第5部 第6話
「ただいまあー」
間宮家のリビングでくつろいでいたら、
また誰かきた。
いや、帰ってきた。
「あら、美優だわ。今日は随分早いのね」
「みゆう?」
「長女よ」
そういい終わらないうちに、これまた勢いよくリビングのドアが開いた。
「ただいま、ママ」
「おかえりなさい。美優、お客様よ」
「こんにちは」
「・・・こんにちは」
再び俺とサナは「ポカーン」だ。
間宮家に来て何度目だ?
「美優」と紹介されたその子は、まさに愛さんの生き写しだった。
つまり、超!美人だ。
グレーのブレザー姿ということは・・・中学生?
それにしては大人っぽすぎる。
でもコータさんの年齢を考えると・・・
「美優・・・ちゃんって、いくつ?」
「17歳です」
「17!?」
すげー、大人っぽい!
若く見える愛さんと姉妹で通るぞ。
てゆーか、ちょっと待て。
17歳って・・・
今、コータさんは36歳だから・・・
19歳の時に生まれたのか!?
「正確に言うと、18歳の時ね。大学1年だったわ」
と、愛さんが訂正する。
おお・・・やるな、コータさん。
今の俺くらいのときに、すでに子供がいたとは。
何故か、美優ちゃんは食い入るように俺を見た。
近くでみると、ますますかわいいぞ。
「・・・ママ、こちらは?」
俺から目を離さずに聞く。
「廣野さんの息子さんの蓮君よ。それとガールフレンドの山尾サナさん」
「・・・ふーん」
「は、はじめまして」
近いぞ。近すぎるぞ。キスでもするつもりか?
てゆーか、サナの視線が痛いんですけど。
その時、コータさんがすっぽんぽんの龍太君を連れて戻ってきた。
「愛ー。龍太の服ってどこ?」
「あ。そうだったわね。着替えさせてくるわ」
今度は愛さんが龍太君を受け取り、リビングを出て行った。
「ん?美優、帰ってたのか」
「ねえ、パパァ」
「ダメだ」
「まだ何も言ってないでしょ?」
「お前がその声出すときはロクなことがない」
ようやく美優ちゃんは俺から視線を外し、コータさんをキッと睨む。
「なによ!いくら甘えたって携帯の一つも買ってくれなかったくせに!」
俺は美優ちゃんが視線を外した隙に、美優ちゃんから離れようとした。
だけど美優ちゃんはすぐにまた俺に視線を戻す。
「でも大丈夫。今は持ってるわ」
「・・・えっと、何が大丈夫なのかな?」
「蓮と、いつでも連絡を取れるってこと」
「は?」
そう言うと、美優ちゃんはニッコリと微笑んだ。
「パパ。私、蓮と結婚するわ」
「そうか。どうぞ、どうぞ」
「あら、珍しい。パパがそんなアッサリ許してくれるなんて」
「廣野家の跡取りだからな。将来なんの心配もいらないし。でも美優が俺より上役になるなぁ」
「ふふ。そしたらパパのお給料上げてあげる」
「おお、ママも喜ぶぞ」
ちょっと待て。
なんだその突っ込みどころ満載の会話は。
だけど美優ちゃんは呆れ顔の俺も、殺人顔のサナもなんのその。
俺の右側にひっつくように腰を下ろした。
ちなみに左側にはレーダー全開のサナ。
・・・こえー・・・マジでこえー・・・
初めて廣野家に行ったとき、タクシーの後部座席で両側をヤクザに固められたが、
あの時の数倍怖いゾ。
それにしても、白雪さんといい、この美優ちゃんといい、
俺、なんで最近急にこんなにモテるんだ?しかも一目惚れっぽいのばっかりだ。
そういえば、二人ともヤクザ関係者だな。
俺が組長の血筋だからか!?
うわー、嬉しくなさすぎ!
その美優ちゃんは天使のような、いや、小悪魔のような笑顔で言った。
「蓮、よろしくね」
「いや・・・よろしくも何も・・・俺、君のこと何も知らないし・・・その・・・」
「間宮美優、高校2年生、17歳。9月28日生まれの天秤座。血液型はO型。スリーサイズは・・・」
「ちょっと!何言ってるのよ!」
「なによー、ここからがいいところなのに」
そうだぞ、サナ。邪魔するんじゃない。
「蓮!そろそろおいとましましょ!」
「ダメよ。ねえ、蓮。今日は泊まって行ってね」
うん。そうしたいところなんだけどね。怖いお姉さんがいるからさ。
向かいでは、ソファーに深く腰掛けたコータさんがクスクスと笑っている。
「コータさん・・・助けて・・・」
「ははは。ま、頑張れ。間宮家の女は惚れやすいからな」
「そうそう。諦めてね。後、私、キス魔だから。これはパパ譲りだから文句言わないでね、サナさん」
そう言うと、美優ちゃんは俺の頬にキスをした。
俺はビックリして、思わず美優ちゃんの目を見返す。
・・・って、あれ?この目元・・・
「な、なんてことするのよ!」
「だからー。あらかじめ言っておいたでしょ?」
「あらかじめって・・・!!!」
「落ち着け、サナ!」
「何よ!蓮まで!!」
「そ、そうじゃなくて・・・あ。そういえば確かにコータさん、母さんにキスしてましたねー。
キス魔だったんですかー」
俺は冷や汗を掻きながらなんとか話題を変えようとする。
「美優は確かにキス魔だけどな。俺は違うぞ。子供の頃、外国に住んでたから、
その時に身についた習慣だ」
「あら、幸太。そうだったの?知らなかったわ」
「・・・愛・・・」
そこには絶対零度の眼をした愛さんが立っていた・・・