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15 青えんどう豆のポタージュとカレン

 その日は朝から風が強い日だった。

 スズメのチュンが来て、『雨 雨 いっぱい 雨!』と繰り返した。

「教えてくれてありがとう。これはお礼よ」

 チュンにパンくずを与える。チュンは全部残さず食べ、いつものように窓枠にくちばしをこすりつけて飛び去った。


「いっぱい雨、か。お客の入りは期待できないわね」


 スープは少なめに仕込むことにして、いつもの半分の量の野菜を刻む。その時、馬車の音がしたので窓の外を見ると、ヒューズ家の家紋だ。二本のハンマーが交差している珍しい柄だから覚えている。オリビアはウィリアムが来たのかと思ったが、馬車から降りてきたのはウィリアムの妹、カレンだった。


「こんにちは。スープが恋しくて来ちゃった」

「いらっしゃいませ。来てくださってありがとうございます」

「日替わりスープをお願いね。パンは一枚で」

「付け合わせはマスのバター焼きですけど、どうなさいますか?」

「それも」

「かしこまりました」


 今日は青えんどう豆のポタージュだ。

 早朝のうちに薄い塩水で緑鮮やかにゆでた青えんどう豆をザクザクと刻み、すり鉢で丁寧に潰してある。玉ねぎは色が付かないように炒めてから煮た。青えんどう豆と玉ねぎは裏ごしした。

 チキンスープとミルクを加えたスープは色鮮やかだ。


「お待たせしました。青えんどう豆のスープとマスのバター焼き、それとパンです」

「ああ、全部美味しそう!」


 カレンは緑色のスープを口に入れ、うっとりした顔になる。


「はぁぁ。ここのスープを飲み続けたらあなたみたいに透明感のある肌になるのかしら」

「肌、ですか。私は日焼けしてるから」

「してないわよ! 十分白いわよ!」


 たいして肌の手入れをしていないオリビアは困った顔になる。


「今、忙しい?」

「他のお客様がいらっしゃるまでは暇です」

「よかった。あのね、最近、すっごく好みの男性を見つけたのよ。体格が良くて男っぽくて、愛想が悪くて、腕っぷしが強そうな人。そして私に興味がなさそうな人」

「興味がなさそうな人、ですか?」

「私に興味なさそうな人をこっちに向かせて私に夢中にさせるのがワクワクするじゃない?」


 するじゃない?と言われても、オリビアは恋人を持ったことがないし、自分に興味を持たれなければ(やれやれ助かった)と思うほうだ。それをわざわざ自分に振り向かせるなんて考えたこともない。

 カレンはパクパクと食べ、オリビアに話しかけるが品の良さは失っていない。その辺がゆとりのある育ちゆえだろうかと思う。


「オリビアさんはそういうこと考えない?」

「はい。私はひとりでいるのが好きなので」

「あらぁ、もったいない。美人なのに」


 そこでカランと音がしてドアが開いた。アーサーだ。オリビアの口角がほんの一瞬上がったのを見て、アーサーは心の中で「ふぅぅぅ」と盛大に息を吐く。


「いらっしゃいませ、アーサーさん」

「今日のスープとパン、付け合わせをお願いします」

「かしこまりました。少しお待ちください」


 オリビアが台所に入り、アーサーがカレンから離れた席に座るのを待ってカレンが声をかけてきた。


「こんにちは。アーサーって名前なのね」


 声のほうに顔を向け、アーサーはカレンを見た。迷惑そうな顔をしないよう、相当な努力して無表情に挨拶をする。


「ああ、こんにちは」

「あなたとこの店で出会うなんて意外。歩いて来たの?」

「ええ」

「街から十キロはあるわよね? この店のために来たのかしら」


 カレンはキラキラした目でアーサーを見ているが、アーサーは少々げんなりしている。

 今日は薬草採取の仕事でここまで来た。採取の前に腹を満たそうと思って店に入ったのだが(順番を間違えたな)と思う。この手の女性は、愛想を良くしても冷たくしても厄介なのは経験済みだ。


 オリビアがトレイに載せた料理を運んで来た。カレンとアーサーが会話しているのを見て、(あっ、さっきの話の男性って)とカレンの話とアーサーが結び付く。





 

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書籍『スープの森1・2巻』
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