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二人の食卓

「それでね、もう使わないアイシャドウとか試供品の化粧水とかマミちゃんにあげたの」

「女の人は大変だなぁ、毎日化粧しなきゃいけないんだもの」

 そう言いながら、太郎坊がタマネギをみじん切りに切る。対面キッチンで向かい合いながら、今日合ったことを話していた。

 仕事が終わった太郎坊は、昼に宣言した通りハンバーグを作るべく、スーパーに合い挽き肉を買いに行った。ちょうど美澄も家に帰ってきたところだったから一緒に行って、アイスを買ってくる。今日のデザートはラムレーズンアイスだ。太郎坊はストロベリーアイスが好きらしく、可愛い嗜好を知ったと美澄は密かに喜んだ。

「でも私はメイクするの好きだから、楽しかったわ」

「美澄さんは自分にするのと、人にしてあげるのどっちが好き?」

「人にしてあげるのかな。変わって喜ぶ姿を見るのが好きよ」

「僕はそんな美澄さんが好き」

「またそんなこと言って」

「僕は本気だよ。って美澄さん、このタマネギ目にくる! 涙拭いて!」

「はいはい」

 どうやらタマネギのせいで涙が出てきたらしい。美澄はソファーに置いてあった鞄からハンカチを出すと、キッチンに回って太郎坊の涙を拭いてやった。

「どう? これでいい?」

「ありがとう」

「どういたしまして」

「みじん切りは出来たの?」

「うん。あとは混ぜるだけ。美澄さん、冷蔵庫から挽き肉出して」

「いいよ」

「あと卵と牛乳も」

「はーい」

 太郎坊がボウルにパン粉と牛乳と卵を入れて混ぜる。そこに挽き肉とタマネギを入れて、塩と胡椒、ナツメグも入れる。そうして豪快に手で混ぜ出す。

 しばらくするとねっとりとした塊が姿を現した。

「あとは焼くだけ」

「付け合わせは?」

「人参グラッセと冷蔵庫にアスパラがあったからそれも焼こう」

「いいね」

「あとほうれん草の中華スープを作る。母さんがよく作ってるやつなんだ」

「美味しそう」

 手を洗って、太郎坊がハンバーグのタネが入っているボウルを冷蔵庫に入れる。鍋を出して水を入れ、火にかける。その間に冷蔵庫からベーコンとほうれん草を出して、手際よく切っていく。

「太郎さん、一人暮らしのとき、自炊よくしてたの?」

「うん。好きだったよ、料理。こっち帰ってきても母さんが忙しいときとかたまに作ってた。美澄さんは?」

「学生時代はそれなりにしてたけど、社会人になってからは忙しくて手抜き料理ばかりだったわ」

 鍋の中に中華スープの素を入れて、ベーコンを入れる。煮立ったら少しだけ醤油を入れて、味見のために小皿に入れたスープを差し出された。

「……美味しい」

「ベーコンからいい出汁が出るんだよ。これにほうれん草を入れて、卵を溶いて入れると出来上がり」

「楽しみ」

 鍋にほうれん草を入れて、しんなりしたら卵を溶いて入れる。それで中華スープは完成だ。

 次に太郎坊は小皿に切った人参を入れ、バターと砂糖を上に乗せてレンジで温めた。

「それだけで人参グラッセできるの?」

「そうだよ。簡単でしょ」

「うん」

 あっという間にできた人参グラッセに美澄が驚いている間に、太郎坊はフライパンを出して、ハンバーグのたねを形成していく。

「余ったのは父さんたちに残しておくか」

「そうだね。いっぱいできちゃったし」

「美澄さんおかわりしてもいいんだよ」

「食べれたらね」

 6つできたハンバーグをフライパンに敷き詰めて、蓋をして焼く。その間に美澄は箸を出したり、小皿を出したりと手伝いをした。

「太郎さんの趣味は料理なの?」

「そうだなぁ、あんまり趣味って言えるものがないから、そうかもしれない」

「そうなんだ」

「美澄さんの剣道やお化粧みたいにのめり込んだものがないんだよね」

「今は?」

 カウンターに肘をついてそう聞けば、太郎坊が笑う。

「美澄さんを見てるのが趣味」

「言うと思ったわ」

「そう?」

「飽きもせずに毎朝素振り見てるんだもの。お義父さんそっくり」

「えー」

 不満そうに声を上げながら、太郎坊がフライパンの蓋を開けて、ハンバーグをひっくり返す。あと少しで出来上がりだ。

「お義父さんがお義母さんのこと好きって言うのとそっくりよ、太郎さんの言ってること」

「親子だからね。それは仕方ない」

「でも悪い気はしないわ」

「本当?」

「好きと言われて嫌な人はいないでしょう」

「それなら嬉しい。そろそろできるよ」

「はーい」

 ダイニングテーブルのいつもの席に座ると、ハンバーグの乗った皿を持った太郎坊がやってくる。その横には人参グラッセが添えられている。

 ほうれん草のスープとご飯を二人分よそって、アスパラガスはいつの間にか炒め物になっていた。もしかしたら、太郎坊の方が美澄より料理上手かもしれない。

「さぁ、美澄さん、食べよう」

「そうだね。食べよう」

「「いただきます」」 

 2人でそう言って、ハンバーグに手を付ける。

小さく一口に切ったそれを口に運ぶと、ほろほろと溶ける気がした。

「美味しい……」

「本当? よかった」

「私が作るのより美味しいんじゃない?」

「そんなことないよ」

「でも美味しいもの」

 太郎坊の作ったハンバーグは美澄が自分で作ったものより美味しかった。それが悔しくもあり、嬉しくもあった。

 知ることができた部分がまた増えた。

「太郎さんの作るものが美味しくて嬉しい」

「美澄さんにそう言ってもらえると嬉しいな」

 お互いにそう言いながら、食べ進める。

 幸せな食卓がここにはあって、美澄はハンバーグをお代わりした。


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