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狩人の夢




春の温かな日差しの中、女が目覚める。


「………う。」


真っ白なガーデンテーブルの隣、椅子の上で転寝していたようだ。


目を開くと輝くばかりの蒼天セルリアン

多くの詩人に謳われたアーンスローの空だ。

英雄トゥルピウスも、こんな空の下で目を覚ましたのだろうか。


周りを見渡せば、生け垣が見える。

涼しげな噴水、バラの花壇、季節の花々がこじんまりと咲いている。

清々しい風が今、胸に飛び込んで来た。


「…ここは?」


振り返るとヴィクトリア王朝風の背の高い家が建っている。

二階建てで深い緑の屋根に赤茶色のレンガで造られている。

初めて見るのに、どこか懐かしい。


訳も分からないまま女は、その家に入っていく。


扉を開けると感じのいい玄関に入る。

落ち着いた雰囲気で、可愛らしい。

小さな油絵、趣味の良いシューズボックス、花を活けた花瓶、クローバー状のタイル。


続いて向かって左の扉を開けた。


中は、休憩室ラウンジになっている。

多角形の張り出し窓が東と南側にあり、陽光が多く射している。


部屋の北側には、立派な暖炉。

ボトルシップを満載した棚がある。


「………誰もいないのかしら。」


女は、そう呟くと今、入って来た扉から廊下に戻る。

そのまま北に向かって進み、向かって右手に見える扉に手をかけた。

そこから人の気配を感じたのだ。


「ん?

 ああ、来たのか。」


扉を開けると、なれなれしい女の声がした。


そこは、何かの工房だった。

たくさんの工作機械が並んでおり、工具や鎖が壁にかかっている。

そして部品と廃材、油やグリスの瓶が木箱に満載され、そこら中に積み上げられていた。


機械油特有の匂いが充満している。

天井の明り取りから日が射し込んでいた。


その日差しの向こう。

作業台の前に人が立っていた。

工房の職人だろうか?


「すいません、ここは…。」


女の質問を工房の職人は、遮った。


「出来てるぜ。

 さっさと起きちまいな。」


そういって職人は、部屋に入った女に武器を手渡そうとする。


「ほいっ!」


職人らしい女は、モップのような頭をしている。

化粧っけのない顔は、それでも可愛らしい少年的な印象があった。

上下で一体化した作業服、つなぎを着て、わざと胸元を開いている。


部屋に入って来た女───エルヴィーサは、目を丸くしていた。

何のことなのか。

状況がまるで理解できていない様子だ。


つなぎ姿の女は、勝手に話し続ける。


「銃の方は、全壊(おねんね)だァ。

 もともと中古だったしな。

 攻撃を受けた所も悪かった。


 悪いが予備の短筒(ハンドキャノン)しか整備できてない。

 他のは、随分とほったらかしだ。

 その代わり動作は、保証しとくぜ。」


つなぎ姿の女は、仕掛け武器に続いて大きな銃もエルヴィーサに手渡す。


「な、何の話…?」


戸惑う”首切り人”エルヴィーサは、つなぎ姿の女に訊ねる。


「ここは、どこ?

 あなたは…?

 これは、何なの?」


その問いにつなぎ姿の女は、腰に両手を当てて答える。


「ここは、狩人の夢。


 私は、カタリナ。

 あんたの専属の職人で、この工房を任されてる。


 こっちが仕掛け武器。

 でェ、こっちが獣狩りの銃さ。

 弾は、ほら…ここだ。」


そういってカタリナは、エルヴィーサの腰を、ポンポンと叩いた。

そこには、水銀弾が収められている。


「そしてこの狩人の夢の主は、あんただ。」


「狩人の夢?」


エルヴィーサは、嫌な汗を浮かべている。

何が何だか分からないという表情だ。


彼女の様子にカタリナは、少々いぶかしんだ。

しかし特に問題なさそうに


「ちょっと獣の血に中毒あたったみたいだな。

 まあ、狩人だから平気だろう。

 なァに、心配することねえわ。」


と簡単にいった。


「少しの間、混乱してるだろうが。

 平気よ、平気。

 あんたは、こいつを振り回しゃ良い。」


カタリナは、そういって仕掛け武器を指差した。


見慣れない金属製の悍ましい道具。

エルヴィーサは、嫌な物を見るような視線を走らせた。


これで誰かを殺せ、と?

嫌な気分になる。

彼女は、急に吐き気がした。


ノコギリと多機能ナイフを足した鋼の化け物だ。

酷く汚れていて尋常な使い方をされて来なかったことを物語る。

頭が働かないが、これが獣狩りに使うのだということは分かった。


「…その…。

 もっと詳しい説明を…。」


エルヴィーサが質問する前に強烈な睡魔が押し寄せた。


「………うっ。」


頭が痛い。

泥に吸い込まれるように抗い難い眠気が始まった。

こんなのは、初めての経験だった。


「ほらほら。

 もう起きる時間だぜ。」


カタリナは、膝を着いて倒れ込んだエルヴィーサに話しかけ続ける。


「ああ、ケツが痒い。」


しゃがんだカタリナは、そういって手を後ろに回す。

エルヴィーサは、必死に助けを求めるように両手を動かしていた。

だが、もう意識が遠のく。


「覚えときな。

 何をしようが、何処へ行こうが。

 あんたは、ここに帰ってくるんだ。」


カタリナの言葉がなんとか聞こえる。

そんな微かな意識も断ち切られた。


やがてエルヴィーサは、ストンと眠りに落ちた。




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