表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

歴史が失われて始めた日



20xx年 8月15日 兵庫県西宮市 阪神甲子園球場


「あっちぃ〜」

8月も中旬、1年間で太陽が1番仕事を果たす時期の中、直射日光がもろに当たる甲子園球場の外野席、甲子園名物のかち割り氷をあたまに乗せる俺、水元 はじめは、京都から高校野球を観戦しに1人で兵庫県西宮市の阪神甲子園球場まできていた。というのも、俺の中学の同級生である山岡 雄二が京都府代表の京都宇治高校の2年生エースとして、出場しているのだ。

時刻は11時50分、この日の第二試合、10時30分ごろから始まった京都宇治高校対兵庫代表の市山高校の試合もいよいよ終盤7回裏を迎える。

序盤からお互いチャンスをつくるも、あと一歩得点にむすびつかず、0対0という見た目以上のローゲームとなっている。

しかしこの回、雄二はヒットとフォアボールでノーアウト満塁のピンチを迎えていた。

完全に流れが傾きかけている中、幸か不幸か、アナウンスがかかる。

「スタンドの皆様にお願い申し上げますーーー」

終戦記念日、毎年8月15日の正午に甲子園球場で、戦争で亡くなった方々のご冥福をお祈りして黙祷が捧げられる。言い方は悪いのかもしれないが、俺はこの黙祷の間が好きだ。黙祷を捧げる間、試合中だろうと、選手も監督も審判も、観客もビールの売り子もアルプスにいる応援団も、一斉に立ち上がり、サイレンの音だけが聞こえる。

次の打者を伝えるアナウンスも、アルプスで奏でられる応援歌も、周りの歓声も、

「ビール、ドリンクいかがですかー」という売り子の声も聞こえない。

ただサイレンだけが鳴り響いている。

「アァーーーーン」

サイレンが終わる。

俺は、ゆっくり目を開ける。

「は?」

一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。いや、今もまだ理解できていない。俺がいたのは、高校野球の聖地、甲子園球場だったはずだ。いや、今も甲子園球場のような美しさはないが、球場らしき場所ではある。しかし、先程まで行われたはずの試合が行われていない。だが、それよりも何かが決定的におかしい。何だ、何だ、何だ、何だ、何だ。あたりを見渡す。そうして俺はやっと理解した。あたりには日本人が1人もいない。何故だ、何故だ、何故だ、何故だ。これがいわゆる異世界転移ってやつか?それとも単に夢を見ているのか?さまざまな疑問が浮かびあがってきたが、次の瞬間、理解した。これは、異世界転移でもなく、夢でもないことに。

「痛ってぇー」

突如後ろから蹴り落とされた。

“Kiss my ass,dirty Jap.This is not where you are.”

(消え失せろ、薄汚い日本人、ここはおまえのいる場所じゃない)

その一言、英語が苦手な俺がなぜか理解できた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ