第一章 甘蓋という男
二〇〇四年一二月、優矢は退屈な気を紛らわす為に天武舞大軍神に忠誠を誓いある程度の能力を示した者のみが入隊できる【日本裏特殊部隊 帝国式軍】という軍隊へ入隊する事にした。
優矢が配属されたのは【風車隊】という入隊試験で特にどの種目でも目立たず頭角を現す事無く入隊した十二人で組み分けられた隊だった。
そんな隊は帝国式軍の中には複数あり、そういう隊は頭角を現した者達から【雑組】と言われ罵られていた。
しかし、【風車隊】の十二人が品格を現すのはそう遅くはなかった。
まるで今まで手を抜いていたのかと思わせるくらいに本番の戦場ではどの隊よりも敵を確実に仕留めていった。
他の隊員達はそれを称えるどころか恐怖していた。
「あいつら、訓練では鉄砲の弾外したりしてたのにさ~・・・わざとだったのかな~あれ。
俺恐ぇよ・・・戦場では簡単に殺しちまうんだもんな」
「チラチラ動き回る敵をいとも容易く・・・」
こうして、帝国式軍内では【風車隊】の存在がどんどん大きくなっていった。
しかし、風車隊は一般の思考からかなりかけ離れた人間の集まりで、考え方もそれぞれまるで違う十二人だった。
優矢は風車隊の誰とも一言すら話す事無く月日が流れていった。
ある日、戦場で優矢が酷く手こずった敵を息を切らしながら見つめていると風車隊の一人である『甘蓋 閑次』が声をかけてきた。
「こいつは敵部隊の幹部だな。
こんな路地裏にまで連れてきて殺すとは・・・なんて御機嫌な奴だ」
「これで【無限独奏部隊】の連中も暫くは懲りるだろうか」
優矢が言う、【無限】とは別世界から来た侵略部隊であり、【無限独奏部隊】以外にもこの世界を狙う組織が多数別世界からやって来る。
【帝国式軍】はそんな連中を始末する為に日本で特別に構成された裏特殊部隊なのである。
「結構抵抗された。苦労したんだ。でも結果が全てだ」
そう言って口元を緩める優矢に対して喝を入れるように甘蓋は言った。
「結果が全てだと、この戦いを繰り返してもそう言えるか?」
「・・・?」
「《結果が全て》などと戯言を抜かす奴はくだらない遊びにプライドを賭けた猿のような人間だ。
お前も俺も最後にはこの死体の様に安らかに眠るのさ。
大切なのは途中経過だ」
甘蓋はそう言うと夜の街に消えていった。
「安らかに・・・ね」
優矢は路地裏に転がった死体を見るなりそう呟いたのだった。
それから優矢は甘蓋に興味を示すようになった。
あれから暫く日にちが経った頃、帝国式軍の基地の休憩室に優矢が入ると、そこにはコーヒーを飲みながら新聞を読む甘蓋の姿があった。
数分の沈黙の後、最初に口を開いたのは甘蓋だった。
「お前、最近私をみているな」
「あれ、バレちゃった?」
優矢はポットからコーヒーを注ぎながらそう答えた。
「戦場でお前の姿がチラつく。
俺を追ってるのか?」
「だって甘蓋さんは俺より二年も先輩でしょ?
見本にしたいんだよ。戦い方の」
「俺はただ銃を敵に向け、撃ち続けているだけだ」
甘蓋は少し不満そうに顔を顰めた。
「そんなに怒らないでくださいよ。
俺はただお礼がしたかっただけなんです」
優矢は黒い笑みを浮かべた。
「あの時は忠告どうも。
《結果が全て》って言葉は戯言だって教えてくれて」
「・・・」
優矢はコーヒーを飲み干すと休憩室を出ようとした。
「待て」
甘蓋は優矢の腕を掴んでそれを引き留めた。
「・・・」
甘蓋は優矢の目を暫く見つめ、言った。
「お前は正しいと思うか?俺の言葉が」
「正しいと思いますよ」
優矢はにっこりと笑顔でそう言った。
「・・・お前の瞳は何故か俺を引きつける
こんな事をしてお前を引き留める積もりは無かったのに
・・・お前は一体何者なんだ?」
「俺は俺。
他の何者でもないけど」
「・・・優矢、お前に頼みたい事があるのだが」
それから優矢は甘蓋の頼みを聞き入れた。
その頼みと言うのは
「俺と一晩共に過ごしてくれないか」
という頼みだった。
その夜優矢は甘蓋の部屋に招かれ一晩共に過ごすことになった。
「アンタがまさかこんな趣味があったとは」
優矢はまだ二十歳も過ぎていない少年・・・
甘蓋は二十二歳・・・
だが甘蓋は優矢に体の関係を求めたのだ。
「男だらけの環境だと仕方無いんだろうけどさ
俺、清純なんだけど」
優矢は夢中になる甘蓋に呆れながら身を任せる
「お前は入隊してから経験していないのか?」
「甘蓋さん顔に似合わず結構遊んでるんだね。
人の目見るなり口説いてくるし。
言っておくけど俺本当男の人の趣味は無いよ」
「あれは口説いたんじゃない。お前の目には何かある。
そうだろ?」
「・・・」
「風車隊の中に別名闇医者と言われている『華羽 有栖』がいるな?あいつも言っていた。
お前の瞳には何かある」