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桜雲  作者: QP
3/5

第二話

午前中に掃除や洗濯などの家のことは済ましてしまう。昼時を少し過ぎたとき、ダイニングキッチンのテーブルで行儀が悪いと思いつつもラジオを聴きながら昼食としてカレーライスを食べていた。昨日の夕飯の残り物、よく言えば一晩寝かせた物だ。まだ結構な量が残っており、夕飯もカレーになるだろう。おそらく明日も、明後日もカレーになるだろう…。

カレーライスは嫌いでは無いが、作るとどうしても大量になってしまうのでいつも何日か続いてしまう。一食分だけ作るということも出来ないし、一気に大量に作ったほうが美味いし楽だからだ。それに僕は同じ年頃の男に比べたらあまり食べないほうなので余計に続く。そして続けば飽きる。


大地(だいち)がいればすぐに無くなるんだけど…)


食欲魔人の友人の食べっぷりを思い出しながら、胃の中にスパイスの効いたカレーを放り込んでいく。


『~早速ですが本日のお便りは、■■■県のチェリーさんからでっす☆~』


馴染みのパーソナリティのいつもと変わらないハイテンションな声が、流れてくる。女性の少し低めのアルト声が耳に心地よく、結構気に入っている番組だ。毎回欠かさず聞いているというわけではないが、かなりの頻度で聞いている。


(ってかチェリーって……もし男だったらそういう意味かな…?)


ラジオネームに何となく引っかかってしまった。この番組ではたいてい恋愛の相談なんかがよくされる。

もしも男だったら、僕みたいにあまり女性と縁が無い人の恋愛相談かもしれない、と少し興味をそそられてしまった。はた迷惑な悲しい同属意識だと思う。


『~「こんにちは!毎回番組楽しみにしています!」~』


『~こんにちは☆いつもありがとうね☆~』


『~「僕は今年高2のバスケ小僧です!」~』


(男か。なんとなく爽やかなスポーツ少年みたいな感じ?)


『~「だけど最近ある悩みがあって大好きなバスケにも身が入りません…相談にのってください!」~』


『~大好きなことにも集中できないなんて深刻だね~』


(やっぱり恋愛相談かな?)


『~さて相談内容は「バイト先の仲の良い女の子と、部活のマネージャーの二人に告られてしまいました」~』


(大地が聞いたら泣きながら叫びだしそうな羨ましい悩みだ。)

女性に縁が無いとか変な仲間意識を勝手に感じていたことに若干羞恥を覚えながらカレーを口に放り込む。


『~「しかも告白されたときに押し倒されてついエッチしちゃいました。」~』


「っんぐ!!」


『~「そのことが彼女にばれて険悪な状態になりました。どうすればいいでしょう」とのこと。…~』


「ぐっ……んぐえほっっごほっごほがはっがっ!!」


予想外の相談内容に思わずカレーライスの塊を飲み込んでしまい、思いっきり咽た。カレーが変なとこに引っかかってしまった。スパイスが鼻と喉に付いてなかなか治まらないし、涙と鼻水でえらい惨事になってしまった。かなり汚いことになっているだろう。辛いものが好きだからと、香辛料を入れまくったことが仇になった。



「ハアハアハア……んくっ」


水で流し込み鼻をかんでなんとか治まったが、顔を真っ赤にして汗をかきながら息を乱している姿は傍から見たら完全に不審者だろう。懸命に息を整える。


『~--だと思うよ。あくまで私の意見だけど役に立ったかな?~』


どたばたしていたせいで肝心のパーソナリティの応対をほとんど聞き逃してしまった。

しかし、日中の番組にしてはずいぶんオープンな相談内容だな、と思う。規制とかに引っかからないのだろうか。


(告白、しかも女の子に迫られる、か)

今の自分にはありえなく、想像さえ出来ないことを年下の、しかも高校生によって行われている現実に少しショックを受けた。


(諦めたはずなのに、ショックを受けるなんて…馬鹿だな)

自嘲的な笑みが浮かんだ。


『~――それでは今日のお薦め曲☆最近ひそかに話題になっている女性シンガー「さくら」の――~』


ガラッガラッ


「おーい!春華いるかー!?」

突然玄関の戸を開ける音のあとに、聞き慣れた声が聞こえる。

「入るぞー!」

返事をする前に声の主は家に入って来る。いつものことだから気にしない。


「なんだ、飯食ってたのか」

「うん、でももう食べ終わるところ」

言いながら、ラジオを消す。ちょうど曲が始まったところで、少し気にはなったが消すことにした。

目の前の人物は気にしないだろうが、人と話しながらラジオを聴くのはなんとなく嫌だった。それに僕は人の表情がわからない分、話声や動作の音に集中したいのもある。


「カレーか、…美味そうだな」

「…食べる?」

「おお!食べる食べる!いや~ちょうど小腹空いててさ~」

「大地っていつも小腹空いてない?」

苦笑しながら返す。

「ちょっと待ってて」

準備をしようと席を立つ。

「ん?いや自分でやるぞ」

「いいよ。俺ももう少し食べるし」

「珍しいな」

僕があまり食べないことを知っている彼は、どこか嬉しそうに言う。それに僕はまた苦笑で返した。


そのあと僕ら二人はカレーを食べながら雑談した。

大地は小腹を満たすために、3杯もおかわりし、冷凍しようと多めに炊いてあった米を全て平らげてしまった。予想はしていたけど相変わらずよく食べる。おかげでカレーが続くことは無さそうだ。


「今日夕飯どうするんだ?」

今昼食を食べたばかりなのに、もう夕飯のことが話題に出ている。

「いや、カレー食べようと思ってたけど…」

「もうたいして残っていないな。ちょうどよかった」

どういうことかと疑問に思い顔を向ける。

「いや、おふくろが家に食べに来いって言ってんだよ」

「ああ」

なるほど、と納得する。

大地の家とは昔から家族ぐるみで付き合っていて、夕飯をご馳走になることはよくあった。特にここ数年は、大地の母、清江(きよえ)さんが僕のことを気遣ってくれて頻繁に誘ってもらっている。あまり迷惑をかけたくは無いが、そんなことを言うと殴られる可能性があるのでご好意に甘えることにしている。


(あれ?ってことは待てよ?)


ひとつのことに思い当たり顔を青ざめる。

「どうした?」

そんな僕に気付いた大地が声をかけてくる。

「ど、どうしよう…カレーおかわりしちゃった…」


この世の終わりの様に声を震わせながらポツリとこぼす。


清江さんは僕が小食なのを知ってか知らずかものすごく大量のご飯を作り、それを半強制的に薦めてくれる。いや多分知っていて、心配してくれているのだろうと思う。

美味しいのだが半端ない量を食べきるのは難しい。残すのは嫌だし、ご馳走してもらっている身分で断ることも出来ず、半泣きになりながら食べきるのだ。前に一度食べ過ぎて倒れ、腹を壊してからは、さすがに少なくなってあまり薦められなくなったのだが、それでも僕にとってはかなり多い。


普段でも多いのに今日は遅めの昼で食べ過ぎてしまった。夕飯は苦行になるだろう。


「あー、無理すんな。食いきれない分は俺がもらうから」

そういえばそうだったなと言うように、大地がフォローしてくれる。

「う、うん…ありがと。おばさんには悪いけど…」


その後は食器を片付け、家の中を大地と一緒にチェックし、必要なものを確認してから買い物に出かけた。

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