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結婚式の始まり

「父さん! 来てくれたんだね。芝山のおじさんも! 絹子、父さんたち来てくれたよ」

「本当!?」

 白無垢姿ではすぐに動けないであろう絹子の、歓喜の声が聞こえてくる。

「ほらぁ、あなた。絹子とっても綺麗なのよ。見てあげてちょうだいな」

 綿子が声をかけて、柴助を控え室に押し入れる。

「絹子……」

「父様」

「綺麗だな……絹子」

「ありがとう、父様」

 どうやらこれで柴助のお許しは出たようだ。残るは胡左衛門だが、こちらも妻である珠子に引っ張られるようにして、控え室に入ってきた。

「ほら、あなた。息子の晴れ姿を見てどうですか? 絹子ちゃんもとっても綺麗でしょう? こんないい子がお嫁さんにきてくれるなんて、胡一郎は果報者だわ」

「……」

 一気にそう言う珠子に、胡左衛門はぐうの音も出ないらしい。

 そんな空気の中、太郎坊が胡一郎の背中を押す。

「今だよ、胡一郎」

 深く頷くと、胡一郎が絹子の側に行く。

「芝山のおじさん、父さん、絹子との結婚を許してくれませんか?」

「八尾のおじ様、父様、私からもお願い致します」

「しかし、なぁ……」

「ああ……」

「絹子に子どもができました」

「なんじゃと!?」

「本当か、胡一郎!?」

 胡一郎の一言で、2人とも声を上げる。

 頷く胡一郎も絹子も幸せそうに笑うので、2人とも二の句が継げないでいるようだった。

「芝山のおじさん、父さん。不肖の息子ですが、許していただけませんか?」

 そう言って、胡一郎が土下座する。

 そんな胡一郎の姿に、雷鳴坊が胡左衛門と柴助の肩を叩く。

「許さんわけにはいかんよなぁ?」

「うっ、絹子ぉ」

「……一時休戦するか」

 泣く柴助に、胡左衛門が休戦を申し出る。

「父さん……それって」

「結婚を許す」

「儂もだ」

「父さん、芝山のおじさん、ありがとう」

「よかったわね、胡一郎」

「母さん……」

「お前たちは前から知っていたのか?」

「当たり前じゃない。意固地な父親に相談できないことは全部聞いてましたよ」

 珠子がそう言うと、綿子も柴助の背中を叩いて笑う。

「私もよぉ。初孫楽しみねぇ、あなた。胡左衛門さん」

「お、おう……」

「……そうだな」

 妻たちに押されながらも、結局は許すつもりだったのだろう。ただそのタイミングが掴めなかった不器用な父親たちがそこにはいる。

 外ではぽつぽつと雨が降り出していた。

 こうして胡一郎と絹子の結婚は許されて、神社での式も粛々と進んでいった。

 その間に太郎坊と美澄はホテルに戻って、披露宴の準備の手伝いをする。

 披露宴では絹子はウエディングドレスに着替えることになっているから、それの準備に併せて化粧も少し変えることになっている。ホテルに着いて披露宴会場である大広間に行くと、配膳係の豆腐小僧の東吾が自慢げな顔で待っていた。

「もう終わってるよ」

「早いわね、流石」

 各テーブルにお皿のグラスも設置されていて、もう太郎坊と美澄の出番はなさそうだ。

「ねぇ、知ってる? 今日のメニュー」

「披露宴用のメニューでしょ?」

「なにか変わった?」

 美澄と太郎坊がそう聞くと、東吾が楽しそうに答える。

「旦那様から電話があって、上手くいったって聞いたから、〆が変わったんだよ!」

「変わった?」

「なにに?」

「お揚げと揚げ玉が入ったおうどん!」

「ああ、そういうことか」

「え、どういうこと?」

 意味が分からない美澄に、太郎坊が耳打ちする。

「狐うどんと狸うどんが一緒になってるんだよ」

「狐と狸の化かし合いうどんってね!」

 それを見た胡左衛門や柴助はどんな顔をするのだろう。きっと隣にいる妻が喜んで、なにも言えなくなるに違いない。

「結局許すなら、もっと早く許してあげればいいのに」

 そう美澄がこぼすと、太郎坊が笑う。

「お母さんたちは分かってたんだよ。ぎりぎりにならないと許しを出せないって。頑固だから」

「そうね……」

「夫婦ってそうなんだろうなぁ」

「ん?」

「言わんとすることが空気みたいにわかるってこと」

「私たちもそうなるかしら」

「なるよ」

「うん」

 ぽんと太郎坊が美澄の頭を撫でる。

「さて、披露宴だ。忙しくなるよ!」

「ええ」

 今日は忙しくて、幸せの日だ。

 美澄は新しく夫婦になった2人を思って、仕事道具であるメイクボックスを持ち上げた。


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