第18話 希望
拙い作品ですが、読んでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
「ようやく後一回か……」
額からこぼれ落ちた汗が顎を伝って今にも下に落ちそうなのを、寸前で拭った僕は一息吐いた後思わず呟いた。
11月に入り早朝はすっかり肌寒くなったとはいえ、99回も神社を行ったり来たりすればそりゃあ疲弊もするか。
そう、僕は今お百度参りの真っ最中なのだ。先に言っておくが野俱祖神社ではない。僕がお邪魔しているのは東東神社だ。変わった名前の神社だと思う人もいるだろう。僕もそう思う。だって僕自身、昨日初めて知った神社なのだから。
──話は昨晩に遡る。僕が神主に事情を打ち明け
(東東神社って本当に変わった名前よね!)
(!! おい糞! 今、読んでる人達に状況説明してるところなんだから話に割り込んでくるな! ややこしくなるだろ!!)
(ああっ! ごめんなさい!!)
──話は昨晩に遡る。僕が神主に事情を打ち明けたときのことだ。一通り疑問点を僕から訊き出した神主は何かを考えるかのように目を閉じ、顎に手を当てそのまましばらく黙り込んだ。
神主が口を開いたのはそれから5時間後のことだった。長考が過ぎるだろと思うかもしれないが、実際に長考過ぎた。30分は待ったが、途中でもうこれ寝てるんじゃないかと諦めた僕は飯と風呂を済ませ、その後再びリビングに戻った。濡れた髪をタオルでくしゃくしゃに拭きながら部屋に入った僕はそれと同時に横目で神主の状態を確認し、「やれやれ、まだ寝てるよ」と思わず独り言を呟いてしまったりもした。それから1時間程過ぎた頃だっただろうか。観ていたTV番組が終わりスタッフロールが神速で駆け抜けていく最中、正にそのとき神主の目がパチリと開いた。そして神主が一言言った。
「ガチャ次第では或いは……」
寝ぼけているのか? 5時間後にようやく目覚めたと思ったら急に訳の分からないことを言い出したのだ。僕の感想も尤もだろう。その心情が顔に出てしまっていたのかは知らないが、神主は続けてこう切り出した。
「ピンとこないかい? さっきの話が本当なら、君もお百度参りをしてガチャを引けば今の状況を打開できるかもしれないという話だよ」
「ウンコの神様のガチャを引けってことですか!?」
驚いた僕は若干食い気味に訊き返した。
「違う違う。運庫草薙命に呪われているのなら、君はそもそもガチャを引く石を持ってない。或いは運営にBANされたとでも言うべきか……」
「上手いこと例えようとしないでください! それじゃあ結局駄目じゃないですか!」
神主から有難い方策を賜れるのかと期待していた僕は心底落胆し、そのまま床に膝を落とした。
「まだうな垂れるのは早いよ。確かに君はガチャを引けない。アプリがメンテナンス中だからか、或いはスマホのバッテリーが切れたとでも言うべきか」
(こいつ……まだ言うか……!)
「まあまあ、そんな恐ろしい顔しないで。話は最後まで穏やかな顔で聞くものだよ。 ……ハッキリ言うとこういうことさ。別のゲームのガチャを引いたら? とね」
そう言われて僕は更にイラついた。
「ハッキリって言っておいてまた例えですか!? 次例えたら貴方のお尻に転移しますよ!? あの忌々しい汚物をね」
苛立ちを隠せない僕は神主を睨み付けながらこう言い放った。
「分かった。落ち着きなさい。話せば分かる。……別の神社でお百度参りをしてガチャを引き、呪いに対抗する能力を入手してみるしかないのでは? という話をしたかったのだよ」
「他の神社もガチャやってるんですか!?」
「やってるわけないだろう普通。神社なんだからさ」
「殺……!」
言っちゃいそうになるのを僕は寸前で堪えた。そして深呼吸をし、頭に昇った血が手を振り持ち場に帰っていくのをちゃんと確認してから神主を問い質した。
「じゃあ、どうしろっていうんですか?」
神主がニヤリと笑う。
「ゴメンゴメン。普通の神社はそう都合よく神様はお出にならないだろうと言いたかったんだ」
「普通の神社? それって野俱祖神社の他にも如何わしい神社が存在するってことですか!?」
神主が不満そうにする。
「野俱祖神社の宮司を前にしてよくそんな発言ができるね君は。まあ敢えて流すよ、今の発言は。流すといえばその神社にも通ずることだがね」
僕は神主の最後の言葉が気にかかった。だが神主は用意してあったお茶を一口だけ飲むと、こちらから訊くまでもなくまた話を続けてくれた。
「実は野俱祖神社には天敵ともいえる神社が存在するんだ」
天敵? 神社に天敵とかあるのだろうかと僕は気になったが、話の腰を折るのも嫌なので黙って聞くことにした。
「その名も東東神社。何の神様が祀られていると思う?」
そう尋ねられた僕は考えるまでもなく即答する。
「方角の神様ですか?」
「……引っ掛かったね。 正解は便器の神様だよ」
「便器の神様!? 何で……東東……東東……あっ!」
僕は隠された真実に気が付いてしまった。
「分かったみたいだね。 ウンコの神にとって自分を流そうとする存在は敵なんだよ。現にウチの神社では代々、東東神社とは交流を持たないように言い伝えられてきているんだ」
「そうだったんですか……。 ただ、果たして本当にそこの神社はガチャやってるんですかね?」
僕が不安そうにすると、神主がそれを安心させるかの如く微笑んだ。
「あくまで私の推測だよ。但し、限りなく期待は持てると思う。 東東神社とウチの神社は仲こそ悪いものの、互いに対を成す存在。運庫草薙命がガチャをされていたのなら、東東神社の御祭神もされている確率は高いはずだよ」
それを聞いてなお確証は持てなかったが、こうして僕は東東神社でお百度参りを実行する運びとなったのであった。
短編の連載形式です。不定期更新となります。
この度はお読みいただき、ありがとうございました。




