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敗北の忠誠者‐甘蓋閑次 編‐  作者: 氷上雪彦
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第二章 甘蓋の選択

甘蓋は全身の激痛に耐えられず、意識が遠のき次目を覚ますと帝国式基地内の病室のベッドに寝かされていた。


「・・・うっ」


起き上がろうとすると痛みが走り、できなかった。

具体的な痛みの発信源が分からない。取り敢えず左腕と右足は包帯でぐるぐる巻きにされていた。


「屋根から落ちたんだって?ちゃんと受け身とらないと」


そう言って甘蓋の前に現れたのは優矢だった。


「全身青痣だらけだったぜ」


「優矢・・・」


「その怪我じゃしばらく戦えないね」


「・・・そうだな」


「甘蓋さんっていつも追い詰められたような顔してるよね」


優矢はそう言って甘蓋が横になっているベッドに腰を下ろした。


「それにしても華羽がここまでやるとは思ってなかったよ。貴方達どういう関係なの?」


「・・・」


「俺、先に帰らない方が良かった?」


優矢はわざとらしく首を傾げて甘蓋に問う。

すると甘蓋は微笑み、優矢の頭を撫でた。


「お前に危害が及ばないならそれで良い・・・」


「別に俺はいいよ。いざとなったら殺しちゃえばいい」


「華羽をか?」


「そうだよ」


優矢はニコッとそう答えた。


「・・・実はな俺と華羽は昔別の軍隊に所属していた。

課せられる任務は今より重いものだったよ。

毎日のように仲間が死んでいく。

俺達はそれを後目に戦い続ける日々、当然だが最初の方は特に辛かったな。

華羽は昔は良い奴だったよ。

人の目を代償に闇医者なんてのもやってなかった。

世話焼きな奴で重傷隊員の怪我の手当てを快くやってた。

今じゃ昔と何もかも違う。

でもそれは奴が今よりあまりにも無知だったから。

無知な奴は優しい。知らない事が多いから優しかった」


「華羽、優しかったんだ」


「ああ、良い奴だったよ。

あいつを慕わない奴なんて仲間の中にはいなかったと言い切れるさ。俺もあいつ無しでは駄目になると思っていたくらいだ」


「今は逆の立場だよね」


「華羽をあんな風にしてしまったのは俺の責任でもあるかもしれない。俺はあいつに甘えていたクセに手のひら返しで突然自分の都合だけであいつを突き放したんだからな」


「ふぅん」


「あいつ(華羽)にも言われたよ。

《お前はいつも追い詰められた顔をしている》・・・ってな。

俺で良ければいつでも話を聞くとも言ってくれた。

俺は華羽のその優しさに付け込んだ。

そして初めに俺はあいつに体の関係を求めた。

純粋だった華羽に・・・」


「最終的に面倒になって自分から突き放しちゃったんだ。

最低じゃない。今回重傷じゃなくて普通に死ねばよかったのに」


優矢はじっとりとした目で甘蓋を見る。


「・・・コホン、本当にその通りだ。

俺は怖かったんだ・・・奴があまりにも俺に優しいから。

あんなに仲間慕われ囲まれていた奴が俺に優しくしてくるんだ。あいつが俺の頼みを断る事は一度も無かったよ。

だからどうしても突き放したくなった」


「んで、今は俺にお熱なんだよね」


「・・・」


「じゃあ俺の事もそうやっていつか突き放すようになるんだ。アンタって自分の事しか考えた事無いんじゃない?

自分が可愛くて仕方ないんでしょ」


「・・・そう、なのかもしれない」


「華羽は普通の人だよ」


優矢はそう言うと病室を出て行った。



しばらく一人で窓の外を眺めていた甘蓋に突然聞き覚えのある声が話しかけてきた。


「・・・甘蓋俺は」


その声がする方を甘蓋は向かなかったが引き続き窓の外を眺めながら答えた。


「・・・どうした」


「ごめん」


「お前が俺に謝るな。らしくない」


「俺はお前に傷付いて欲しくは無いのに・・・俺はいつからかお前のことを傷つけてばかりになってしまったよなぁ・・・」


華羽は頭を抱え額に汗を流しつつ口元には何故か笑みがこぼれていた。


「何もさぁ楽しくは無いのに笑っちゃうんだよなぁ。

お前のその姿を見ると何か笑えてくるんだよ

ハハハ」


「華羽、お前の頭のネジは幾つか外れている。

だから感情をコントロールできないんだ」


「何だと?」


「お前は昔より馬鹿になったって事だ」


「・・・誰のせいだと思ってるんだ」


華羽は拳に力を入れた。

だが、その腕は震えていただけで甘蓋の方には向かなかった。


その時、帝国式基地内に大きな警報が鳴り響いた。


「緊急、緊急。

異世界敵軍部隊名不明のおよそ百名侵略開始。

第一部隊から第三十部隊、風車隊は現場に向かってください。

繰り返します」


「・・・不明部隊だと?」


「華羽、気を付けろよ」


「煩い!病人は黙ってろ!」


華羽は甘蓋に直ぐにそこにあった花瓶を投げつける。

その花瓶は甘蓋には当たらなかったがベッドには破片と水が飛び散った。

華羽はそれをお構い無しに現場に向かった。


「・・・やれやれ」


甘蓋は手足を動かす事ができず水浸しになったベッドで眠りに落ちた。


その頃優矢は敵部隊がいる現場に向かっていた。

輝楼とジンも一緒だった。


「第一部隊まで出動なんて珍しいね」


「第一部隊だけじゃあねーだろぉ。

帝国式軍の部隊は若い数字ほど有力な戦力っだったよなぁ?第一部隊から第十部隊は普段から緊急事態の為に待機させている奴等でなかなか働かねぇ。

そんな奴等が今回出動命令を出されたって事は相当ヤバいって事じゃあねーのか?」


「そうだね・・・そして侵略は既に開始されているみたいだしあからさまな街破壊をしている可能性が高い。

急がなくては」

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