表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18years  作者: 田中タロウ
100/109

第5部 第13話

「『何もないところで時間の流れを楽しもう』って感じの島ね」


サナが一言でその小島を表現しきった。


そこは本当に小さな島で、半日もあったら徒歩で一周できそうだ。

かろうじて小学校はあるようだが、中学校以上になると、

毎日船で別の島か本島へ通わないといけないそうだ。


船長さんにも

「お客さん、物好きだねー。こんな島、ダイバー以外来ないよ?」

とのこと。

もちろん二人ともダイバーの資格なんぞ持っていないので、

正に「何しにきたんだ」状態だ。


だけど、俺もサナもこういうところが嫌いじゃない。

元々実家が田舎だったこともあり、

このゆったりとした時間の流れは心地よい。



それともう一つ、この島にいいところがあった。


「あ。あれじゃない?」

「うん、そうみたいだな」


東京で、「○○さんのお宅ってどこですか?」と聞いて、

一発で返事が返ってきたらそれはもはや奇跡だ。

だけど、ここでは、通りすがりのトラクターおじさんに、

「藤城さんのお宅はどこですか?」と聞いたら、

「この坂をずーっと上っていって、海が見えたら左に曲がって。そこに家があるよ」

と教えてくれた。


みんながみんな、この島の住人のことをお互い知ってるんだろう。

それにしてもなんてアバウトな説明。

そしてそれで見つけられてしまうという素晴しさ。

いいなー。

俺、ここ大好き。



確かにそこには家があった。

レンガ造りの低い壁にぐるっと囲まれた敷地内に3軒。


一瞬、親族が暮らしてるのかな?と思ったけどそうではないようだ。


1軒は表札に「饒平名」とあった。

さあ、なんて読むんだ?

もう1軒はなんだかアトリエみたいだ。

東京の藤城さんの家の一室を思い出す。


そして、最後の1軒には表札がなかった。


「どうして表札がないのかな?」

「大輔さんの家じゃないのかもな。取りあえず、あの『ナントカひらな』さんに聞いてみるか」

「・・・なんて読むのかしら?」

「さあ・・・」



その敷地内に入ろうとしたとき、後ろから声をかけられた。


「なんか御用ですか?」


振り向くと、そこにはすごく背の高い男の子が立っていた。

いや、身長は俺より少し大きいくらいなのだが、

顔つきはどう見ても中学生くらい。

こんな子供の時から180近くあるなんて、どんだけデカクなるつもりだ。

日に焼けた顔がいかにも健康そうだ。


「あの、藤城さんってお宅を探してるんですけど」

「俺んちです。そこ」


そう言ってぶっきらぼうに巨人君が指さす先には、例の表札がない家があった。

やっぱり!


「大輔さん、って君のお父さん?」

「そうです。今、工房にいます」


今度はアトリエの方を指さした。

やっぱりぶっきらぼう。

これくらいって、何かと恥ずかしかったりする年頃だもんな。

うんうん、わかるぞ、少年。



それにしても、大輔さんって何かの職人やってるのか?

お兄さんも彫り師だし・・・あ、お父さんも彫り師だったな。

組長の刺青入れたのは藤城さんのお父さんだって言ってたもんな。

職人一家か。

まさか大輔さんもここで彫り師をしてるとか?

でもここじゃ客はいないだろう。


「ついでにもう一つ聞いていい?」

「はい」

「あの表札なんて読むの?『ナントカひらな』?」

「『よへな』です。お父さんのお師匠さんです」

「よ、よへな・・・?」


恐るべし、沖縄。



巨人君にお礼を言って、俺達は工房へ向かった。

すると、そこに近づくにつれて、空気が熱を帯び始めた。

10月とはいえ、沖縄は暑い。

それに加えてこの熱・・・たまらん・・・


「暑いね」

「うん、暑いってゆーか、熱い」

「なんの工房なんだろう・・・」


開けっ放しの窓から中を覗くと、すぐにその謎は解けた。


「・・・ガラス工房?」

「みたいだな」


そこには真っ赤な炎がチラチラ光る炉と、

整然と並べられた綺麗なガラス細工があった。

高校の修学旅行で行った北海道を思い出す。


そしてその炉の中をジッと見つめる人物がいた。


一見してさっきの巨人君の父親と分かる、更なる巨人さんだ。

腰を折り、熱い炉を見るその表情は険しい。

なんか、声をかけづらい。


だけど、俺達の気配を感じたのか、

巨人さんはパッと顔を上げ、こっちを向いた。



その反応は・・・

いやー、予想通り。

コータさんと初めて会った時を思い出すなー。


「お忙しいところすみません。あの、藤城大輔さんですよね?」


巨人さんは肯定も否定もしなかった。

ただただ、口をあんぐりと開けてるだけ。


「自己紹介しなくても分かると思いますけど・・・蓮です。廣野蓮」

「・・・蓮?」

「はい」


すると巨人さんは、大きくため息をついた。


「脅かすなよー!統矢さんが死んで、若い頃の姿で化けて出たのかと思った」


おお。なかなかユーモアのある人物だ。



さすがに工房は熱すぎるから、と言って、

俺達は大輔さんの家に招待された。

いかにも沖縄、って感じの縁側が続く平屋造りの家だ。

窓から入ってくる風もカラッとしていて気持ちいい。


「どうぞ。この辺のお茶だから、お口に合うかわかりませんが」


そう言って、大輔さんの奥さんがニコニコしながらお茶を出してくれた。


「はじめまして。悠奈ゆうなと言います。あなた達、東京から来たの?」

「はい」

「そうなの。私も昔東京に住んでたから・・・なつかしいわ」

「そうなんですか?」


ふふ、っと奥さんは笑うと、何か食べ物も持ってくるわね、と台所へ行った。

俺達の目の前に座る大輔さんは、先ほどの工房での険しい表情とはうって変わって、

すごく優しげだ。


「わざわざ、よくこんな遠くまで来たな。何かあったのか?」

「いえ、そうじゃないんですけど・・・どうしても一度大輔さんにお会いしたくて。

いや、何かあったな、この1年・・・」


俺は、東京の大学に通ってること、そこでコータさんに発見されてしまったこと、

癌になった母さんを組長が強引に東京へ呼び寄せ結婚したこと、

そして8月に二人の間に女の子が生まれたこと、

を、簡単に説明した。


「そうか・・・」


大輔さんは、しばらく黙ってなにやら考えていた。


「ユウは、俺が出て行った後、廣野家を出たんだな」

「あっ。そうか。大輔さんは母さんが出て行ったことも知らなかったんですね」

「うん。大丈夫かな、と心配はしてたんだが、もう俺にはどうすることもできなかったしな。

でも、出て行ってよかった。あの状態であそこに居続けるのはちょっと辛すぎただろうからな」

「・・・」


こんな優しそうな人が組長に楯突いて殴ってしまうくらい、

組長の母さんに対する態度は悪かったってことか・・・。


「俺な、ずっと統矢さんの付き人してたから、浮気してる間も統矢さんはユウのことを好きだって、

わかってたんだ。ちゃんとユウに話してやればよかったな」

「いえ。俺、母さんが廣野家出て行ってくれたこと感謝してますから。こうなってよかったんです」


俺がそう言うと、大輔さんはちょっと意外そうな顔をしたけど、

サナの方を見ると、ニッコリと笑った。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ