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あやかしと生きるということ

 朝の素振りを終えて、美澄が太郎坊とリビングに行くと、台所に立っているのは櫻子ではなく雷鳴坊だった。

「おはようございます」

「おはよう」

 いつも雷鳴坊が新聞を読んでいるソファーでは、朝風呂を終えた櫻子がパックをつけて朝のワイドショーを見ている。

「今日はお義父さんが料理してるんですか?」

「そうよ。男も料理出来なきゃって、私が教えたのよ。それまでお父さん山の男の料理って感じのものしかできなくてね。もー大変だったんだから」

「しょうがないじゃない。天狗はそれで生きていけるんだから」

 台所からは雷鳴坊の声が聞こえる。

「太郎が生まれる時に、一通りの家事は教え込んだの。赤ちゃんの世話に忙しくなるから、教えとかないとって」

「そうなんですか」

「それに、どうしても私の方が早く死んじゃうからね」

「え?」

「だってお父さん天狗なんだもの。私が生まれる前ずっとから生きて、私が死んだ後もずっと生きるの。1人で生きる術くらい知っとかないと。太郎にずっと頼るわけにもいかないでしょ」

 なんでもない風にそう言って、櫻子がパックを剥がす。それは全てを受け入れた者の迷いのない顔だった。

「太郎さんも、私より長生きするの?」

「さぁ……僕はハーフだからね。分からない」

「看取るより、看取られる方がいいなぁ、私は」

 ぽつりと美澄がこぼすと、太郎坊が悲痛な声を上げた。

「ええ、じゃあ僕は看取らなきゃいけないの!?」

「うん。だって太郎さん、天狗のハーフで長生きでしょ」

「一緒に長生きしようよ」

「それができたらね」

「できるよ」

 きゅっと太郎坊が美澄の手を握る。そのままちゅっと頬に口づけされてしまった。

「ちょっとお義母さんたちのいる前で!」

「あははっ、じゃあ僕は父さんを手伝ってくるよ。美澄さんは座ってて」

 頬が赤くなるのを感じながら、美澄が櫻子の横に座る。そうすると内緒話をするように、櫻子が顔を近づけてきた。

「太郎にもきっちり家事しこんでるから。一人暮らしも経験させてるから安心して」

 なんの内緒話かと思えば、そんなことだ。

 思わず美澄が笑えば、櫻子も笑う。

「太郎、ちゃんと旦那してる?」

「はい」

「女っ気なかったから心配してたのよねぇ。美澄さんがきてくれてよかったわ」

「そうなんですか?」

「彼女なんて連れてきたことないし、そんな話もしないし。まぁ半分天狗だから長生きするとは思ってるけど、もしかしたら私が生きてる間にお嫁さんもらわないかもしれないとまで思ったわ」

「そこまで……」

「ガールズトークはそこまでにして、儂の作った朝食食べるよ」

 台所からオムレツの乗った皿を持った雷鳴坊が出てくる。

「あら、私もガールに入るの?」

「儂からしたら櫻子さんは出会ったときのままだよ」

「嬉しいわね」

 機嫌良さそうに櫻子が自分の席に座る。

「お義父さん、太郎さん、なにか手伝うことはないですか?」

「大丈夫だよ、美澄さんも座ってて」

 雷鳴坊にそう言われて、美澄も席に座る。いつも自分たちが料理をするときは手伝ってくれるのに、雷鳴坊が料理をするときは女性陣は手伝わないのがこの家のルールらしい。

「汚した台所を見せたくないのよ、お父さん」

「そうなんですか?」

「綺麗に台所を使うっていうことが下手でね。でも大丈夫。最後は綺麗に掃除してくれるから」

 そんなネタばらしもありつつ、テーブルの上にはぞくぞくと今日の朝食が並べられていく。

 今日の朝食はオムレツ、サラダ、トースト、ポタージュスープ、それに牛乳かオレンジジュース。

 いつもご飯派の天堂家では珍しいラインナップだ。

「お父さんが作るときはだいたい洋食なのよ。太郎が作っても、そうよ」

「太郎さんも作るの?」

「そうだよ」

 そういえばハンバーグをなんなく作っていたなと思った。朝食を作るくらい簡単だろう。

「太郎は台所を汚さないから、一緒に料理ってのもできるわよ」

「今度一緒に作ろうよ」

「いいよ」

 四人でいただきますと言って、各々朝食に手をつける。

 オムレツはチーズとベーコンが入っていて、絶妙な塩気が美味しかった。

「美味しいです!」

「それはよかった」

「じゃあ、今度は僕がもっと美味しい朝食作るね」

「太郎坊、儂の飯が不味いなら食わんでいいぞ?」

「そんなことないよ。このポタージュも美味しい」

「それはな、キノコのポタージュだぞ」

「朝からミキサー使ったの? 掃除が大変じゃない」

「わ、儂がやるから大丈夫だよ、櫻子さん」

 天堂家の朝は賑やかだ。

 それは実家を思い出す。

 寂しいわけではないが、ふと自分がいなくなってあの家はどうしているのだろうと思うこともある。

「美澄さん」

「なに?」

「今度の土日、実家に帰ってみる?」

「太郎さんって心が読めるの?」

「顔に書いてあったから」

 天狗の能力に人の心が読める、があってもおかしくはない。だが太郎坊は美澄の疑問をさらりと交わすとオレンジジュースを飲んだ。

「そうね、それがいいわよ、美澄さん」

「お義母さん」

「結婚してから一度もお家には帰ってないでしょう? ご両親も会いたいと思うから帰ってらっしゃいよ」

 同じ町に住んでいるのだから、会おうと思えばいつでも会える。その気持ちが実家から遠ざかった理由だ。いつでもいいと思うと先延ばしにしてしまうものだ。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「太郎に送り迎えさせたらいいから。バスだと遠回りでしょ」

「うん。任せて」

「ありがと」

 あとで実家のグループメールに帰ることを伝えなくては。ケーキかなにか買って帰ろうか。

 少しだけ楽しみになって、美澄はバターのたっぷり塗ったトーストをかじった。


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