夜
眠れない僕は夜の道を歩いていく。
歩きなれた道を、見なれない夜の景色を眺めながら。
どこへ行くのか、自身の足に聞いてみる。
応えなどなく、惑うように夜の奥へと吸い込まれていく。
夜の空気は澄んでいて、夜風は体に心地いい。
微かな明かりが空に浮かんで、今夜の旅を彩った。
どこからか虫の声が聞こえる。
鳥の鳴く声も聞こえてくる。
人の言葉の居場所はどこにもなかった。
それでどこへ行きたいのか、胸の内に聞いてみる。
それでも応えなく、心惑うまま、夜の森へとわけはいる。
夜の深さに果てはなく、帰ることも忘れ去った頃。
森の奥にぽっかりとひらけた場所、小さな湖がぽつんとあった。
月明かりに照らされた場所。
水面に歪んだ月が昇る場所。
僕は吸い込まれるように湖の中へ沈みこむ。この身ひとつで。