Prologue
「……美しく、広大な眺めだ」
カリムの眼前には、無数の光の粒が煌めく。それらは銀河を構成する、数千億の恒星達だ。
宇宙には、その途方も無く巨大な銀河が、兆を超える数存在するとも云われる。宏遠たる空間の規模に、己の小ささを痛感させられるのみだ。
無限の如く存在する星々からは、時に生命が宿る星が生まれる。
そして、その星は物語を紡ぎだしていく……。
カリムの肉体は、遥か昔に朽ち果てた。その長く伸びた白髪と彫りの深い顔面、痩身となった老体に濃灰の外套を纏う風貌は、過去の自分であった筈の姿だ。記憶に残る心像が、形となったものである。
彼は、精神体として数千万年の時を漂い続ける。何故、精神体として生きる事になったのか、彼自身は覚えていない。自分の意志とは、また違う意思が存在しているかのように、運命の渦流に身を委ねてきた。
「……我が生とは、運命の本流に揺蕩う小舟の如きものであった。自らの意思で櫂を漕ぎ向かった行先も、予め運命に定められし場所であったのかもしれぬ」
カリムは静かに呟く。その言葉には、自嘲や後悔では無く、偉大なる運命への畏敬の思いがある。そして彼は、我生の終幕に思いを馳せ、眼前の紅の星を眺める。
銀河の狭間に揺らめく恒星の1つに、恒星アリオスがある。その恒星は、赤く膨らみ始めている。数十億の歳を経て生き続けた紅の星は、今、その光を失おうとしている。カリムには、その惑星の1つで生を享けた記憶があった。その記憶の中にある栄華を極めた文明も、今では塵のように消え去った。
「時とは、不思議なものだ。永遠と思われる者にも、終焉を告げる。アリオスと共に、我は朽ちる。悲哀と安堵の中でな」
年老いた恒星が、自らの身を燃やし尽くすように、灼熱の渦を纏い煌々と輝く。カリムは、その灼光を瞳に焼き付ける。
その灼熱の渦は自らの生を主張しているかの様に、焔を踊らす。それを映す眼が、カリムの奥底に眠る感情を震わせる。
「命は滅するが、意志は死なず!!」
カリムは、叫んだ。
運命の本流に抗おうと、奮い立つ。
彼の心に湧き出る使命感の正体が何かは、分からない。しかし運命に立ち向かおうとする強い意志が、灼光の如く燃え滾る。我生の終着点を自ら選び取ろうと、渇望する。
「我が意志を、託さねばならん。新しき賢者の誕生を、急がねば……」
カリムは、宇宙の網を辿り思念となり宇宙を駆け巡る。光の速度の10億倍の速度で思念を動かすことで、精神体となったその身は、銀河から銀河へと移りゆく。精神体として長い時を漂う中で、手にした能力だ。
カリムは、探し続ける。自分の後継となるに相応しき者を……。
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