表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18years  作者: 田中タロウ
101/109

第5部 第14話

「どうして表札出してないんですか?」

「昔のクセでさ。苗字にこだわりがなくてな。それに、万一、廣野組の奴らに見つかったら

イヤだな、と思って。でも蓮がここに来たってことは、統矢さんは俺の居場所知ってたんだな」

「はい。大輔さんが出て行って、ちょっとしたらすぐに探し始めたみたいです」

「ははは。探すだけ探して、見つけたら放っておく、っていかにも統矢さんらしいな」


心から愉快そうに大輔さんが笑う。

よかった、大輔さんも組長に対してシコリはないようだ。


「あの。組長が大輔さんに『よろしく言っといてくれ』って言ってました」

「・・・そうか。ありがとう。確かに聞いたよ」

「はい」


よく、「よろしくって言っといて」とか言うけど、アレはあくまで社交辞令みたいなもんだ。

だけど、組長と大輔さんの場合は、何か意味を含んでいるようで・・・

だから本当にちゃんと「よろしく」って伝えないといけない気がした。


「そうだ。表札で思い出した。お向かいの『よへな』さんは、

表札に振り仮名つけといた方がいいと思いますよ・・・」

「ははは、そうだな。でもあの苗字は沖縄の人間だったら誰でも読めると思うぞ」

「メジャーなんですか?」

「ああ。よくある苗字だ」


うわー・・・。


「俺が二十歳くらいのときに、ここに旅行に来てさ。

その時、ここでガラス工房していた饒平名さんと知り合って仲良くなったんだ。

もし俺が組を追われるようなことがあったらここに来ますって、冗談で言ってたんだけどな。

まさか本当にここで世話になるとは思わなかったよ」


大輔さんは、その後、同じくここに旅行に来ていた奥さんと知り合い、

結婚したらしい。



「ふーん。蓮が刺青ねえ。あの赤ん坊だった蓮が・・・」

「組長に無理矢理藤城さんのところに引っ張ってかれました」

「頑張れよー。痛いぞー」

「・・・」

「それにしても兄貴が廣野組の跡取りの刺青を彫るなんて、出世したなー」

「まだ継ぐとは決めてませんけどね」

「そうなのか?なんでだよ?継げよ。ユウも喜ぶだろ」

「今まで普通に暮らしてきたのに、いきなりヤクザの組を継げって言われても・・・

将来したいこととかできなくなるし・・・」

「え?蓮って何かしたいこととかあるの?」


急にサナが口を挟んだ。


「そういえば蓮って、おばさんの為に、大きな会社に入りたいってずっと言ってたけど、

もうその必要ないよね?何か就きたい仕事とかあるの?」


そう。そうなのだ。

もう安定した収入だけのために、普通の会社に就職する必要はない。

そりゃ、安定してるに越したことはないけど、少なくとも母さんの心配は不要だ。


コータさんの姿が頭をよぎる。

ヤクザの顧問弁護士ではあるけど、バリバリと仕事をするコータさんはかっこよかった。


別にどうしても弁護士になりたい、という訳ではない。

ましてや、コータさんの助手なんてもっての他だ。

いや、普通の弁護士として助手をするのは全然いいが、

廣野組の為に働くのは気が進まない。


でも、今、何をやりたいかと聞かれれば・・・


俺は司法試験を受けようと思って法学部に入ったわけではないけど、

頑張れば合格することはできるだろうか?



「司法試験?」

「うん。無理かな・・・」

「蓮は頭がいいから大丈夫じゃない?」

「頭がいいからって受かるような試験じゃないだろ」

「なあ、コータって本当に弁護士になったのか?」


あ、コータさんの話は全然してなかったな。


「はい。コータさんは、大学1年の時に子供ができて、2年の時に司法試験に受かって結婚もして・・・

って、すげー!コータさんって、実はめちゃくちゃ凄い人なんじゃ・・・」


自分で説明していて、ビックリした。

司法試験に2年目で受かるって・・・可能なのか?

しかも、子供を、しかもしかもアノ美優ちゃんを育てながらだよな?

どんだけ頑張ったんだろう・・・。


うわー。

もし俺が本当に司法試験に挑戦するなら、2回目で受からないと、

組長に「お前はヤクザのコータよりアホなのか」って死ぬほど馬鹿にされる!!


「ちょっと待て。コータ、大学1年で子供できたのか?相手は誰だ?女中の誰かか?

それともどっかの女に騙されたのか?」


大輔さんがいつになく怖い。


「えーっと・・・」


俺とサナは目で「話す?」と相談する。


「おい。俺に言いにくい女なのか?」

「はい、とっても・・・」

「・・・もしかして・・・」

「ははは。あれだけ美人だと、クラッときますよねー・・・」

「・・・コータのやつ、何考えてんだ?」

「ですよねー・・・」

「なんでそんなことになったんだ?統矢さんに押し付けられたのか?」

「コータさんは、そんなんじゃないって言ってましたけど」

「どーだか」

「ですよね!」


ここは激しく同意できる。


「蓮。コータに詳しく聞いて俺に教えろ」

「はい・・・」


おお。大輔さん、ヤクザの顔になってますよ。


「ところで」


あ。元に戻った。


「蓮、司法試験受けるのか?本当に組は継がないのか?」

「司法試験は・・・挑戦してみたいけど金がないですからね。

組の方はよくわかりません。『リボンの騎士作戦』も実行中ですし」

「は?」

「あ、いえ。こっちの話です」


大学で法学部に通ってる以上、自力で司法試験に挑戦することは可能だけど、

やっぱりちゃんと専門学校に通ってないと厳しいだろう。

資格をめざすなら、それなりに金はかかるものだ。


「金なんか統矢さんに出してもらえ」

「イヤです」

「おお、言い切ったな。なんでだ?散々ほったらかされてたんだし、貰う権利はあるだろ」

「権利はあると思いますけど、組長に、金をくれって、言うのがイヤなんです」

「・・・そう言うことか・・・」


大輔さんは顎に手をあて、何やら考え込んだ。


「蓮、サナちゃん。今から独り言いうから、ちょっとほっといてな」

「は?」

「あれは確か統矢さんが中学2年の時。新米の女の体育教師と体育倉庫でヤっちゃったんだったなー」

「・・・」

「音楽室で、音楽の先生と、ってのもあったなー。ベタだよなー」

「・・・・」

「後は保健室でだいたい制覇だなって言ってたけど、

あそこは意外と人の出入りが激しくて、さすがの統矢さんも断念したな。

なかなかビデオみたいにはいかねぇなぁ、ってさ」

「・・・・・・」

「あ、でも、視聴覚室は穴場だってしょっちゅう誰か連れ込んでたな」

「・・・・・・・・・・」

「高校の時は、男性教師が校長に紹介するために連れてきた婚約者に目をつけて・・・」

「うわー!それ以上聞きたくないです!怖すぎ!」

「あはは。ま、統矢さんの武勇伝のほんの一部だ」


ほんの一部!?百部でもじゅうぶんです!!!


「こんな話はさすがにユウにもできなかったな。あいつ、意外とヤキモチ妬きだからな」


そう言って、大輔さんはニヤリとした。



・・・ふーん、なるほどネ・・・






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ