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壊滅

 (ベンフォールドよりコマンドリーダー!本艦の被害甚大。この通信を最後に総員退艦。救助を要請する!)


(コマンドリーダー、こちらシーホーク。上空より被害状況確認中。被害としては駆逐艦7隻が直撃を受け、内5隻は航行不能状態。本機も旋回後、救助活動に入る。)


(ワスプよりコマンドリーダー。本艦も救助活動に参上する。)


陽が沈みかけている太平洋に黒煙があがる。巨大生物から謎の攻撃を受けた第七艦隊は、混乱の度を極めていた。コマンドリーダーとなっている空母ロナルド・レーガンでは、その情報収集と今後の部隊運用について意見が錯綜していた。奇跡的にレーガンの船体にダメージはなかったが、CICがダウンしていた。そのため、現在ブリッジに指揮所が立てられている。


「第二次攻撃隊との通信は途絶しています。救難信号も確認出来ません。」


「観測機もやられました。目標に関する情報は皆無です。」


下士官らが書き殴ったであろう用紙を見つつ報告してきた。その内容に円陣を組んで会議をしていた士官達は頭を抱え込む。


「救助活動は後方部隊に任せて、残存艦艇及び、補給の終わっている第一次攻撃隊を向かわせましょう。弔い合戦です!」


その中、大尉の階級章を付けた士官が強気な口調で進言してきた。


「しかし、トマホークの直撃にすら耐える奴に、有能な攻撃プランがあるのか?空軍の話じゃ、もうリーパーの在庫は残っちゃいない。」


その場にいた最高階級者である少将が否定的な口調で返す。


「空軍など当てに出来ません。第一、無人機を飛ばしてくる時点で卑怯過ぎる。」


予想以上の損害に、士官達は思いの外苛立っていた。空軍に対する愚痴もこぼれはじめ、数人が止めにかかる。その直後、


「私は撤退を進言する。」


不意にその声が聞こえ、全員が振り返った。そこには下士官に介抱されながらブリッジに上がってきたエドワードの姿があった。


入室すると、全員が反射的に姿勢を正す。エドワードはそれを手で制し、続けるようにして、


「これだけの被害が出たんだ。私とて今の状況を見て、部下に死にに行けとは到底言えんよ。」


深い溜息をついてそう述べた。


「では、全艦反転ですか?」


艦隊司令部付きの士官が問いかける。

「私は海の男じゃないから航路をたてて等、詳しいことは分からん。しかし、この状況下で突っ込めとは言えないというだけだ。」


ブリッジから見える海を見つめ、そう口を開いた。その内容に周囲の士官は頷き、撤退の指示を各所に飛ばし始める。しかし、


「アクティブソナーを感知!奴です・・・。」


ソナー員の突発的な発言に、ブリッジは凍り付いた。まるで時間が止まったかのような錯覚に陥り、ソナー員に全員の視線が注がれる。


「本艦の・・・真下です・・・!」


それから数秒、その報告が全員の動きを完全に停止させた。エドワードも言葉が出なかった。


「衝撃にそなっ・・・!」


空母の艦長は我に返り、怒鳴ったが遅い行動だった。下から突き上げる揺れが乗組員を襲う。


エドワードはよろけながらも窓越しから外を見た。すると目の前には、空母の甲板を貫通する青白い光が飛び込んできたのだった。やがて光は、発艦待機していたF18戦闘機らを襲った。下から光を浴びた戦闘機は爆発し炎上。その度に大きな揺れが彼らを襲い、その行動を制限した。艦長はこの状況に艦内マイクを使い、退艦を叫ぶ。しかし艦長の声は乗組員の耳には届いていなかった。下から貫通している光は空母の船体を切断し、その状況に乗組員らは必死になって復旧活動を行っていた。しかし、自然に人間は抗う事は出来なかった。


懸命の復旧作業の甲斐なく、生物から発せられる謎の光を受け、空母ロナルド・レーガンは船体を二つに増やし、海に吸い込まれていった。










 目の前で起きている現実に理解が追いついていなった。潜水艦そうりゅうの艦長浅野は潜望鏡からの光景に息を呑んでいた。浅野は第七艦隊の動向監視任務を付与され、計4日間、潜水艦そうりゅうの艦長として安全距離を保ち監視を行っていた。しかし今起きている出来事に体が硬直していた。その様子に副長が耐えかね声をかける。はっとなり、浅野はすぐに指示を出した。


「潜望鏡下げ!急速潜航。取り舵一杯!横須賀に向かう!」


各所で復唱が繰り返され、船体が大きく動き出した。


「艦長。救助は?」


副長が進言してきた。航海長や砲雷長がそれを聞き振り向く。


「まずは報告だ。安全圏に到達次第、回線を開け。」


落ち着いた口調で返す。それを聞き、副長は短く返事をした。





 時刻は正午をまわり、岡山は内閣危機管理センターの自分の席で一息ついていた。午前中には神奈川県の災害復興に関する会議をこなし、束の間の休息をとっていた。巨大生物上陸から一週間。ようやくメドがたってきたのだった。閣僚や職員らも視察に向かい、今は最小限の人員でまわしていた。しかし、


「総理!第七艦隊が!」


防衛省職員がそう叫びつつ、ただならぬ顔で岡山の元に近付いてきた。その行動に眉を顰める。


「先程、海自からの報告で第七艦隊に甚大な被害が出たとの事です。詳細については情報を集約中です。」


生物にやられたか。岡山はすぐに察した。被害がどの程度かは未知数であったが、情報の上がってくる時間を考えると、只事ではないことは予測がついた。周囲で打ち合わせをしていた職員や議員らが、その様子に近寄ってくる。


「関係閣僚を召集してくれ。」


揉めるな。そう感じつつ、岡山は短く指示を出した。担当の職員が一礼し、退室する。すると、それと入れ替わるように海自の制服に身を包んだ隊員が入室してきた。海将の階級を付けた中年男性は岡山の近くで立ち止まり、


「統幕から参りました磯田です。現在の状況についてご説明致します。」


短く挨拶と要件を述べると、中央モニターに向かい歩き出した。岡山は目で追う。


「第七艦隊の行動を監視していた『そうりゅう』からの情報で、第七艦隊は生物からの攻撃を受け、壊滅しました。具体的には空母ロナルド・レーガンの轟沈を始め、駆逐艦20隻が沈没、または航行不能状態に陥っています。」


その説明が始まると同時に、そうりゅうが撮影したと思われる静止画がモニターに映し出される。そこには爆炎や黒煙をあげる艦隊の姿があり、それを見た面々は一斉に騒めいた。岡山は自身を落ち着かせるため、息を大きく吐く。


「生物からの攻撃とは何か分かっていないのか?」


防衛副大臣を務める秋山が問い質す。


「今の所詳細は不明です。しかしながら報告を見ると、青白い放熱物が艦隊に打撃を与えたということから、生物は何かしらの間接的な攻撃手段を用いてることは確かです。」


その言葉を聞き、センター内にいた幹部自衛官らの顔が険しくなった。


「そして現在、在日米軍司令部より自衛隊に、集団的自衛権の行使に基づく支援要請が来ています。」


そう来るだろうな。岡山はそう思い、内心鼻で笑った。自国の利益のために軍を出し、そしてやられたら助けを求める。なんて自分勝手なんだ。呆れるのにも程がある。言いたい愚痴は沢山あったが、出す訳にはいかず堪えた。


「浅野君。ご苦労、関係閣僚が集まってから再度説明を頼む。そして自衛隊には待機を命じる。いつでも出れるようにな。」


出来れば、自分の独断で自衛隊を送っても良かった。確かにあの国は自分勝手だ。しかし今被害に遭っている兵士らには関係はなく、救いの手を差し伸べたかった。だが、法の下に統治されているが故、勝手な真似は出来ず、今はただ、話し合いが出来る人間達を待つしかなかった。そう思い、今出せる指示を送った。


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