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1_32 文屋


二階堂は雄たけびを上げながら、横一列に寸分の狂いも無い行進で前進するムカデ班に向って武器を構える。

ぼやける視界の中、自身の持つ武器の詳細すらわからぬままとりあえずは銃と同じようなドットサイトを覗いて

正面の文屋の頭に狙いを定める。

(くそっ、もうどうにでもなれ!)

二階堂は定まった頭部に目掛けておもむろに引き金を引く。

バシュン!

反動は無いものの凄まじい音と共に弾のようなものが射出される・・・が。

カランッ。

その弾のようなものは僅か4~5mも飛距離を伸ばさないままに地面に落ちた。

(飛ばない!やはり、ここは今重力が上がっているのか?・・・これは、針か?)

落ちている物を見ると重力によって直ぐに落ちたそれは、長さ10cm、直径は1mmも満たないほどの針であった。

「フフフ、二階堂君、訳の分からないものを訳も分からないうちに使うものではないぞ!

”針銃”は小型サイズは10m、この重力下では有効射程はよくて3mだ」

文屋は前進しながら目の前の滑稽な光景に無い笑みを浮かべた。

「クソックソックソーーーーーーーーーーー!!」

二階堂はその針銃を見て射出スライドが飛び上がって止まっていることから一発手動装填式である事を見抜き、

すぐさまスライドを弄って次装填をする。

(間に合え!)

二階堂の目前まで迫った矢先、銃を構えた途端それは二手に分かれた。

「!!!」

目で追うその先はその二手は、三手に、やがて四手に。

ともすればまた二手に繋がり、また1列に戻った。

「諸君、2号形態だ!!」

文屋の号令と共に一列だったそれはまるでプログラム制御されているかのようにやや斜めに陣形を取りながら行進した。

「うううぉぉおぉおおおお!」

目で追いながら必死で銃を構え、標的がサイトにあったと同時に撃つものの彼らムカデ班に当たることはない。

その時、二階堂の後方からいきなり威勢の良い発声が出る。

「万歳―――――!!!」

「ぐぅぅうぅううううう!!!」

ムカデ班の一人が行進しながら二階堂の背中を切りつけた。

二階堂は事前に察知し、何とか深い傷は免れるものの切られた傷からは灼熱の様な熱さと痛みが伝わる。

「万歳ぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

「万歳ぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

「万歳ぁぁぁぁい!!」

「オオオオオオオオオォ!!!やめろぉおおおおお!!!!」

万歳と言いながら兵たちは次々に行進しながら二階堂に小型ナイフで切りかかっていった。

二階堂は重力によって重たくなった身体を必死に動かしながら回避行動を取るが全てとかわすことが出来ずに

身体のあらゆる所を切りつけられる。

「どうした二階堂君!貴様それでも軍人か!!」

「ぐ、軍人じゃね―よ!クソがっ!!!」

「ハハハハハ、そうであった。一同、通常行進に移行!」

「了解しました!」

文屋の号令と共に再びムカデ班が横一列に戻る。

今度はそのまま正面を向きながら、横に動き出す。

壁に映る影はまるでムカデがゆっくりと地面を這う様な動きを見せた。

「これが我らムカデ班の真骨頂よ!二階堂!」

「うううううぅぅぅぅ!!」

正面を見ながら、横へと巧みな行進で移動してゆくムカデ班。

もはや二階堂は全身の切創から血を流し、身もだえしながらその動きを凝視することしかできなかった。

”二階堂、待たせたな!”

「南山・・・いまさら、どうしろって言うんだ・・・」

半ばあきらめを決めた二階堂を激励するかのように省吾が言う。

”二階堂さん、今奴らをモニターから得られる情報で可能な限り分析しました。

いいですか二階堂さん、そいつらは全員マシンです!担いでいるアンテナは全て文屋の脳波をくみ取る装置で

全員が文屋の動きや指示に連動しています!”

「全員・・・マシンだと・・・」

”その通りだ二階堂、ここにいる人間はお前と文屋の二人だけだ。兵に見える”それ”は全て分野の操る人形よ!”

「人形」

二階堂の瞳に僅かだが生気が宿りだす。

”文屋です、文屋の担いでいるアンテナのバックパックか文屋自身を何とかすれば勝機はあります”

「だが・・・一体どうすれば・・・あいつは直接俺には向かってこない、兵がいたずらに斬りつけてくるだけだ」

すると南山は何故か自信ありげに二階堂にある提案を持ちかける。

”おい二階堂、”あれ”だ”あれ”。昔レクのとき二人で”あれ”やったろう!あの作戦だ、あの作戦でいけ!”

「昔・・・”あれ”だと、あれ・・・ああ、あれか!あれってクソッあれも新入隊員歓迎会の時にやる奴じゃないか」

二階堂は南山の提案に覚えがなかったが徐々にかつての記憶が蘇ってくる。

(そうか、昔、南山とよくやったっけ・・・)

二階堂は次第に脳裏が鮮明になり、やがてはっきりと思い出した”あれ”を実行することにした。


「さあ二階堂君!そろそろ終わりにしよう。加速するぞ!」

「了解しました!」

一同の動きが速度を上げる。

動きそのものは変わっていないにもかかわらず、その床を滑走する速度は徐々に速度を上げてゆく。

やがて、それは兵たちの残像を生み出すほどの勢いになった。

「さぁ最後だ!二階堂!さらばだ!」

文屋がそう言った矢先に二階堂はいきなり奇声を上げた。

「ぎゃぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁああああああ!」

「?!」

二階堂はそのまま身震いして受け身も取ることなく地面に前のめりに倒れこんだ。

「な、まさか?!致命傷は避けていたはず、どういう事だ!」

ムカデ班は一斉にその動きを止める。

文屋が不思議に思い、ゆっくりと二階堂に近づく。

「まさか貴様、死んだのか?」

二階堂はうつ伏せに倒れたままピクリとも動かない。

(???)

二階堂を最大限警戒しながら投げナイフを両手に構え、近づく。

(死んでるのか・・・・?瞳孔が開いたようだ・・・・)

文屋はこれまで幾人もの死体を見てきた。

二階堂の”それ”もまぎれもなく絶命した表情そのままだった。

その時、文屋にある違和感が生じる。

(なんだ、何か変だ・・・この違和感・・・・・・・・・・)

(・・・手に何も持っていない、渡した武器はどうした?!)

バシュン!

小気味いい発砲音が一発辺りに鳴り響く。

(!!!)

文屋は喉が焼けるのを一気に感じた。

自身の喉を摩る、するとそこには一筋の針が喉の頸動脈に突き刺さっていた。

一気にあふれ出る血しぶき。

二階堂は武器を持っていない、にもかかわらずなぜ自分は撃たれたのか。

文屋は痛みと崩れ行く身体を必死に支える中、ふと前を見るとその答えがあった。

「驚いた・・・・・」


二階堂の足が銃を構えて文屋に狙いを定めていた。

二階堂は戦いの最中いつの間にかコンバットシューズを脱いでおり、裸足だった。

そして倒れこみ、近寄ってきた文屋が自身の上半身に注目するスキを狙い、

足元に落とした針銃を”足”で拾って、”足”で打ったのである。

「笑える・・・なんて長い足指なんだ・・・だがそれも・・・帝国軍人よ・・・・」

言い放った瞬間に文屋は倒れこんだ。

それと同時に兵達もまるで電源が切れたかのように一斉に動きを止める。

二階堂はかつて新入隊員歓迎会の時、急に死んだふりをして注目を集める最中足でクラッカーを鳴らしていたのを

思い出したのである。

そして自意識過剰ぎみの文屋になら通用するのではないかと。

「・・・は・・・は・・・は、どうだ、ざまーみろだ」

捨て台詞を吐く二階堂、南山はひとまず安堵の溜息をつきながら言う。

”まったく・・・いつみても気持ち悪い足の指だぜ”


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