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10_天使が妻になる

 

 そうして北方に遠征した俺たち討伐隊だが──結論から言うと、相当手こずった。死者こそ出なかったが、ケガで離脱したメンバーは何人もいた。

 くそっ、何が万全だ……!


 魔犬シュヴァナはかなりしぶとかった。

 死にそうになると、転移魔法で森の奥へ逃げやがる。そしたらまた一から探索と追跡だ。

 神出鬼没なクソ駄犬は、自分を探し回る俺たちを嘲笑うかのように、人里を襲ったり、討伐部隊に攻撃を仕掛けたりする。そして森に逃げ込むのだ。

 そんな死に物狂いの鬼ごっこを数週間続けたのち、俺たちはようやくシュヴァナを仕留めるのに成功した。


 何重にも罠を張り、シュヴァナから魔力を奪う。魔法を使えなくさせてから、足の健を切って動きを封じる。

 最後は俺の分身魔法を囮にして、俺含めた魔法師が全力の攻撃魔法を叩き込み、騎士が突撃して、やっとシュヴァナの息の根を止めた。


 全力を出しきってよれよれの討伐部隊は、近くの町で一日休息を取り、やっと王都に凱旋したわけだが……

 なぜか俺だけ、とんでもなく厄介な事態に陥っていた。



 ◇◇◇



「……このお茶、とてもおいしいわ。ねえライカ、おかしもたべていいのよ?」

「…………ありがとうございます」

「ふふ、ライカって、ほんとうにすてき」

「…………おそれいります」


 ちんまいガキ……もとい王女が、俺をうっとり見つめて、ため息をつく。

 討伐部隊が王と謁見した際に、俺はこの王女にどうしてか気に入られ、何かと王宮に呼び出されていた。

 勝手に婚約とか言ってるが、冗談じゃない。この王女はたったの六歳だ。俺はロリコンじゃねえ。つうか俺はルーナ一筋だ。

 しかし相手が相手だけに、邪険にするわけにもいかねえのが最悪だった。


 俺は、後見人のアドバイスを受けながら、苦行のような呼び出しに必死で耐えた。

 後見人によれば、王女は以前もこうしてお気に入りを振り回すことがあったらしい。「すぐに飽きて他に目移りするから、暫く耐えろ」と後見人は言う。


 そのついでに、「深月の聖魔導師の真実」も教えられた。曰く、「あの二人は今、仮面夫婦だよ」、と。後見人としては、俺が王女の戯言を真に受けないように釘を刺したかったんだろう。


 だが、俺は元々孤児だ。父親はクソ野郎だし、身分違いの恋愛に夢を抱くような境遇じゃねえ。

 理不尽な呼び出しが重なって、限界を越えた俺は、後見人に不満を爆発させた。


「俺は王女になんかこれっぽっちも興味はねえよ。つーかいい加減、てめえらあのガキをちゃんと躾けとけ。迷惑すぎるだろ……!」

「同感だけど、僕以外の前でそれ言ったら不敬罪で捕まっちゃうからね。口を慎みなさい、ライカ」

「チッ……俺は早くルーナに会わなきゃなんねーんだよ……」

「僕も妻を愛してるから、君の気持ちはよく分かるけど、王女の機嫌を損ねるのは得策じゃない。暫く彼女に会うのは控えた方がいい。王族の気紛れは怖いよ、何をされるかわからないから」


 そう後見人に諭された。

 ……王侯貴族ってのは本当に厄介だ。そうして時間ばかりが無駄に過ぎていく。

 ルーナに会えるようになった頃には、前に会ってから二ヶ月以上過ぎていた。



 ◇◇◇



 やっと。やっとだ。

 王女の興味が俺から逸れて、ルーナに会ってもいい、と後見人から許可が出た。

 俺はその足でルーナの元に向かい、配達途中の彼女を発見して呼び止めた。だが、


「や」

「や?」

「やだぁぁぁああぁっ!!」


 顔を合わせた瞬間、なぜか全力で逃げられた。何でだよ。だが、逃げられたら全力で追いかけたくなるのが、人の性じゃねえかと俺は思う。


「待てつってんだろクソがァ!!!」

「きゃぁぁああ!!」


 魔法を操って、ルーナの前方に一瞬で移動する。

 悲鳴を上げたルーナが、ほれぼれするような素早い身のこなしで横道に飛びこんだ。


「逃がすかぁぁぁッ!!!」


 俺も超高速の早口で詠唱し、渾身の分身魔法を発動させた。魔方陣が幾つも光った後に、俺の分身が三十体、ルーナを取り囲む。

 ──逃げ道を塞いで捕獲には成功したが、当のルーナにはめちゃくちゃキモがられた。何でだよ、あの魔犬を倒すのにも役立ったんだぞ。誉めろよ。



 ◇◇◇



 まあそんなこんなで、俺は一世一代の告白をして、ルーナの婚約者になった。ルーナも俺を好きだと言ってくれた。


 予定では、魔法師として一人前になってからプロポーズするはずだったんだけどな。順番が狂ったが、上手くいったのでヨシとする。細けえことは気にしねえ。


 求婚の時は、先にルーナに告白され、俺の頭の中で、教会の鐘が再びリンゴーーーーンと鳴り響いていた。天にも昇る心地とはこのことだ。

 舞い上がりすぎて、あん時の会話はほとんど記憶にない。ルーナがくすくす笑ってたのは覚えてるけど。

 多分俺は、また余計な一言を付け加えたんだろうな。ルーナが笑って許してくれて本当に良かったぜ……


 イヴァンの野郎は、俺が会いに来る前にきっちりフラれたらしい。だが、あいつは諦めてない。事あるごとに、ルーナに「僕にしたら?」と言っているようなのだ。

 冗談めかしてるが、おそらく半分は本気だ。全く油断ならねえよな……!



 ◇◇◇



 それから一年後。

 俺は王宮魔法師の試験に受かり、諸々を整えて、ついにルーナとの結婚式を迎えた。

 結婚式のために着飾ったルーナは、世界一、いや人類史上最高に綺麗だった。俺なんかがこんなすごい美人と結婚していいんだろうか……と頭を抱えてたら、


「ねえ、似合わない、かな……?」


 とまた誤解させてしまった。

 くそっ、俺はなんてバカなんだ。花嫁にこんな不安な顔をさせるなんて。


「……この世で一番、くっそ綺麗だ。直視すると心臓がもたねえ。俺は今日死ぬかも……」


 呻くように言うと、ルーナは瞬きしたあと、「好きな人が結婚式で死んだら困るから、長生きしてよね」とくすくす笑った。

 それが何とも幸せそうで、俺はマジで死ぬかと思った。




 ルーナといると最高に幸せだ。

 なのに俺は、結婚した今でも時々言い方を間違える。バカすぎる自分が本気で嫌になる。

 それでもルーナは、「かわいいって言ったら許す」と言ってくれるから、「……最高にかわいいなゴルァ!」と返す。


 密かに練習して、素直にルーナをかわいいと言えるように努力はしてんだ。

 練習してたら、いつかは照れずに言えるようになるだろうか。

 もし言えるようになったら、ルーナがばあちゃんになっても、俺は何度でも言ってやる。かわいい、とか、お前は天使だって。


 そうして俺は、一人前の男として、生涯ただ一人の妻を愛し、何物からも守って、幸せな一生を終えるんだ。



これでライカ視点はおしまいです。

最後までおつきあいありがとうございました!


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