閑話.アリーチェの場合
しばらくぶりです。
ようやく更新出来ましたが、閑話です。
第一王子のユーリウス様との初めてのお茶会後――
三日後には普段の生活を送れるようになったわ。
ふふっ、さすが私。
リリアーナ様やあの子なんてまだ意識が戻らないっていうの。
殿下の魔力に当てられたせいで、私達は意識を失ったって聞いたけれど、つまり、彼女たちは弱いって事よね?
あの子――ヴァルモア侯爵令嬢。
不利に働くよう、我が家の手駒の侍女や衛兵に動いてもらわなくても良かったかしら。
でも初手が肝心よ。
いきなり横入りして来た十歳の子供。
魔力量が多く、適合属性も多いとかで、急遽婚約者候補に抜擢されたと聞いた時は、それほど危機感はなかったけれど、国王陛下に指名されての事だと知ったら、打てる手は打つべきだと思ったわ。
でも、本当にその必要はなかったみたいね。
リリアーナ様は田舎者だし、家格が同じ侯爵家だと言っても、その中でもランクがあるもの。
我がネーブル家は、王家の血を引く筆頭侯爵家。
血筋から言えばユーリウス殿下の花嫁には、私が一番ふさわしいわ。
年は二歳上だけれど、この程度たいした事ではないしね。
古くは他国の王族、近年は親族の公爵家からしか娶らなかった王家が、近親婚が続いた弊害を気にして、ようやく貴族家との縁組をしようというのだもの。
それならば王家の血も引く筆頭侯爵家令嬢である私でしょう。
候補者数名から選ぶなんて、きっと建て前よ。
「お嬢様、ご覧くださいませ、このドレス!」
「サファイアブルーと言えば、王子殿下の瞳のお色ですわぁ」
「年始のお披露目用に、第一王子殿下から贈られたのですもの、特別ですわぁ。さすがお嬢様!」
侍女たちのおべっかだと分かってはいても、悪い気はしないわね。
年始の王宮大舞踏会用に誂えたドレスは既に用意されていたけれど、ユーリウス殿下からの贈り物ならこちらに決まっているわ。
明るいサファイアブルーのイブニングドレスは、トレーンが長めな上に裾の生地がたっぷりと採られていて、ダンスでくるりと回転したなら流れるように裾が広がるでしょうね。
早速試着してみるとサイズもぴったり。まんざらでもないわ。
「どう? 似合うかしら」
「特別に誂えたかのようにお似合いですわ!」
侍女たちが誉めそやすので気分も上々。
一緒に届けられた宝飾品、イヤリングとネックレスを飾る宝石は深い青色。私の瞳の色ね。
やっぱり、私が特別。
他の候補者なんて目じゃないわ。
――そう思っていたのに。
意気揚々と年始の王宮大舞踏会に、お父様にエスコートされて待機室入りした私が目にしたのは、他の三人の候補者たちも、同じようなサファイアブルーのドレスを着ていた事実。
色の濃淡やデザインは違うけれど……。
私以外にもユーリウス殿下はドレスを贈っていたというの!?
そして、そう思っていたのは私だけではなさそうね? 皆一様にぎょっとしたもの。
疑問の答えは、ユーリウス殿下の筆頭侍従が持っていたわ。
「皆様、第一王子殿下からの贈り物を身に着けてのご参加、ありがとうございます。
それぞれ懇意にされているドレスメーカーに仕立てさせておりましたので、大変お似合いでございますね。
この度は、第一王子殿下の婚約者候補としてのお披露目でございますので、王妃殿下のご発案により揃いの色を纏って頂きました」
通常ならあり得ない色被り。
でも、王妃様の指示で敢えて、というなら文句も避難もされない、私達の批判も封じたという訳ね。
私もだけれど、皆、多少なりとも落胆している様子。
だけど、やはり一番この色が似合うのは私よ!
あら? そういえばあの子がいないわね。
「ヴァルモア侯爵令嬢は遅れていらっしゃるのかしら」
前回は私側からのささやかな工作でしたけれど、今回は?
「ヴァルモア侯爵令嬢は、治療が長引いてまして、今回は不参加です」
「まあ、お気の毒ですこと」
子供ですもの、魔力耐性があまりなかったのね。
このまま辞退してしまえばよろしいのよ。
もう一人、治療が長引いたというリリアーナ様は、何だか顔色が悪いようね。
「リリアーナ様、お顔の色がすぐれませんわ。つい最近まで治療に専念されていたと伺っております。ご無理をなさらないで下さいませね」
気が付いたレイチェル様に先を越されたわ。
では私が追い打ちを掛けましょう。
体調を気遣うフリして参加を見合わせさせる作戦ね。
「本当に。ここで無理をしては元も子もございませんわ」
「まあ大変! どなたか医務官をお呼びしていただけるかしらぁ」
ふふっ、カタリーナ様まで乗って来たわね。
リリアーナ様は気丈にも頭を上げて微笑みを浮かべているけれど、本当に顔色が悪いのよ?
でも、このお披露目を兼ねた舞踏会を欠席するとなると、今後立場が悪くなりますものね。
だからどんなに具合が悪かろうと、参加一択。
「皆様、お優しいお気遣い感謝申し上げる。だが、心配ご無用」
あら、リリアーナ様じゃなく、お父君のコルドウェル侯爵が答えたわ。
リリアーナ様は張り付けた微笑を浮かべているだけ。
よく見ると扇を持つ手が震えているみたい。
まあ、これで途中で倒れようと、私の知った事ではないわ。
ライバルが一人減るだけだもの。
お読みいただきありがとうございます。
次回も閑話、リリアーナのお話です。




