表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

キッカケを作りに

 朝の衆議院第一議員会館である。

カラスがハトを追いかけ回してるいる。

十一階の廊下・・・。

女事務員(一般職員)が、小冊子を台車に乗せて押して行く。

各議員事務所のポストに小冊子を投函して行く。

『金井博康事務所』のドアーが開き、松永さんが投函書類(ハガキ・封書)を持って出て来る。

 「ちょっと投函して来ます。電話、よろしくお願いしま~す」

結城の声。

 「アイヨー」

応接室。

結城が日経新聞を読み終えてテーブルに置く。

両手を大きく上げて、欠伸アクビをする。

 「ア~~ア」

私は熱いお茶に息を吹きかけて啜っている。

コーヒーを一口飲んで結城が、

 「 ・・・良かったな」

 「はあ?」

 「戸倉の心臓が治って」

 「・・・はい」

 「あのカアチャン、何か言ってたか」

 「あらためて『お礼』に伺いますと」

 「お礼に?」

鋭い目で私を見る結城。

 「何か?」

 「いや、何でもねえ。ちゃんと報告しろよ」

 「えッ?」

私は少し考えて、

 「・・・はい」

 「さ~て、残りった券でも売りに行くか」

 「えッ! 本当に売りに?」

 「うん? 何かおかしいか?」

 「終わった勉強会のチケットなんて売れるのですか?」

 「分かんねえ。・・・ただ」

 「ただ?」

 「きっかけには成る」

 「キッカケ?」

結城が奇妙な話しを持ち出す。

 「おい、そこの新聞掛けに掛かっている日経を持って来い」

 「え? はい」

私は束ねられた日経新聞をテーブルに置く。

 「株式欄だけを一週間前から見るんだ」

 「はい。・・・」

 「建設株!」

 「はい」

 「その中で上がり下がりの激しいモノ」

 「・・・あ~あ、コレかな?」

 「それから自動車株」

 「はい・・・」

 「それからIC関連、精密機器!」

 「・・・」

 「今日は土建屋から廻ってみようか」

 「ドケンヤですか」

結城はニヤけた笑いで私を見た。

 「何かおかしいですか」

 「なんでもない。いなヤツよのう。じゃッ、今日はその土建屋サンを揺さぶってみよう」

 「揺さぶる?」

 「民間への挨拶廻り(営業)だ」

 「 ああ、そう云う事ですか。そうだッ! それから地元で運転中、本人(金井代議士)から『こんな名刺』を渡されました」

 「こんなメイシ? どんな名刺だ・・・」

私は背広のポケットから名刺入れを取り出し、中から先生から預かった名刺を結城に渡す。

結城はその名刺を見て、

 「枝野耀蔵? 後援会長の名刺だな」

結城は名刺の裏を見る。

裏書きがしてある。

 「・・・」

 「そんな事出来るんですか?」

 「うん? ・・・うん。ここに来た陳情は総てやらなくっちゃな。ああ見えてもオヤジは副大臣だ。出来ないものはないと信じている。それに、この名刺の依頼者は博康会の後援会長だ。息子の『裏口入学』ぐらい何とかしてやらねえとな」

 「早稲田大学って文豪(金井文豪・先生の息子)さんも早稲田卒だそうですね」

 「オメー誰から聞いた」

 「博子さんからです」

 「ヒロコ? ふ~ん・・・まあ良い。コレは後で作戦を考えよう。いずれにしても、バッチリ放り込んでやる」

 松永さんが事務所に戻って来る。

 「すいません。投函口の所で柿坂先生のミッちゃんと会っちゃって。何か電話有りました?」

応接室から結城が、

 「無いよー。あ、俺達ちょっと出かけて来る。後で電話入れるから」

 「分かりました」

 「おい、行くぞ!」

 「えッ、もうですか?」

 「バカ野郎、釣りと行商は早く行った方が大物をゲット出来るんだ」

 「ギョウショウですか?」

 「そうだ。偉い奴らはスケジュールが詰ってるからな」

 「あ~あ。そう云う事ですか。勉強に成ります」

 「おい、券を忘れるなよ。終わっても、三ヶ月は撒き続けるんだ。券がホットな内にな。ついでに顔売を売るん

松永さんがいつの間にか応接室に券を一束(五十枚)持って来る。

テーブルに置きながら、

 「そのキッカケで、結構売れるんですよ」

私はテーブルの上の券を見詰めていると、

 「おい! 何、見惚ミトレれてるんだ。早くカバンに入れろ。今日はそれを全部置いて来るからな」

 「はい」

 「俺は先に行くぞ」

 「あッ、ちょっと!」

私は急いでチケットをカバンに押し込んだ。

事務所のドアーが閉まる音が。

振り向くと結城が居ない。

私は急いで結城の後を追って事務所のドアーを開ける。

松永さんが私の背中に、

 「頑張って下さいね。土屋さんが頼りなんだから」

 「え? 野上くんは?」

 「野上さんは糖尿の検査入院ですって」

 「え~え! 嘘でしょう・・・」

ドアーがゆっくり閉まる。

                        つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ