたりの棚を物色し始めた。

もちろん、罠の類を警戒して傍らにあった棒状のもので探りを入れながら。

「・・・あった、これか。数が少ない」

目的のものを見つけた二階堂はそれを掴むとキャップを取って無造作に口に付け、握力任せにチューブを握りこんで

ゼリーを吸引した。

”二階堂さん・・・僕が言うのもなんですが、毒とかの警戒はないんですか?”

「毒があるならまずこっちの手術マシンとやらが暴走するだろ。それに今にして分かったことがある」

”なんですか?”

「あいつらはどういうことか、俺と”やり合う”ことを楽しんでる。いや、楽しみにしてたと言ってもいい、なあ南山」

二階堂はちょっと語気を強めてわざとらしく南山に振った。

”あ、ああ。そうかもな。なんにせよ、ここまで凌げたのは幸運だ。それに安心しろ二階堂、この先がお前にとってのゴールだ”

南山は気まずい空気を払拭しようとしてあえて話題を二階堂の興味を引く方に変えた。

「何言ってんだお前、ゴールっていうなら脱出口になるようなところだろうな。俺はもうやらんぞ!これ以上やってたまるか」

すると、話にイーノが割って入ってきた。

”二階堂サン、ここには医療センターだけでなく、化学・生物兵器の研究室も数多く併設しているのデス。

そこには必ずウバメの情報やこの基地の情報があるハズですよ”

「冗談かよ・・・さっきだってFHSフライングハリアースーツの燃料が残ってたらすぐにでもここを飛び立っていたぜ」

すっかり逃げ腰になっている二階堂に南山が念を押す。

”だがな二階堂・・・今脱出すれば満額の報酬は得られんぞ”

「ふざけるな!俺が得た情報は中国だろうがアメリカだろうが納得の十分報酬に値する仕事だろうが!」

”いいえ、まだです二階堂サン。”億り人”になるにはまだ越えなくてはならないハードルがありますヨ!”

お目付け役のイーノがぴしゃりと言い放ったことで二階堂は思わずどもった。

腕に付けたガントレットコンソールを見る。

確かにここは研究室と思しき部屋が点在している。

だがどんな奴が潜んでいるかもしれない、ひょっとしたら今まで以上に得体のしれないものも潜んでいるかもしれない。

二階堂はその不安と報酬が得られないかもしれないという心配に頭を痛ませた。

”二階堂さん・・・南山さんによるとこの先のすぐ近くに研究データを蓄積するためのサーバールームがあるそうなんです。

そこなら残りの情報をすべて得ることができるかもしれませんよ、試してみる価値は―――”

「省吾、んなこたわかってる・・・すべては命あっての物種だろうが」

”はい・・・”

二階堂は持っていたゼリーチューブをダストボックスに投げ入れると装備を整えだした。

先程のボロボロの状態とは違い、見違えるように回復している。

そして自動ドアの前に立ってすぐ壁際に立つと手の甲で開閉パネルを叩く直前で無線に伝えた。

「次で最後だ。それ以上は”サンダーワン”は戦前離脱する」

”了解だ、久しぶりに聞いたなサンダーワン”

「馬鹿言ってろ」

二階堂はパネルを叩いて、針銃を構えて飛び出した。


廊下に出て辺りを警戒するがフロアはやたら明るいだけで物音ひとつしない。

(無人か・・・・?いや、そんなはず―――)

そのとき、腕のガントレットコンソールが動きタロットが繰り出された。

(くそっ、こんな時にっ!!)

カシャカシャカシャカシャカシャカシャ

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

(長くないか?!)

そしてカードははじき出された。


NO.16 THE TOWER (塔) 正位置


「なんだこれ、どういう意味だ・・・”落ちるな注意”か?」

二階堂は出されたカードを見てその絵柄の意味があまり理解できなかった。

”えっ、二階堂さんそれってもしかして・・・・”

省吾が何か言おうとした矢先、二階堂はそれを制止した。

「待てっ!!何か聞こえる・・・」

二階堂は何か気配を感じ、耳を澄ます。

「・・・なんだ、人の叫び声?」

オオオオオオオオオオオォーーーー


”しかし、こちらのモニターでは近くに生体反応は出てないぞ”

南山がモニターで確認するが反応は出ていなかった。

「いや、だんだん大きくなって近づいてくる。どこだ?!どこからくる!!」

二階堂はぐるぐる辺りを構えながら確認するがそれらしい者が迫ってくる様子は確認できない。

「くそっどういうことだ!!」

オオオオオオオオオオオォーーーー


目視で確認できぬまま声だけが限界まで近づいたとき、二階堂のすぐ2m先にある壁のドアがせり上がり

兵が全速力でかけてきた。

(!!)

「オオオオオオオオオオオォーーーー!!!」

銃を構えるが、それよりも素早い兵は二階堂の目の前で跪くようにかがみ、そのまま太ももに圧力式の注射器を突き刺した。


「んきゃあああああああああああああああ!!!!!!」


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