第5部 第17話
3泊4日の沖縄旅行を満喫し、
羽田空港に降り立った。
俺って、鬱?と思いたくなるくらい気持ちが沈む。
うわー、明日からまた現実が始まる!
学校にバイトに・・・刺青に。
ああ、もうちょっと長い旅行にしておけばよかった。
サナがトイレに行くというので俺は一人、到着ロビーで、
携帯の電源を入れた。
メールが一件。
コータさんからだ。
・・・嫌な予感がする。
忙しいコータさんは、俺にメールしてくることなんて滅多にない。
用事がある時はいつも電話だ。
そのコータさんからメール。
怖々と受信BOXを開く。
『飛行機の中か?着いたらすぐに電話くれ!』
・・・怖すぎるんですけど。
『蓮!?悪いな、先に謝っとく』
1コールでコータさんが出る。
「・・・もしかしてリーサルウェポンですか?」
『そうだ。暴発した』
暴発!?
「な、何があったんですか?」
『家で愛に、蓮とサナちゃんが刺青を入れるって話をしてたんだけど、
どうやらそれを美優が立ち聞きしてたらしくって・・・』
サナが俺と一緒に刺青を入れる。
その意味は美優ちゃんにも分かるはずだ。
「で・・・どうなったんですか?」
『発射して行った』
「・・・」
携帯を切ると、ちょうどサナが戻ってきた。
「蓮?どうしたの?真剣な顔して」
「サナ・・・今日は家には帰れない。たぶん標的にされてる」
「は?」
「サナの家もダメだな。危険区域だ」
「・・・美優ちゃん?」
さすがだ、サナレーダー。
「それでノコノコとここに来た訳か?」
「あんたには、間宮美優の破壊力が分からないからそんなことが言えるんだ」
「分かるさ」
組長が真剣な顔で頷く。
「あれは細菌兵器並だ」
よくわかってんじゃねーか。
てゆーことは、やっぱり組長と美優ちゃんは知り合いな訳だ。
親子として会っているかどうかはわからないけど。
「いいだろう。二人とも今日はうちに泊まっていけ」
「そうだ。ついでにもう一つ頼みがあるんだけど」
「頼み?・・・俺にか?」
おい、なんでちょっと嬉しそうなんだ。
「司法試験に挑戦したいから、金を貸して欲しいんだ」
「金?」
ふふん、と組長が笑う。
「俺に金をせびりに来るなんて、お前も焼きが回ったもんだな」
「・・・体育倉庫と音楽室はいいけど、保健室はダメなんだよな?」
「?」
サナが、ちょっと!と、しかめっ面で俺の脇腹をつつくが、お構いなし、だ。
「視聴覚室は穴場なんだよな?」
「!!!お前、なんで・・・!!だ、大輔か!?あいつ・・・!!!!」
組長が怒りで赤くなる。
「そういえば、大輔さんが組長に、元気でって言っといて、ってさ」
「どーゆー意味だ!?」
さあ?
「かあさーん!」
「何?蓮」
素晴しいタイミングで、桃夫を抱っこした母さんが組長の部屋に入ってきた。
神様っているんだなー。
「なんでもない!ユウ!お前、少し出て行け!」
「統矢さん・・・?何かまずいことでもあるんですか?」
「ない!さっさと出て行け!」
「ひ、ひどいじゃないですか!」
「うるさい!」
組長が焦って母さんを部屋の外に押し出した。
「蓮!!貴様、覚えてろ!!」
そう言い捨てて、自分も部屋から出て行った。
「・・・やった!!組長に勝った!!!!!」
「・・・蓮、なんて子供っぽいことするの・・・」
へへん、何とでも言ってくれ。
うひょー!気持ちいい!!!
初めてだ!あの口の上手い組長をやり込んだ!
ありがとう!大輔さん!!!
「・・・で、コータさん、なんで俺はこんなとこに泊まらなきゃいけないんですか?サナは客間なのに・・・」
「こんなとこ、とは失礼だな。仕方ないだろ、他の客間は畳の張替え中だ」
なら、サナと一緒の客間に泊めてくれたいいのに。
と言う俺の言い分は、組長お得意の「結婚前なのにダメだ!」という一言で却下された。
俺は部屋を見回す。
机に本棚、ベッドと至ってシンプル。
組長の部屋の少し手前にあるコータさんの仕事場兼寝室だ。
「2階に部屋がある、ってことは幹部の証拠なんだぞ」
「コータさんて幹部だったんですか?」
「・・・。しかも、ここは昔統矢さんが居た部屋だ」
「え!?そうなんですか!?なんかイヤだなあ」
「イヤなら自分ちに帰れ」
「そういえば、コータさん、ここに来て大丈夫なんですか?」
俺とサナが廣野家に避難してきたと知って、駆けつけてきてくれたのだ。
「ああ。ここならさすがに美優も乗り込んでこないだろうしな」
「コータさんの娘でも?」
「この屋敷は、組関係者以外立ち入り禁止だ。家族や友達、恋人もダメ。
廣野家の人間が許可しない限りな」
「廣野家の人間?俺は?」
「もちろん含まれる。お前の恋人だからサナちゃんは自由に出入りできるんだ。
あ、でも初めてサナちゃんが来た時は驚いたなー。ほら、俺がお前をここに引っ張ってきたあと、
組員にここまで案内させて勝手に大広間まで入ってきただろ?」
「・・・そういえば、そうですね」
「どうやって、正門を突破したんだろうな?美優以上だぞ」
俺の左右には素晴しい兵器が装備されているようだ。
役に立つかどうかは別として。
急にコータさんが真面目な顔になった。
「蓮、お前、統矢さんからサナちゃんのこと、何か言われてないか?」
「サナのこと?何も言われてませんけど?」
「そうか。どうしてかな・・・」
「え?サナが何かしたんですか?」
「そうじゃないんだ」
コータさんが首をかしげる。
なんだ?どうしたんだ?
「なんですか?」
「いや・・・統矢さんが言わないんなら、俺から言うことじゃないんだけど・・・」
「気になるじゃないですか!言ってくださいよ」
「・・・お前とサナちゃんって、ずっと付き合ってるのか?」
「付き合ってるってゆーか、幼馴染ですからね。ずっと一緒にいました」
「ずっと前から結婚するつもりだった?」
面と向かってそう聞かれると困ってしまう。
「決めてたわけじゃないですけど・・・まあ多分サナと結婚するんだろうな、とは思ってました」
多分サナもそう思ってただろう。
「最近、そんな話はしたか?」
「いえ、具体的には・・・。あ、でも刺青の意味は話しましたよ」
「それを知った上でサナちゃんは刺青を入れてくれるんだよな?」
「もちろん」
コータさんが何を言いたいのかよくわからない。
サナと結婚しちゃまずいんだろうか。
だけどコータさんの話は思わぬ方向へと進んだ。
「・・・統矢さんの母親はさ、あ、蓮の祖母になるな、その人はさ、
統矢さんが高校生の時、組の抗争に巻き込まれて拳銃で撃たれて死んだんだ」