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小さな嫉妬

「狸と狐がきな臭い」

 ぼそっと九千坊がそう呟く。

 その言葉に、雷鳴坊も居住まいを正した。

 2人の間に緊迫した空気が流れる。

「なにかあったかの?」

「あったのはそっちじゃろう。柴助が乗り込んできたのが証拠じゃて」

「狸も狐もうちのホテルを乗っ取ろうとする常連じゃけぇなぁ」

「どちらがこのホテルを手に入れるか、お互いに牽制しとるようじゃしな」

「めんどくさいのう」

「仲よくできんのは昔からじゃ」

 緊迫した空気が溶ける。

「気をつけることに、越したことはない」

「そうだな」

「さて、儂は風呂でも入って帰るかの。もう掃除も終わってるじゃろうて」

 九千坊が立ち上がるのを見て、雷鳴坊と美澄も立ち上がる。

 どうやら話は全部終わったようだ。

「ゆっくり入っていきんさい」

「そうさせてもらうわい」

 大浴場の方へ歩き出す九千坊を見送って、雷鳴坊が美澄を見る。背の高い雷鳴坊と並ぶと見下ろされる形になった。

「仕事中にすまなかったね」

「いえ、これも仕事ですから」

「美澄さんが柴助のお面を割ったのは、この辺りの妖怪の間では有名な話だからね」

「そうなんですか!?」

 まさかあのことがそんなになっているとは知らず、美澄は思わず声を上げた。そんな美澄に雷鳴坊は笑う。

「妖怪のお面には少なからず霊力が含まれている。それを一撃で、しかも竹刀で打ち割るとは。日頃の美澄さんの鍛錬の賜物だよ」

「あ、ありがとうございます」

 幼い頃からやってきた剣道がこんなところで役に立つとは思わなかった。しかもまさか結婚までするとは。教えてくれた師範に感謝しつつ、雷鳴坊と共にラウンジを出る。時間はすでに正午を過ぎていて、昼休みの時間だ。

「美澄さんをあまり独り占めしておくのはよくないな……そろそろ昼休みだし、いってきなさい」

「大丈夫ですよ。仕事の一環ですし」

「そうではない」

「はい?」

 くつくつと雷鳴坊が楽しげに笑う。その理由が分からなくて、首を傾げた美澄に、雷鳴坊は受付を指さした。

「太郎坊が嫉妬した顔でこちらを見てる」

「太郎さん!?」

 受付のカウンターにいる美也の横で、不機嫌そうにこちらを見ているのは間違いなく太郎坊だ。

 2人で受付に行くと、太郎坊が口を開く。

「父さん。美澄さんを独り占めしないで」

「太郎さん?」

「ほらね。さて邪魔なお父さんは櫻子さんとお昼にしますよ」

 笑いながら雷鳴坊が事務所の方へ入っていく。

 残された美澄がちらりと美也と見ると、こちらを見ずに肩を震わせている。

 太郎坊はというと、解放された美澄を見て先ほどの不機嫌顔はどこへやら、すっかり機嫌のいいいつもの顔に戻っていた。


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