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敗北の忠誠者‐甘蓋閑次 編‐  作者: 氷上雪彦
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第一章 甘蓋という男

二〇一一年六月四日土曜日


京都にある『八万町はちまんちょう』、この町では今年に入ってから妙な噂が広まっている。

八万町に『なかもり』という森があるのだが、奥に進むと立派な屋敷が存在しているという。


そして、その噂と関連付けされているに事実が八万町にはある。

最近八万町ではよく死体が発見されるようになった。

今年に入ってもう七名になる。

にもかかわらず未だに犯人が一人も捕まっていない。

殺害されていた七名は全員男性で汚職や薬に手を染めている者ばかりだった。

死者が多数出ているのにニュースにすらなっておらずSNSに呟こうものなら数秒後には消去される始末。

これらの『八万町』で起きた事件は全て中ノ森の屋敷の住人の仕業なのではないかと噂され始めた。

だが、中ノ森に本当に屋敷があるかどうかは誰も確かめる事が出来なかった。

何故なら中ノ森に入ったと言う者は皆口を揃えて中ノ森で何をしていたか覚えていないと言うからだ。


ちなみに中ノ森に立派な屋敷が存在するのは本当で、その屋敷に住んでいるのは『夜朝兄弟』という血が繋がっていたりいなかったりの兄弟達。

『八万町』で七名を殺害したのも全てこの兄弟の仕業だ。


『夜朝兄弟』について上からざっくり説明しておくと

長男と次男は兄弟の中で存在を知っている者と知らない者がいるうえ今回はあまり登場しないので説明を省くとする。

三男のコルダンと長女のリンダは双子で二人とも派手好き。

四男の優矢は今回の物語ではメインとなる人物。

五男のマスはいつも悪趣味な仮面を被っていて兄弟の中でも素顔を見た事がない者もいるとか。

ちなみにマスは限度はあるが人の心や物を操る能力を持っており屋敷を捜索しに来た人間の記憶を消していたのは彼である。

次女のをるは夜朝兄弟の中で血縁がある者がいないが、優矢がどこかから拾ってきた少女。

三女リリスは人形師。限度があるが魂を生み出し自身で作った人形のみに命を宿す事が出来る。

四女メアリーはリリスが作った人形に命が宿されたもの。罪の無い者を複数殺めた事があり、リリスには少し恐れられている。


屋敷には長男以外の夜朝兄弟が暮らしているのだが今日は朝から優矢とをる二人だけが屋敷の中に居た。


をるが優矢に誘われ屋敷のリビングでテレビを観ていたのだが、二人の間には二時間もの沈黙が流れていた。


「パリッ・・・ポリ」


小さなテーブルに置かれた皿に盛り付けられたうすしお味のポテトチップスを優矢が頬張る音と、テレビのバラエティーの音だげが部屋に響いていた。

こういう時間は時々あり、をるはその度に居心地が悪かった。

だが、『優矢お兄様』にそんな事を言えるはずも無く、ただソワソワしながらバラエティーを夢中になって見ているフリをしていた。

そんなをるの心の声は


(お兄様ってバラエティー番組を楽しんで観てるのかな・・・

たまに屋敷で二人になった時に私の部屋に来てこうしてテレビ観るの誘って来るけど・・・

でも何かいつもにこにこしながら観てるしそれなりに楽しんでいるんだろうか・・・)


そして、ふとをるが優矢の方を見ると・・・


「!?」


不覚にも目が合ってしまい、優矢の表情はテレビを観ていた時の表情よりも更に恐怖な・・・いや、にこやかな笑みを浮かべていた。

そして思わずをるは優矢にこう質問してしまった。


「や、優矢お兄様ってバラエティー好きですよねー!

で、でもいつもテレビ観る時私を誘ってくれますけど・・・どうしてですか?」


をるの鼻と額に汗が浮かび上がる。


(う、うわーっ!思わず気まずくなってガチな質問してしまったー!!!)


頭を抱えるをるに、優矢はバッと顔を近づけた。


「それって俺の事知りたいって事?」


をるは赤くなり、顔を逸らそうとすると、優矢はをるの顔を両手で固定し、自分の方向へ向けた。


「お、お兄様!御免なさい!変な質問して御免なさい!」


をるは恐怖と恥ずかしさに見舞われながら必死に謝るが、優矢はそんなをるの感情とは裏腹に嬉しそうに

していた。


「やっとをるから話しかけてきてくれたね!俺嬉しいよ!いいよ!何でも質問して!」


「え、ええっ!」


「をるって二人きりになっても俺に全然話しかけてくれないし興味無いのかなって思ってたから」


「そ、それは・・・」


それは、普段をるは優矢の事を恐れていたからである。

をるは三年前にある別世界から優矢に誘拐されてきた少女なので、未だに優矢に対しての警戒心は消えていなのである。

とは言え優矢は誰が見ても美しい顔立ちで他の兄弟も目を疑う程には美しい。

どうしても他の誘拐班に比べれば警戒心は薄れる。

そして、《ただの人間》ではない。

そこに何やらロマンを感じるをるなのであった。


「をる・・・実は俺、ニュースにしか興味無くて・・・バラエティーはつまらないものが好きなをるが好きそうだなって思って、俺はバラエティーに夢中になったをるに適当に話合わして盛り上げようとしてたんだけどさ」


(いや、それただ体目当てで近づいて来る男の手口よお兄

様・・・)



をるは優矢の肩をグッと掴んで向こうに押しやり言った。


「ご、御免なさい・・・優矢お兄様がそこまで私に気を使ってくれていたなんて思っていなくて・・・

本当はお兄様の事わりと知りたいって思ってました」


「わりと・・・」


そう呟く優矢の表情から笑顔が消える・・・

それに気づいたをるは「しまった!」と言わんばかりにすぐさま弁解した。


「は、恥ずかしいじゃないですか!本当は凄く知りたいけど凄く知りたい!なーんて乙女の口からはとっても言えないです!」


「そういうもの?で、をるは俺のどんな事を知りたいの?」


優矢が聞くとをるは突然表情を変え、言った。


「私は優矢さんの過去が知りたいです」


「過去?をるはまたつまらない事に興味があるんだね」


「過去の情報は人の性質を良く知るのに一番大切ですよ」


「ふーん・・・でも何から話せばいいか」


(フフン、ちょっと困ってるじゃない優矢お兄様・・・あんなに悩んで可愛い)


をるは優矢の悩む姿が見たくてわざと過去の話が知りたいと言ったのだ。


「うーん、難しいな」


(そうそう、優矢お兄様にはきっと私には言えないような壮絶な過去があるのだわ。

んで、結局出してくるのがどうでもいい話でこの場が白ければいいのだわ!)


「うーん、じゃあ俺が軍人だった頃の話でもしようか」


「え!?」

(何よそれ・・・初めて聞いたわ・・・三年間一緒にいて初めて知った・・・て、ていうか初っ端から驚ろいちゃって!何してんのよ私!)


「俺は昔【帝国式軍】っていう日本の裏特殊部隊の隊員だった」


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