Prologue③
______地球から彼方遥か、銀河を超えた場所でもう一つの物語は進む。
とある星に存在するカルディア大陸。その大陸の南に位置する、豊かな自然に囲まれた魔法国家セレネが舞台だ。
セレネ城下町には世界屈指の魔導学院を有しており、大陸中から魔力の長けたものが集まる。これまで、歴史に名を残す魔導師や魔法剣士、僧侶などを輩出してきた。街並みは重厚な石畳で整備されており、中央の広場には数え切れない程の露店が並び立つ。人の往来が絶えない賑やかな場所だ。
城下町の奥には、見た者を魅了する白亜の城が聳え立つ。複数の翠屋根の尖塔が空へと伸びる。セレネ国は平和主義国家だが、大陸の有事に巻き込まれる事もある。その為、統率された強力な軍隊も所有しており、大陸の強国として君臨している。
そのセレネ国の中央に位置するアーガイル地区は、中規模程度の地方都市だが、商人の往来が多い。物流の拠点として都合の良い位置にある為、街は栄えている。その地区の騎士団長を務める若き騎士・ゲイル=ジェネレスに子供が産まれた。
彼は剣術・魔力において、ずば抜けた能力を持っている。セレネ国随一の騎士として勇名を轟かす存在だ。その銀髪を揺らしながら、敵陣に斬り込む勇猛さを見た人々は、彼を“アッシュ・ウルフ”という呼び名で呼ぶようになった。
任務には忠実で、その成功率も高い。周りからの人望も厚く、義を重んじる人格がある。23歳の若さで騎士団長に任命されるのは、異例の出来事であったが、異を唱える者は少なかった。
ゲイルは遠征先から屋敷に到着すると、急いで馬を厩舎に繋ぎ、使用人に荷物を託した。そして、足早に寝室へ向かい、心を躍らせながら扉を開く。
部屋の奥の方で、椅子に腰掛けている妻の姿が彼の目に入った。彼女の胸に小さな赤子が抱かれているのを確認すると、ゲイルは自分の鼓動が早くなったのを感じた。その子は母の胸の中で、安心したように寝息を立てている。
「おかえり、待ってたよ。ふふ、さっき寝たところなの」
「おお、小さいなぁ。……ちょっと抱いてもいいか?」
ゲイルは初めて見る我が子を、妻の手から受け取る。起こさないように恐る恐る、そっと両腕で優しく包み込んだ。彼は胸の中に、これまで感じたことがない愛おしい感情が湧いてくるのを感じた。まだ覚束ない抱き方で赤子を胸に抱くと、その小さな体からの温もりがゲイルに伝わってくる。この子を育てることが、これから父としての使命なのだと彼は心した。
「……どう? 可愛いでしょ?」
妻・マリアは隣に座って、充足感のある微笑を浮かべている。彼女も夫の帰りを待ち侘びていた。2人で我が子の誕生の喜びを、分かち合いたかったのだ。
「ああ、無事に生まれて良かった。2人とも元気そうで安心したよ。いやー、やっぱり可愛いものだな」
「ふふ、あなたの今の顔を見たら、本当に生んでよかったと思ったわ」
ゲイルは愛おしそうな表情で、まじまじと赤子を見つめている。寝息を立てている赤子が呼吸する度に、“この子は生きているんだ”という感触を肌で感じる。その小さな命の鼓動を確かめながら、ゲイルは赤子の手を優しく握る。やっと念願が叶ったのだ。
ちょうど貴族からの要請が重なり、護衛や哨戒の人員配置や各方面への指示で忙しく、出産時は家を空けていた。生まれた知らせが届いて2週間後になって、ようやく我が子を抱けたのだ。子供に会いたい一心で、無我夢中で仕事を手早く処理し、我が家へと早馬で駆けた。
「生まれる時に限って、忙しくなるとはな。早く帰りたくて、精神的に疲れたよ。やっと会えたな、なぁ」
「うん。ほんと、よかったよかった」
騎士団長ゲイルは、その銀髪を揺らして、赤子に顔を近付けた。嬉しさを隠せない彼の笑顔を、マリアはほっとした様子で見つめている。
「ロックス、それがお前の名だ」
ゲイルは、胸に眠る我が子へ愛しい眼差しを向けて語り掛けた。
_________二つの星の物語。
カラカラ、カラカラ………
その歯車は、今音を立てて動き出した。
二つの世界は、次第に絡み合っていく。
運命に見出された登場人物達……。
彼らは定められた宿命に縛られるのか?
彼ら自身の意思が宿命を作り出すのか?
その答えは、まだ誰も知らない。
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