笑わない彼女の思い出
喫茶店から足が遠のいた一つの切っ掛けがパソコン通信だった。
そこで掲示板システムやチャットと言ったオンライン上を居場所とするようになった。
年号が平成に代わって、そのパソコン通信もインターネットに取って代わられて衰退し、連絡手段としては携帯電話が普及し始めた。
その頃、悪友に連れられて行ったゲームセンターで某ロボット対戦ゲームを見てそのできに感銘した。とは言っても貧乏性やら引っ込み思案やらでゲームセンターに入り浸ると言うよりはそれを話題にした個人ページ(所謂ホームページ!)を巡回するようになっていった。
そんなHPの掲示板で企画されたオフ会にも顔を出すようになり、そこで彼女と出会うことになった。
彼女は当時、付き合っている(と主張する)彼氏に依存しているようだった。
しかしその実、その彼氏の実態は全く不明だった。彼女が何度も参加するオフ会にもついてくることはなく、オフ会の際に電話がかかることもなく、掲示板への書き込みさえ見たことがなかった。
とは言え、疑う理由もないのでこちらからは特に何のアプローチもしなかったと記憶している。
切っ掛けがなんだったのかは最早覚えていないが、ある時彼女を紅葉を見せに連れて行くことになった。
驚いたのは待ち合わせ場所である某駅前で、私を見つけるなり駆けてきてそのまま勢いよく抱きついてきたこと。
それまでに何人かと恋はしたものの、経験値の低い私は驚きはしたけどそう言う性質なのかと極力素っ気なく振る舞った。
それから彼女のリクエストに応えるまま、彼女の知らない景色を見に行ったり食事をしたり、一日中車で連れ回した。そしてそろそろ送る時間と言う段になって、一人で帰りたくないとごねだした。
その後の私だと家まで送って深夜に一人で帰ってくるくらい平気でやってのけるのだが、当時の私はそこまでの根性はなく。と言うか、思いつきもしなかった。
そんな訳で離れたがらない彼女をどうしたらいいか持て余して、結局はラブホテルに行くことになった。
しかし、彼氏がいると言うのが余りに当時の私には重く、事前に約束させたように手を出さずに二人並んで寝た。
だってねぇ、あなた。不眠症で薬を処方されていると言う女の子が、いつも自宅でも眠りが浅いと言う女の子が、こちらのガウンにしがみつくようにしているんですよ。そりゃぁそっと手を添えて握り締めた力を緩めさせたくなるじゃぁないですか。そうしたら私の手を繋ぐように軽く握ったまま寝息を立てるんですから。そうしたらもう、並んで寝るくらいしかできないってもんですよ。
こりゃやばいな、そう思いながら、あれこれ考えながらもこちらも寝てしまい。
翌早朝目を覚ましたらおんなじ姿勢のまま、ぐっすり寝てらっしゃる。
病的で肌色が悪く、発育も悪く、攻撃的な口調で、無表情で、所謂構ってちゃんで、彼氏がいて、自分はその彼氏の一番なのと言って、人をおっさん呼ばわりして、ゲームの腕を馬鹿にして。
だからこっちも全く気にも止めていなかったのに。
初めて見る景色に目を見開き、喜び、笑い、泣き、感情をぶつけてきて、自分の隣で安心し切って寝息を立てて。
心底失敗したなぁと思いながらも、なんだか嬉しくなってしまって彼女の寝顔を見続けていた。
ご無沙汰しております。三ヶ月も経ってしまい、忘れ去られていそうで……
やっとの事で第三話を投稿します。
今回、京都は出てきません。しかも尻切れ。
続きを書けるのか、それとも別の思い出を書くのか、未定です。
兎にも角にも、お読みいただきありがとうございます。
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