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有磯の海~とるかとられるか~  作者: 逢七


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⑤有磯の海

ちょっと体調をくずして、投稿が空きました。

あと、2話!

「いやああああ、大河(たいが)あっ!!!!!」

闇を(つんざ)江梨花(えりか)の悲鳴に、俺ははっと意識を取り戻した。


眼の前に迫るは、道路の欄干だ。

な、なんで!?

がっと力任せにブレーキを踏めば、身体に強いGがかかった。


「あ、うあぁぁぁぁぁ・・!」

「大河あぁぁあ、やだやだやだ、止まってえぇぇ!!」

車内には蒼空(そら)と江梨花の悲鳴が膨れ上がる。


でも、車は止まらない。路面から溢れた雨が潤滑油の如く、滑り行く。

無駄なあがきと半ば諦めながらも、ぐいぐいとブレ-キを踏み続け、すぐに、すかすかと空押しになるのを感じた。


ついさっきまで見ていた『映像』が目の前の光景に重なる。

あれは、俺たちがこれからすぐに迎える未来でもあったのか?

・・・・・・もう、ダメだ。だって――――。


ざばざばと降り注ぐ雨、壊れそうなワイパー、ライトが照らし出す冷たいステンレスの欄干。――――そして、その上に浮かび立つ、一太(いった)と、一太の手を掴んだ母親らしき女性の姿。

もう俺の眼には、その姿も表情も、はっきりと見えているのだから。


女性は嬉しそうに微笑んでいる。

俺はぎりと唇を噛みしめた


きっと、これが『あの女』の望みなのだろう。

いつからか彼女の怨念にとらえられてしまった俺たちは、獲物の如く呼び寄せられて、そして『あの女』は、その瞬間を、いまかいまかと待っている。


――――そして、俺は大きく目を見開いた!!


一太!?

もう最後と思われたその瞬間、一太が、女の手を振り切って、俺の車に向かってきたのだ。


『一太郎!?』

女の口が叫んでいるのが見える。


一太の身体は、そのままするりとフロントガラスをすり抜け、俺の首にしがみつくと同時に、ぱっと開いたドアの外へと、俺は投げ出された。

そして俺の目の前では、欄干を裂いた車が、ドアを開け放ったままに、線状の雨が降る闇夜の空へと飛び出していった。

直後、ざんっという音が聞こえて、容赦なく俺を打つ雨が、全身をずぶぬれにしていく。





「あ・・・・、蒼、空・・・。・・・まゆこ、江梨花、・・・みんな・・・。」

茫然としたままに、声にもならない声でつぶやいた。


どうしてこんなことになったんだ? みんな海に、落ちて、しまったの、か?

俺の運転してた車ごと・・・?


風雨か、それとも荒波の音か――――

周りには、ごうごうとした音が渦巻いている。




「た、いがっ!!・・・たすけっ・・・」

そのとき耳に届いた微かな声。

「!!? 江梨花っ!?」

俺は這うように起き上がって、車が落ちていった壊れた欄干へと、がくんがくんと走った。


生きてる? 皆が!? そうだ、車のドアは、一太が開けてくれた。


雨で視界がけぶる中、風で大きく揺れる街路灯が照らす一画。

一縷の希望を胸に駆けつけた先には、斜めになった楕円径の欄干に捕まり、橋下へと手を伸ばす江梨花がいた。


「江梨花っ」

「あ、ぁ、大河あ!よかっ・・・・ねが、い、蒼空が! まゆこ、も!」


欄干の途切れた道路の端に跪いて、江梨花の手の先を覗く。

上へ上へと吹き上げる潮風が顔にばちばちと当たって、頬を伝った雨と共に、また海へと返っていく。

その落ち行く水滴の先、折れた羽のように広がるアルミの防風壁に絡まった黒いシートベルトに、さらに引っかかるようにして、だらんとぶら下がる蒼空らしき姿があった。


そして、その少し上、折れ曲がった欄干に掛かったバッグには、まゆこがぎゅうっとしがみついている。


ああ、ちゃんと、みんなが、いる・・・。

だけど、俺と江梨花では、どうやっても二人のところまでは行けそうにないな。

俺は濡れて震える手で、スマホを探り、今度こそはと祈って110番にかけた。



「はい、〇〇署。事件ですか?事故ですか?」

応答したのは、やけにのんびりとした年配の男性だ。


ああ、よかった、繋がった。

そう思うと、急に雨に濡れた寒さが身に染みて、唇が震える。


「じ、事故、事故です。」

「ああ? 事故? 場所は?」

「えっと、子知らずの、トンネルを抜けたところで、高架橋から、車が落ちて。 それで、友達も、欄干に引っかかってて、あの。」

「道路から落ちたぁ!? 高架橋ゆうたら、高速かいな。」

「違います。下道の・・。」

「海覗いて見ぃ? どんくらいあるがかの?」

「えっと、だいぶ・・・?」


・・・ああ、そうだ、落ち着いてみたら、ここは何度も通ったことのある高速道路の高架橋だ。

高速は通行止めで、俺たちは下道を通っていたはずなのに、とは思ったものの、今までの不可思議な出来事で、こういうこともあるのかもしれない、とどこか納得してしまう。


もう一度橋下を覗くと、暗く荒れ狂う波飛沫(しぶき)から、ごぅっと風が吹き上げる。

まるで、俺たちの車を飲み込んで、まだまだ足りないと言っている怪物みたいだ。


――――そして、その中心には、ぼうっと光る白い影!?

海面に浮かぶように立ち、俺たちを見上げている『それ』は、一太と手を繋いでいた女性だ!!


「ひ・・・・・!!!」

俺は、ばっと尻を引いた。

「おぉ~~い。(あん)ちゃん、どうかしたか?」

「は、早くっ! お願い! お願いします、助けてください!!」


どうしよう。待ち構えているのか? 俺たちを。


「分かったから。事故処理でトンネルにおるもんをすぐ向かわせっから。君は友達を励ましとるんだぞ。いいな?」


そうだ! 怖がってる場合じゃない!


「まゆこっ! 今警察呼んだから、もう少し頑張れ!!」

「う・・・、うん。」


俺の言葉に、細い声で返事をして、まゆこがバッグに絡みついた。






『――――あ、ああああああ』


なんだ――――!?

海上からぶわあぁっと吹き上げる風に混じる唸り声。

やばい!!


俺は必死に手を伸ばした。

「まゆこ、手ぇ、伸ばせるか?」

「む、無理だよ。」

まゆこはバッグに抱き付いたまま、ぷるぷると首を振る。


『――――あ、ああああ。どうして、わたしを置いていくの?』


瞬間、まゆこは声の先を見、ぎゅっと目を瞑って、ぶるぶると震える。

土砂降りの雨が、まゆこを溶かしていくみたいで、俺も背筋がぶるりと震えた。


「まゆ、こ。しっかりしろよ。もう少し、だからっ・・・。」

「・・・たい、が。たいがっ。・・・ごめん、わたしっ・・・。」

「いいから・・・!」

俺を見上げるまゆこの瞳から、ぶわぁっと涙が溢れ出す。


『――――あ、ああああ。わたしを置いて行かないで!』


「大河ぁ。・・・こんなことになっちゃって、ごめん。」

「・・・なんでっ? まゆこが、謝る必要なんて・・・。」

「そう、だよ、まゆこぉ! ぜっ、たい、絶対、助かる、からぁ。」

恐怖で欄干にしがみつきながらも叫ぶ江梨花の声で、目を見開いたまゆこの涙が、雨と共にこぼれ落ちた。

「・・・え、りか? ・・・ごめん、ねぇ・・!」


『――――あ、ああああ。わたしのあの人を取った女が、憎い。』


「江梨花に・・・、ひどい、こと言って、ごめん・・・!」

「う。うぅ・・・。いいよぉ・・・、私も、知らなくってぇ・・・、ごめん、なさいぃ。」

そう言って溢れた江梨花の涙も海へと吸い込まれると、また、ぶわあぁっと風が吹き上げた。


『――――あ、ああああ。どうしてっ!?』


急激に空気が冷えて、風向きが変わる。

山から吹き下ろす冷たい風が、俺たちを岸から引き剥がすかのようで、俺と江梨花は、持って行かれそうな身体を、必死に欄干にしがみつけた。


『――――あ、ああああ。』 

海面に白く泡波が立ち、白い女の影が彷徨っている。


『――――あ、ああああ。・・・一太郎!! 一太郎!? どこにいるの!?』

一太郎? 一太・・・のことか?


『――――あ、ああああ。一太郎! 一太郎!!』

「一太・・・くん?」

時折来る強い風に身体が大きく揺らされるのをなんとか耐えているまゆこの、か細い声が混じる。

「ね、え、大河・・・。一太くん、は、どこ?」




そう問われて、俺は、俺のすぐ横に、その気配が、強く漂うのを感じた。だから。


「一、太。」

呼びかけると、するりとその姿が形を成していく。

「うん、大河。僕は、ここにいるよ。」


俺の隣にまっすぐと立ち、最初見たのと同じ少し生意気そうな瞳で、険しい表情で、橋下をじいっと見つめていた。


「一太、お前・・・。」

俺の視線に、一太はくると向きを変え、にこりと微笑む。

「大河。僕、ちゃんと大河を守るからね。だから、僕が『お母さん』のところに行くから。だから、大河はちゃんと『お家』に帰って。」

「一太・・・?」

・・・どうして、そんなことを言うんだ?


「一太くん・・・。」

一太は、それからすぐにふわと宙に浮かんで消え、橋下から見上げるまゆこの横に現れた。――――そして、ぐるりと腰に抱き着いた。


「お姉ちゃん――――。ごめんなさい、僕、謝らなきゃいけないんだ。」

そうして一太は無表情に、その白い掌を、まゆこの下腹に当てた。

「この赤ちゃんは、代わりに連れて行かなきゃいけない。」


「・・・赤・・・ちゃん?」

一瞬で顔を青ざめさせたまゆこは、空中でもがき始めた。

バッグに絡めた手が外れないようで、必死に身を捩る。


「まゆこっ、だめ! 落ちる・・・からぁっ。」

「・・・いや・・、いやよ!一太、くんっ――――!!」



『――――あ、ああああ。一太郎! 一太郎―――!!』

深い深い水底から、女の嘆きが聞こえてくる。


「『お母さん』が、呼んでる。」

そう言って、一太は静かに目を伏せた。

「ごめんね。お姉ちゃんの代わりに、僕がちゃんといるから。だから、一緒に行こう。」

「あ、ああっ・・・!」


ふと気付くと、もう白い影にしか見えない一太は、もうひとつの小さな白い影を大切そうに胸に抱いて、ゆらりと消えていく。


「いやっ、いやよ! 待って!! 私からもう、とらないで! だったら、私も行くから! だから!」

まゆこが悲痛な声で叫ぶと、一太は悲しげに笑い、そして消えた。


『じゃあ、またね、大河。』俺の頭の中に、そんな声を残して。




一太・・・?

だから、俺は遅れてしまったのか・・・。


「まゆこっ!?」

と叫ぶ江梨花の声に。


手を伸ばした先では、バックの持ち手が切れたまゆこの身体が、ゆっくりと落ちて行く。

深い、深い、暗い――――黒い海へと。




ざん、と無情な音がして、そして、ただ一瞬、ぴかりと、小さな翠色が輝いて

――――そして消えた。








・・・・・・・・・・・・・・

ようやく、トンネル内から聞こえてくるパトカーの音。


黒いアスファルトの上でざりっと握りしめた砂まみれの拳に、ぽたりぽたりと止めどなく滴が落ちる。


ああ・・・、いつの間にか、もう、雨は止んでいたのか。



「あ、ああああああ!!!」

はるか遠くで、パトカーから降りる人々の声に混じって、江梨花の慟哭が、聞こえる。



ざざん、ざざん・・・。


『―――あ、ああああ。一太郎!! どこなの!?』

『―――お母さん、大丈夫ですよ。僕はここです。』

『―――あ、ああ。・・・一太郎! 一太郎!!』

『―――大丈夫です、お母さん。僕と一緒に行きましょうね。』


ざざん、ざざん・・・・・・。

俺の耳には、ずっとずっと、引いていく波の音が聞こえていた。






ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます!


蒼空が(影薄っ)どうなったか

一太の謎

などなどなど、顛末は次の最終話にて。。。


拾い切れない部分も出てくるかと思いますが、ご容赦くださいませ

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