閑話 ルーティアとエレノア2
しかし、外野には妙な噂話が出回っている。それがあるから、ナルミスが叱りに来たのだ。
これは説明をしなければならない。
ルーティアは婚約者アレックスとは話がしづらい微妙な関係であった。
「別に気にしていない」
一言告げるとそれきり黙ってしまう。会話が続かない。不機嫌そうな表情も合わさって、ルーティアはどうしていいかわからず困惑の時間が続く。
子供の頃はもっと話も弾んでいたし、仲良く一緒に遊んでいた。いつから、こんなにやりづらくなったのだろうか。
思い返せば、成長と共にアレックスはルーティアの行動を制限するようになっていった。
少し走ればはしたないと言われ、口を開けて笑えば女性らしくないと叱られる。やけに女性らしさを求められるようになっていった。
それに閉口して、距離が遠退いてしまったのだ。
関係を修復しなければならない、とルーティアは思った。まずは共通の話題を探そうと思った。
アレックスはルーティアの観劇に付き合ってくれるが、彼自信はさほど好きそうではない。いつも退屈そうにしている。
ならば、彼の趣味に今度はルーティアが付き合おうと思った。
「アレックス様は余暇などに何をするのがお好きですか?」
「……乗馬かな」
「まあ、私も是非ご一緒したいですわ」
「女性は馬に乗るものではないだろう」
「さようでございますか」
趣味に付き合うのは諦めた。
結婚など最低限子作りと社交がこなせればそれでいいとルーティアは考えている。
婚約者と恋人関係になれることなど政略が絡めば稀有なもの。
エレノアとクリフォードのような関係は希少なのだ。
目の前で見てしまえば、自分もそんな関係を持ちたいと思ってしまうが、これは政略結婚だと改めて思い出す。
ただ、家庭でくつろげないほど関係が冷えてしまうのも考えものだ。だからこそ、少しは関係を修復したい。
弾まない会話の合間に観察してアレックスが読んでた本を割り出す。その本を借りられるか、読んで理解できるかを確認するため王城の図書館へ足を伸ばす。
「あら、殿下」
「珍しいとこで会うね、ルーティア嬢」
クリフォードと出くわす。クリフォードはアレックスの友人でもあるので、アレックスの最近の様子などを聞く。
「俺といるときは前と変わらないんだけどな。……仕事に慣れてないから緊張してるのかもしれないね」
「お疲れなんですか」
仕事の話など、ルーティアには聞き出せそうもない。
アレックスは自尊心が高そうなので、下手につつくと余計にこじらせそうだ。上手い聞き出し方などを誰か教えてもらえないだろうか。
そこまで考えた辺りで、こういうことは女友達がいればそちらに相談するものでは、と思い当たった。
ルーティアの交流関係は狭い。令嬢達からの攻撃からエレノアをかばい二人で過ごすことが常態化しているのが現状である。
一人前の大人としてまずい。何より王太子妃とその友人の派閥が二人だけというのは非常に問題がある。
クリフォードに別れを告げると、今後をどうするか歩きながら考える。令嬢達に謝る、というのはない。
だが、ある程度目をつぶって交流していかねばなるまい。ルーティアがいつまでも社交会で孤立していては夫になるアレックスの立場もまずくなるだろう。
王太子妃となるエレノアの後ろ楯になる気はあるのに、こんなに弱い立場でいてはいけないのだ。
王城の庭の一角に令嬢達の姿が見えた。
挨拶でもすべきと考え、彼女達に近づく。
「ええ! ナルミス様にも近づいていたのですよ! ナルミス様はそのとき顔を赤らめて逃げていかれましたわ! いったいどんな言葉で誘ったのやら!」
「エレノア嬢の親友を名乗りながらクリフォード王子に近づくんですもの、普通の人とは違いますわね!」
「アレックス様も今に愛想をつかされますわ!」
話題の中心はルーティアであった。
頭痛がする思いがして、彼女達に近づくのはやめた。あの場に入っていく勇気が出せなかったルーティアは後回しすることにした。
あの派閥を崩すには集団でいるときではなく、個別に狙わなくてはと思いを巡らす。
「ルーティア、少し疲れた顔をしているわ」
癒しを求めてエレノアのもとを訪ねた。彼女の隣に座ると、手に指を絡ませて握り込む。頭を彼女の肩に預けた。
彼女の体温が心地いい。
「エレノア、私どこかおかしいのかしら」
「どうしたの」
「あなたといるときが、一番楽で心地よくて幸せなの。アレックスとはそうはなれない。私、アレックスと本当に結婚できるのかしら」
「……ルーはまだ目覚めてないだけ。きっと大丈夫」
エレノアが手を握り返しながら、微笑む。その表情が清らかで心の淀みがほどけていく心地がする。
「私もルーが好きよ」
「うん」
今だけは、ゆっくりとこうしていたい。
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