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敗北の忠誠者‐甘蓋閑次 編‐  作者: 氷上雪彦
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第一章 甘蓋という男

「華羽って無駄に他人の眼球をコレクションしている人でしょ?

嫌だなそんな奴にそんな事言われてたなんて」


華羽が闇医者と言われている理由はまず、医師免許を所有していないのにも関わらず患者の手術を行っているうえ、報酬は金ではなく患者の片目。

華羽に直せない病は無く、患者は喜んで自身の片目を差し出し、健康を手に入れるのだ。


「華羽は他人の眼球を手にするためなら手段を選ばない事もある。

気を付けた方がいいかもしれないな。

優矢」



翌朝、優矢が目を覚ますと甘蓋の姿は無かった。


「・・・まだ五時・・・・・・朝礼までまだ二時間もあるな」


優矢はそう呟くと布団を深くかぶる。


(それにしても甘蓋の奴、何事にも平然とした男だと思っていたけど案外誰よりも人間らしい奴だ)


優矢が心の中でそう思った時、廊下から聞きなれた声が二人分聞えてきた。


「いいじゃないか。部屋で楽しもう」


「入って来るな!今はお前とやる気力は無い」


「・・・そんな安っぽい目玉で俺を睨みつけるなよ。

相変わらず汚い目だ。

ただ黒く、光を通さない」


「だったらもう部屋に戻れ・・・二階の部屋からわざわざここまで上がり込んできて迷惑にも程がある」


甘蓋の力が無い一言で二人の会話は終り、それと同時に部屋のドアが開き、甘蓋が入ってきた。


「優矢・・・起きていたのか」


優矢は、ベッドに座りながら甘蓋をじっと見ていた。


「おかえり。

さっきの声、闇医者でしょ?」


「あ、ああ・・・」


「誘われてたね。俺出て行ったけど」


「いや、あいつとはもうしないって決めたから」


「そっか」


優矢はにっこり笑ってベッドに倒れ込んだ。


「汚い目って言われてたね」


「ああ、華羽が俺にいつも言ってくる言葉だ」


「そ、あ!俺用事思い出したからそろそろ部屋に戻るよ」


優矢はそう言うと甘蓋の部屋を後にした。

甘蓋は優矢が部屋を出て行った後も、しばらくじっと突っ立ったままだった。



昼食の時間、優矢が一人で食事をしていると、その隣の席に風車隊の一人である『ジン・ウェザールド』が座った。


「あれぇ~~?優矢ちゃんじゃぁ~ん」


狂った様な話し方が彼の特徴の一つ。


「エビフライ丼なんて食べてるんだぁ~ヒヒッ」


「どうも」


優矢はジンに目を向けることなく食事を続ける。


「そういえばさぁ~あ?昨日寝たんでしょ?甘蓋君と~」


「もうそんなに広まってるんだ」


「華羽が広めて回ってるよん。あいつ根に持つタイプだからねぇ~」


「・・・?あの人(華羽)、甘蓋さんに何かされたの」


「知らないのぉ~?甘蓋と華羽は付き合ってたんだぜ」


「・・・」


「ここではよくあることだよん。男が男と付き合うなんてのはさ」


「・・・ジンさんもあるんですか?」


「ナイナイ~俺遊びたい派だし」


「・・・」


「それよりぃ~華羽はまだ諦めきれてるわけじゃなぁいみたいなんですよなぁ。

こうなれば君の身も危険だよねぇ~」


「どうして俺が関係あるのかな」


「一度寝たんなら立派な罪だぜ。

華羽は近いうちにお前に喧嘩吹っかけてくるだろうよ」


ジンはニタァと不気味な笑みを浮かべると、そう言い残して去って行った。


「・・・」


優矢は面倒な事になってしまったとエビフライをかじりつつ若干思った。


(辞めようかな・・・この仕事)


すると、突然優矢の目の前に周りの空気を一変させるような見覚えのある美しい青年が現れた。


「周りにあんなのが多いと嫌になるよね」


青年はジンが去って行った方向を見ながらそう言った。


「貴方は・・・」


「いきなり話しかけてしまって御免ね?

俺は君と同じ風車隊の一人、『輝楼キロウ ジェラルド』。

日本人の母とドイツ人の父のハーフなんだ。

それがどうしたって感じかもしれないんだけど、前から僕は君と何気ない話がしたいと思っていてね。

ここが独特な空気なせいか、どうも僕も馴染めなくて。

君とはこことは別の過去の話でもしたいな」


輝楼はそう言いながら首まで伸びる美しい茅色の髪を耳に掛ける。


「ずっと話したいと思っていたはずなのに、何人かに先を越されていたみたいだね」


輝楼が若干寂しそうにそう言って微笑むと、優矢はこう言葉を返した。


「貴方とは一番気が合いそうだ」



それから十時間は経っただろうか。

優矢達風車隊は夜の戦場で戦っていた。

相変わらず銃弾が放たれる音がどこもかしこもに鳴り響き、

微かにある街灯を頼りに皆は目を光らせる。

そんな中優矢だけは家の壁に身を隠し、甘蓋を見張っていた。

今優矢から見えている甘蓋の姿は後ろ姿で、甘蓋は敵にそっと近づいているところだ。


敵が甘蓋の存在に気づくと持っていた銃を放つ事無く何故かうろたえた様子を見せた。


「な、何だお前!?」


敵が甘蓋の存在に気づいた頃には敵と甘蓋の距離は三十センチも無かった。

優矢はその時、甘蓋が敵に持っている銃口を突き付けているのだと思っていた。

敵は断末魔の叫びと共に血を口から吹きだし倒れる。

甘蓋は敵の死を確認すると、直ぐに他のターゲットを探しに行ってしまった。

残された敵の死体に優矢がゆっくりと近づいて見てみると、敵の胸からは血が噴き出していたが、傷口はとても銃弾をくらったものとは思えない形をしていた。

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