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狩人の夢の家




巨大な石の橋。

その下に張り付くように隠れ家があった。


「あ…っ!

 おっとと…。

 あ、わわわ…!」


ここが血塗れ(ブラッディ)ミュラの家だ。

その癖に恐々と梯子はしごで隠れ家に降りていく。


狩人の夢。


それは、時空連続体の外の外、さらなる深淵にある。

沸騰する混沌の最奥。

すべての場所、すべての過去、現在、未来の時間が一つとなる。


狩人の夢は、全てが同質にして異なる存在である。

全ての狩人が、この場所に至る事が出来る。

そして、また一人として同一の場所でまみえることはない。


「わーわー…!」


狭い足場を渡り、ミュラは、隠れ家の扉の前に立つ。


見渡す景色を色のない霧が包んでいる。

頭上の石橋では、車と人が途切れることなく往来し続けている。

彼らは、霧から現れ、また霧の中に消えていく。


ミュラは、この上の人々と会話したことはない。


「ただいま戻りました。」


扉を開けると中は、鎖と金属パイプ、スイッチと計器が並んでいる。

まるで潜水艦の内部のようにハンドルバルブが壁から突き出していた。

真鍮製の家具は、独特の意匠であり、同一の職人の手になる作と知れる。


「お帰りなさいませ、ミュラ。」


振袖に袴、脚にはブーツ。

女学生姿の黒髪の若い女がミュラを出迎える。


その顔立ちは、異相であり極東の種族であることが分かる。

ミュラの持つ狂血の刃の産となる国。

東方の黄色い肌をした民だ。


「つ、疲れました。」


ミュラは、そう言って女学生姿の女に刀と銃を預ける。

そして逃げるように奥の居間リビングに向かう。


居間には、黒髪の若い男が本を読んで寛いでいる。

彼は、異邦人ではなくミュラに近い人種らしい。

が、一等人種ファーストボーンではない。


「おや。

 無事に帰って来た。

 最近は、手術室の世話になることが少なくなりましたね、ミュラ。」


若い男は、そういった。


爽やかな雰囲気の美形の優男だ。

サッパリした格好をしていて白いシャツ、黒いズボン。

声も柔らかく、凛々しくもうっとりする物腰をする。


「怪我がなくて何よりだ。」


微笑む男にミュラは、ソファーの上から返事する。


「もう、痛いの嫌です…。」


ミュラがクッションの上で猫のように身体を捩る。


飛び出るほど大きな乳房がたわむ。

男たちが夢見る細い腰。

そして肥りじしの臀部や太腿がソファーの上に無防備に乗っかった。


さっきの若い女もやって来てミュラの隣のソファーに腰かけた。

武器は、工房の職人に預けたのだろう。


「レン!」


ミュラが若い男に叫ぶ。


「…これから獣狩りに行くんです。

 手術室で待っていてください。

 ………できれば、貴方の仕事を作りたくないけど…ああっ。」


そういってミュラは、自分の顔を両手で抑えた。


「ミュラ。」


隣で女学生姿の若い女が声をかける。


「狂血の聖女である貴女に、私ができることはないのだけど…。

 …でも、何か。

 本当に、何かできればいいんだけど…。」


ミュラの血は、常のものではない。

故に狂血と名付けられた。


狂血は、接触即死の効果を持つ。

また人が獣となる現象、獣化の感染を退く。

まさに狩人として天性の素養といえる。


しかしそれは、人体の徒長である。

通常のそれではない狂血は、通常の機能を欠いているのだ。


「でも、そうですよね。」


ミュラは、ソファーの上で四つん這いになって真剣な顔で女を見る。


「本当に、お(トミ)さんが私にできるのは、温かい言葉をかけることだけですよね。

 …じゃなくてっ。」


ミュラは、なんとか上手く気持ちを使えようと悪戦苦闘する。

黒髪の異邦人、お富は、微笑んでいるだけだ。


「ふふ…。」


「違うんです!

 お富さんは、良き理解者として…。

 甘えられる存在というか…。

 私は、お姉さんみたいに感謝してますっ!」


「ミュラ。」


お富は、優しくミュラに声をかける。

それでもまだお富にミュラは、謝った。


「…ごめんなさい。

 私が、当たり前の普通の狩人じゃなくて…。

 もし、狂血じゃなかったらお富さんの…。」


「ミュラ、武器の方が終わったみたい。

 目を覚ます時間よ。」


「…ううっ。」


ミュラは、お富に連れられて工房に向かう。

レンは、本を本棚に戻した。


「じゃあ、僕は、手術室で準備する。

 でも、無事を祈ってるからさ。」


「…す、すいません。」


ミュラは、レンに頭を下げる。

そして扉を開け、工房に向かった。


工房では、髑髏を模した鉄仮面を被った黒い長身の男が金槌を振るっていた。

瞳には、溶岩のような真っ赤な火が灯っている。


彼自身の体温で狂血の刃は、鍛え直されているのだ。

火の粉が舞い、毒々しい煌めきを鍛冶屋は、まとう。

まるで地獄の悪魔だ。


「シャアァァァ…ッ。」


髑髏の鍛冶屋は、長い長い腕で刀を仕上げる。

仕掛けを戻し、こしらえを作り、作業を終えた仕掛け武器をミュラに手渡した。


「シュー――…ッ。

 シュー――…ッ。

 シュー――…ッ。」


「あ、ありがとうございます。

 いつもお世話になって…。」


恐る恐るミュラは、黒い腕から武器を受け取って礼を言う。

しかしいつも言い終える前に髑髏の鍛冶屋は、暗闇の奥に向かうのだ。


「ミュラ殿。」


また別の工房の職人が現れた。


彼女も、また異邦の装い。

白衣はくえに緋袴を穿き、いわゆる巫女装束だ。

しかし頭部には、牛のような角がある。


「受け取ってくれ。」


角のある女は、整備し終えた銃をミュラに渡した。


「たまには、手持ちの水銀弾を撃ち尽くすぐらい使ってくれ。

 のすることが無くなってしまうからな。」


「は、はい。

 できるだけ、がんばります…。」


恐縮するミュラに角のある女は、困ったように頷いた。


「無理はせぬことだ。

 …思い出せるか。

 普通は、一度死んだらしまい故な。」


支度を終え、ミュラは、寝室に向かう。


寝室には、ベッドが3台。

お富と角のある女のベッドもあった。


「うう…。

 やっぱり、これも慣れません。」


武器と銃を両手に。

また全身に水銀弾と火薬、狩り道具を携帯する。

そして靴を履いたままベッドに横になる。


「ミュラ。

 手を離したら…。」


「はい。

 分かってます。」


お富に釘を刺され、ミュラは、硬く目をつぶる。


どんなに寝心地が悪くとも。

どんな状態であっても、ストンと眠りに落ちる。

狩人とは、そういうものである。




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