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17 これから一揆の予定です3

「雨が降ったわけでもないのに、川の水が汚いですねえ」

 そのまま歩いていると、清六が道の横を走る川を見て言う。

 言われて、見たクリフォードは絶句した。


 おびただしい数のそれが川の中にいた。

「まだ虫しか食べてないような大きさですね」

「そ、そうか」

 千佐の発言を受けて、改めて見れば確かにどれも小さかった。


 クリフォードはこれまで戦ってきた魔物たちに対して、水魔法が効きづらかったことの答えを得た。

 彼らは水の中を移動できる水棲の存在だから、水に強いのだ。

 魔物が弱ければ強い威力の魔法をぶつければ倒せるが、強い魔物には無理である。

 ガウェインの魔法適性者は水魔法が一番多かった。


「倒しましょう」

 迷いなく、千佐が言う。

「どう攻撃する?」

 水の中にいては、火魔法も届かないだろう。

「顔を出させます。そこをクリフ様の火で焼いてください。清六、何か投げる武器を!」

「はい」

 清六が両刃の短いナイフのような武器を手渡す。柄尻には輪がついていて紐を通してある。

 千佐は祈りの力を込めて武器を強化する。


 すぐさま、水面に向かって投げつけた。鋭く水を切る。

 クリフォードは慌てて火魔法を練る。

 数匹水面から跳ね上がった。それを火魔法で焼いたが、到底全滅には至らない。


「! 逃げます!」

 千佐が駆け出す。二人は慌ててそれを追う。魔物たちは一斉に川を下り出す。



「池に逃げ込んだようです」

 川と繋がっていた池に魔物たちが集結していた。自ら袋小路に逃げ込んだように見える。

「食い合いしている!?」

 魔物たちは互いに共食いしようと争っていた。

「大きくなろうとしているようです」

 確かに池の中の魔物たちはじわじわと姿が大きくなっていっている。


「清六にはどう見えている?」

「風もないのに水面がバシャバシャしてるなぁと」

 清六には魔物の姿が見えていないらしい。これらは、まだ実体を伴っていないのだろうか。


「この水ごと燃やせないんですか」

「ん?」

 清六に言われて、首をかしげる。

「ええと、火は水を蒸発させれるでしょう。だから、これまるごと蒸発させれば化け物も焼けるんじゃないですか」

「……」


 池の大きさは馬車3つ分位はあるだろうか。結構な大きさである。できなくはないが、確実に疲れる。


 しかし、他に方法も思い付かないし、やらないと言う選択肢はない。クリフォードは腹をくくった。


「じゃあ、ちょっと危ないから二人は下がってて」

 頭上に両腕を掲げると丹念に火を練っていく。

 頬に当たる本物の火の熱気に二人は息を飲む。

 池の大きさと同じくらいになったところで腕を下ろし池の水面に近づけた。

 ジュワッと水が蒸発する。

 吹き上がる水蒸気に千佐は袖で顔を覆った。

 汗とも蒸気ともつかない水の粒がクリフォードの頬を濡らす。

 水が奪い尽くされ逃げ場を無くした魔物たちは焼かれていった。


 池が空になる頃には、クリフォードはぜいぜいと肩で息をしていた。改めて、しみじみとすっかり水の干上がった池を眺める。

「これ、農業用水じゃないのか。いいのかな」

「一雨来れば元に戻るでしょ」

 清六が軽く言う。


「そろそろ農閑期が来ますし、問題にはならな」

「お前らいったい何をしたあ!」

「あ」

 村人に見つかった。



「お前らどこから来やがった?」

「別所の手の者じゃないだろうな!?」

「この村がどういう状況かわかってるのか!?」

 次々と詰問されて弁明する余地がない。村人たちは殺気だっていた。

 池を干上がらせてしまったからかと思ったが、違っていそうだ。


「この村はこれから一揆を始めるとこだ。お前ら、武家の格好してるがこの領地の領主別所殿と関係ないだろうな」

「通りすがりの者です」

 見つかり、広目の農家の屋敷に連れて来られていた。そこで大勢の農民達に囲まれている。


「一揆て何?」

「農民が年貢に不満持ってたりすると起こす反乱です」

 耳慣れない単語を小声で清六に尋ねる。

「何を話している!」

 一々とがめられて相談もままならない。

「笠を取らんか! いつまでも怪しいやつらだ!」

 下手な動きを控えた結果、笠を取る暇もなかったのだがそれで余計に怪しまれる。

 それぞれ顔を見合わせてしょうがないと笠を取る。


「なんだ、お前……異国の人間か。そんななりをして」

 顔立ちに目の色で隠しようもない。面食らったのか村人たちの勢いが少し落ちる。日避け布も取る。


 おお! と今度は感嘆の声が上がる。千佐が笠を取ったのだ。

 かわいい、などと遠慮なく上がる賞賛の声に内心ムッとする。


「この村には何をしに来た」

「先程も申した通り、たまたま通りがかっただけです。こちらのお嬢様の兄上が病気をされましてね、各地の霊場を回って平癒を祈願しに行くところなんです。私はお供で、こちらは護衛です」

 すらすらと清六が答える。


「異国の人間を護衛にするか? 普通」

「でも、こんな目立つ人間を間者に使ったりはしないだろう」

 今度は村人たちがひそひそと密談をしている。


「お前ら、別所側の人間じゃないのなら、一揆に参加しろ」

「ええ……」

 無茶ぶりに心底閉口した。


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