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キラキラの星

作者: 柚子大根

アリシエの尊さ詰め込んだよ。


「かわいい」

聴きなれた言葉は違和感もなくボクの中に溶ける。

本当の姿ってなんだろう。ボクの本当はどこにあるんだろう。

誰もそんなこと気にしてなかった。ボク自身向き合ってなかった。

あの子だけは違った気がした。

「目にお星様が浮いてる!」

そう言ったあの子の目は誰よりも透き通っていてキラキラしていた。






ふっと気がつくと、あたたかい日差しがボクを照らしていた。

どうやらうたた寝をしていたらしい。

ソル学の温室は微かに魔力が満ちていてとても居心地がいい。

懐かしい夢だ、そう思った。

あの日のことは絶対に忘れない。

もう一度目を閉じたら見れるだろうか。







少し早く教室についたボクは扉を開けた。

するとボクよりも早く教室に来ている子がいた。

白く透き通った髪、赤く綺麗な瞳、きちんと着こなした制服、その子は目が合うと満面の笑みを浮かべた。

「おはようアリィ!」

「えっと…名前…」

「目にお星様が浮いてる!キラキラだね!」

グッと顔を近づけてきた彼女はそう言って微笑んだ。カァァっと頬が赤くなるのを感じた。

「そんなこと初めて言われた…」

「私はシエリア!ちゃんと話すの初めてだよね!」

マイペースだ、と思った。

だけど不思議と居心地が良かった。

この日からボクとシエリアはよく一緒にいるようになった。





「アリィちゃんほんとに可愛いよね〜」

「わかるー!!可愛いし綺麗だし!」

「女の子らしくて憧れるよね〜」

いつもなら嬉しいと思うの言葉は、まるでボクの半分を否定しているようで、なぜか苦しさを感じた。

「でもアリィちゃんって男の子なんでしょ?」

「えっそうなの?!」

「そんなわけないよ〜あんなに可愛いのに!」

「シエちゃんはどう思う??」

その言葉にどきっとした。

少し教室を覗き、様子を見る。

シエリアはきょとんとした顔をしていた。

「なんの話ですか??」

「アリィちゃんの話!アリィちゃんって男の子なのかな?」

「アリィはアリィですよ??」


心臓がはねる。


「なにそれ〜」

シエリアはニコニコと笑いながら当たり前のことのようにそう言った。


その言葉はボクの全部を肯定してくれているように感じた。

目から溢れる涙は、まるでその言葉を待っていたかのようだった。






「……リィ!アリィ!」

はっと気づくと目の前にシエリアの顔があった。

「…うわっ!」

どうやらもう一度眠ってしまっていたらしい。

「何かつらいことがあったんですか?」

シエリアが心配そうにしていた。

目元が涙で濡れていた。

「…ううん、嬉しいことだよ」

あの日、ボクの中でシエリアが特別になったのだ。

ニコニコと笑うボクをシエリアは不思議そうに眺めていた。






久しぶりにあの日の夢を見たからか、その日はとても機嫌が良かった。寮に戻り、談話室に行くとノワールが何やら気難しい表情で暖炉を見つめていた。

「ノワ〜」

「うわぁぁ!なんだよ急に!」

「何難しい顔してんの〜?似合わないよ?」

ニヤニヤしながら言うと、ノワールは眉をひそめた。

「別に…」

「なになに??ラヴィーナさんにふられちゃったとか??」

「…」

黙ったままのノワールを見て図星か?と考えていると、ボソッと呟いた。

「脈なしなのかな…」

本気で凹んでいるノワールを見て思わず笑ってしまった。

「ったく…なんだよほっとけ!」

「らしくないなあノワ。そんな悩むタイプだっけ??」

「俺だって落ち込むことだってあるんだぞ。」

「昔のノワは可愛かったのに!ボクに一目惚れしてすぐに告白してきたよね」

クスクスと笑いながら言うと、ノワールはカァァっと赤くなった。

「あれは…しゃーないだろ!あの頃のお前マジで…」

「マジで??」

「あーくそっ…性格悪いな!昔は可愛げがあったのに。」

「ふふっ…でもほんとにノワはノワらしくまっすぐいればいいと思うよ?」

「はぁぁ…って言われてもな。」

どうやらノワールは本気でへこんでいるらしい。

ボクはそんなノワールに少し驚きながら、寂しさを覚えた。

「ボクってさ、小さい時から可愛かったでしょ?」

「はぁ?」

「でもさ、初めてだったんだよね。ノワが。」

「初めてって?」

「ボクのあの姿を人に肯定してもらったのが。」

そう、ノワールと初めて出会った日、ボクは初めて女装をした日だった。

「え…」

「懐かしいなぁ…初めて出会った男の子に、初めてあの姿を肯定されて、すごく嬉しかったの覚えてる。だからボクは女の子になりたいって思ったんだ。」

「…」

「女の子に、なれるって思った。」

ノワールは思いがけない言葉を受け、目をパチパチとさせた。


「好きだったんだよね、ノワのこと。」


懐かしい思いに胸を馳せながらそう言った。

「あぁ…俺もあの時の告白に嘘の気持ちはなかったけどな」

ボクたちは笑い合った。

「ふふっだからボクが言いたいのは、あの真っ直ぐなノワに救われたってこと!」

「なんだそれ」

「ボク女の子になりたかった。なろうとしてた。でも女の子にはなれなくて、男の子でもなくなってて、ボクってなんなんだろうって思ってた。」

アイドルを始めたのは女の子になりたかったから。

女の子のボクには価値があると思えたから。

「シエちゃんと出会ってボクは初めて“アリィ"を肯定された気がしたんだ。男の子になりたいって思った。」

「アリィ…」

「ずっとノワには感謝してたよ。だから、大丈夫。ノワなら。」

「おう…俺もアリィなら大丈夫だと思うよ。」

その言葉はボクの背中を押してくれた気がした。

「ふん!ノワのくせに!」

「なんだそれ!!お前人がせっかく…」

ぶつぶつと文句を言い始めたノワを見て笑いが溢れた。

あの日からシエちゃんが特別だった。アリィとして生きることを許された気がしたんだ。











その言葉はなぜか私の胸に突き刺さった。


「好きだったんだよね、ノワのこと。」

談話室を覗き込むとそこにいたのはアリィとノワールだった。

「あぁ…俺もあの時の告白に嘘の気持ちはなかったけどな」

私は思わず談話室に背を向け、足早に自室に戻った。後ろから2人の幸せそうな笑い声が私を追いかけてきた。

部屋に戻ると、エルちゃんが不思議そうな顔でこちらを見てきた。

「シエ?どうかした?顔色悪いけど…」 

「エルちゃん…」

「シエ…?」

エルちゃんの手が私の目元に触れる。

「あれ…」

私が泣いていることにその時気づいた。

「なんで涙なんて…」

目を閉じるとアリィとノワールが笑い合っている光景が浮かんできた。

胸がズキズキと痛む。

その日、エルちゃんは何も言わずに私のそばにいてくれた。



 

次の日。目が覚めると頭がズキズキと痛んだ。

ぼーっとしながら時計を見ると8時を過ぎていた。

寝坊。

人生で初めて寝坊をした。

気持ちが乗らないまま準備を進め、教室に向かった。

教室に入るとアリィが真っ先に駆け寄ってきた。

「シエちゃんおはよ!珍しいね、いつも早いのに」

「アリィ…お、おはよう、寝坊しちゃって…」

アリィの顔を見ると昨夜の光景が浮かび、うまく笑えなかった。

不思議そうな顔をしながら、アリィは私の手を引っ張った。

「いこ!メッザノッテと合同授業だよ!」

いつもと同じはずが、繋いだ手がとても熱く感じた。

手を引かれるままアリィと一緒に次の教室へと向かった。

「あ、ノワ!おはよ!」

アリィが少し先にいたノワールに声をかけた。

「はよ」

「ヤンキーぶってるくせに真面目じゃん!」

「な、うるせーキラキラ女!」

楽しそうに話す2人を見て、思わず繋いでいた手をパッと話した。

「シエちゃん?」

「あ…先生に呼ばれてるの忘れてました!先に行きますね!」

そう言って2人を置いて教室へ向かった。

なぜかいたたまれなくなったのだ。

繋いでいた手を離した時の、少し傷ついたようなアリィの顔が離れない。

「きゃっ」

前を見ておらず、思いっきり人にぶつかってしまった。

「ご、ごめんなさい!」

「いったぁ…ってあれ、シエちゃんじゃん珍しーどうかしたの??」

顔を上げると、赫ちゃんがきょとんとした顔をしていた。

「何かあった?あたしでよかったら話聞くよ?」




お昼休み、アリィに用事があるからと言って、中庭に向かった。

すでにそこには赫ちゃんが待っていた。

「んで、どうしたの?」

「それが…」

私は昨日のことを洗いざらい赫ちゃんに話した。自分のモヤモヤとした濁った感情も、全部。

赫ちゃんは真剣に聞いてくれていた。

「ふぅーん…それで、シエちゃんは、アリィのことどう思ってるの?」 

「…シエは…アリィとは友達で…でも…ずっと特別で…アリィはシエのことをまっすぐ見てくれた人だから…」



私は優等生でいなければいけなかった。



なぜなら神族の長の娘だから。



なぜならエスポワールだから。



なぜならシエリア・テオスだから。



取り繕っていた自分がいつからか本物になっていた。本物のように。

アリィはそんな私のことをいつもまっすぐ見てくれていた。

アリィの笑顔が浮かぶ。

アリィはいつだって太陽のように私を照らしてくれていた。



「アリィのことが好き」



赫ちゃんはにっこり笑った。

「シエは…どうすればいいんでしょうか…アリィとノワくんは……赫ちゃんはどう思いますか?赫ちゃんから見てアリィは…」

「それは言わないでおくわ」

「え?」

赫ちゃんはとても楽しそうに笑っていた。

「シエちゃん。アリィとちゃんと話すべきじゃない??」

アリィと話す。

ちゃんと向き合う。

「それは…でも…」

「信じて」


信じる。


「アリィとシエちゃんを、信じて。」 


赫ちゃんのキラキラした瞳は誰かに似ていた。

そうだ。アリィだ。アリィの瞳は誰よりも綺麗でキラキラしていたんだ。

「行っておいで!」

赫ちゃんにそう言われると自然と体が動いた。

なんとなく、アリィのいる場所が分かった。









あたたかい魔力に包まれながら、ぼーっと物思いにふけっていた。

今日のシエちゃんは明らかに様子がおかしい。

何かあったのだろうか。

シエちゃんに振り払われた手が寂しさを握りしめる。

バン!

温室のドアが思いっきり開いた。

駆け込んできたのは息を切らしたシエちゃんだった。

「シエちゃん?!どうしたの?!」

「嫌だった!!!!シエは嫌だったんです!!」

「え?」


「シエにとってアリィはずっと特別だったから!アリィが初めてだった!シエを、初めてちゃんと見てくれた人だったから!!」


「シエちゃん…」

真っ直ぐな言葉がボクの中にすっと入ってくる。


「アリィがノワくんのことが好きなのも、ノワくんがアリィのことを好きなのも知ってるけど…でも…嫌だったんです…」


シエちゃんの目から涙がこぼれた。

「シエは…」

「ちょ、ちょっと待ってシエちゃん!」

思わずシエちゃんの言葉を止めた。

シエちゃんはすごい勘違いをしているらしい。

でもボクは泣いているシエちゃんをとても愛おしく感じた。

俯いているシエちゃんの涙を拭うと、顔を上げた。

シエちゃんの赤く綺麗な目には、キラキラとした星が浮かんでいた。



一体どんな言葉をシエちゃんに伝えればいいだろう。

シエちゃんへの想いはいつのまにか抑えられないほどに大きくなっていた。




…伝えたい言葉なんて一つしかなかった。



「好きだよ、シエちゃん。」


「え…」


やっと言えたこの思いが、シエちゃんにもっと伝わるように。



「ずっとシエちゃんが特別だったんだ。ありのままのボクをシエちゃんが受け入れてくれたあの日からずっと。」

涙が止まらないシエちゃんをボクは抱きしめた。


思わずこみ上げてきた涙は、他の誰でもないボク自身のものだった。  






「大好きだよ」




fin

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