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戦闘と被害2

「全艦、合戦準備完了!生物を有効射程内に捕捉!」


湯元が指示を下してから十分弱、『いずも』の司令室で三曹の階級章を付けた隊員が報告の声をあげた。艦隊司令が振り向く。


「艦隊の配置に問題はないか。」


額に汗を流しつつ問い掛けた。作戦運用に関わる部署が確認作業に入る。


「艦隊の配置、問題ありません。」


艦隊司令の問い掛けから一分弱、担当部署の尉官が応えた。艦隊司令はそれを聞き軽く頷いて見せる。

直後、

「市ヶ谷より緊急。有視界における戦闘行為は避けよとのこと。」


湯元が指示を下せば砲が火を吹く場面で、突然の行動阻止を促す内容に全員が息を呑んだ。


「ここにきてか!どうします。」


その中、作戦幕僚が湯元に指示を仰いできた。幹部要員らの視線が湯元に集中する。

さっきから決断をしてばかりだな。湯元は幾度にも注がれる視線を感じ、そう思っていた。また、もし作戦が上手く行き、陸に上がれたとしたら間違いなく懲戒免職だ。そうも思っており、すっと肩を落とした。その姿を見、作戦幕僚は眉をひそめる。


「しれ・・・」

「安全な地下にいて現場の何が分かるか。作戦は続行だ。市ヶ谷からの連絡は無視しろ。」


ここまで来ればやけだった。助かる保証もない中で、ここで無駄に被害を気にしていても仕方がなかった。国を守る立場として、私は間違いを犯していない。湯元は自分にそう言い聞かせ、その言葉を絞らせた。

「了解しました。合戦開始を十分後とします。」


指揮官としての覚悟。それを真摯に受け止めた作戦幕僚は鋭い眼差しで返した。その発言を聞き、隊員らが忙しく動き出す。


「あと、今飛ばせるヘリはあるか?」


各所で最終調整が始まる中、湯元は振り返り唐突に問い掛けた。


「SHが一機給油中。再び哨戒に充てる予定にありますが。」


多用途に使える回転翼機は、今作戦においては有能で、『いずも』の甲板からは休む間もなく離発着が繰り返されていた。その中においての問い掛けに、担当の幹部要員は首をかしげつつ返答する。

湯元はそれを聞き、


「よし。空自の要員を搭乗させてくれ。」


司令室内にいる空自隊員らを一瞥し、口を開いた。


「何故です!」


湯元の内容を聞き、隣に座っていた空自の連絡官は、立ち上がり反論の声をあげた。


「ここから先は、海自のみで実施する。空自には支援を貰い、助かった。だが、ここからは大丈夫だ。それに、市ヶ谷からの連絡を無視しているんだ。空自さんに迷惑を掛ける訳にはいかないよ。」


連絡官の肩を掴み、湯元はそう返した。その言葉に連絡官は口を噤む。


「では、頼む。硫黄島まで送ってくれ。」


俯く彼を見、湯元は周囲にそう指示を出した。

それを聞き、海曹海士らは空自隊員を甲板に誘導し始める。


「SHの発艦後、『いずも』も前に出してくれ。」


空自隊員らが司令室から退室した後、湯元は艦隊司令に指示を出す。


「了解しました。艦長、艦を前へ。」


艦隊司令は湯元の指示を受け、『いずも』の艦長に命令を振る。艦隊司令の隣に腰を降ろしていた艦長はその指示を聞き、卓上にあった内線を手に取った。


「艦長より艦橋。スポットのSH発艦後、前線に針路を取れ、最大戦速だ。」


野太い声で受話器に対し命令を出した。

それから数分、急なスピードアップから司令室内に揺れが生じる。


「司令、間もなく時間です。」


書類が卓上から落ち、海士らが拾い上げている中、作戦幕僚が口を開いた。ついにきたか。湯元はそれを聞き、大きく息を吐き出した。







 「目標を肉眼で確認!距離12000!」


陽が昇り海面を白く照り付ける中、『あきづき』の見張り員が双眼鏡を覗き込みながら報告の声をあげた。それを聞いた航海長は艦橋から身を乗り出し、自身も双眼鏡を片手に確認に入った。


「CIC艦橋。目標捕捉。」


ぼんやりと映る生物の背びれ。息を呑みながらも航海長は無線に報告を入れた。直後、艦内に緊張が走る。それは『あきづき』に限った事ではなく、周囲に展開する艦艇も同様であった。

今、『あきづき』を含む六隻の艦隊は中之島の近海を航行していた。艦隊は単縦陣を成しており、その先頭を『あきづき』は担っていた。


(艦橋CIC。取り舵90。艦隊はこれより有視界戦闘に突入する。)


「了解。取り舵90!」


今まではアウトレンジ攻撃で、VLAから撃ち出されるミサイルを見送るだけで良かった。しかし、今からは違った。直接眼で見える距離での戦闘に、全員の息は荒くなっていた。

これまで感じた事のない緊張に『あきづき』の艦橋内が包まれる中、その指示が無線越しに聞こえ、航海長は我に返り指示を復唱した。それを聞き、操舵手は命令を実行に移す。円盤のようなハンドルを回し、復唱する。同時に艦体は大きく傾いた。見張り員らは衝撃から近くの固定物に身を委ねる。直後、


(対水上戦闘!CIC指示の目標!主砲撃ちぃ方始め!)


生物に対して艦体が真横になったと同時にその声が無線から響いた。それから数秒、艦体正面に腰を据えている5インチ砲が、生物に向けて旋回を始めた。


始まる―


航海長は覚悟を決めた。


「CIC指示の目標!主砲撃ちぃ方始めー!」


「左砲戦!砲斉射撃ちぃ方始め!」


鋭い眼差しで生物を睨みつつ、航海長は怒鳴った。各所で復唱が繰り返される。そして、


「合戦開始。時間!」


作戦を行うにあたり、統制された時間を見、航海科の二曹が怒鳴るように声をあげた。直後、


(主砲!ってー!)


訓練で効き慣れた砲術長の、叫びに近い声が艦内オールの無線で響き渡った。それと同時に主砲が火を吹き始めた。爆音と黒い発射炎、そしてきな臭い臭いが辺りを包む。一発砲弾を撃つ度に、艦橋の窓ガラスが小刻みに揺れる。その光景は『あきづき』だけではなく、それに続く後続艦からも放たれた。単縦陣で射撃をする姿はまるで日本海海戦の再来であった。


「見張り員!効果を確認!」


断続的な爆音が艦橋に響く中、航海長は見張り員の肩を叩き直接指示を出した。一士の階級章を付けた童顔の隊員は元気よく返事をし、食い入るように双眼鏡に目を押し付ける。


「目標への命中を確認!効果確認出来ません!」


「了解!艦橋よりCIC!主砲攻撃効果無し!」


甲高い声で報告をあげる一士を見、航海長は直ぐに無線に怒鳴る。自身も双眼鏡で生物を凝視すると、その光景に目を疑った。背びれに多数の命中弾を受けながらも、悠々と泳ぎ続ける生物の姿がそこにはあり、思わず絶句した。その直後、


(ハープーン攻撃始め!発射弾数四発!連続発射!)


砲雷長の緊張を隠せない声。それが無線から聞こえ、航海長は見張り員に伏せるよう促した。


(一番!撃てっ!)


少ししてその声が聞こえ、それと同時に艦橋の後方から、発射炎に包まれたハープーンミサイルが姿を現した。黒煙が見張り台にまで到達し、隊員らは顔を顰める。


「いいぞ。火力を集中しろ!」


黒煙が収まり、顔をあげた三曹は目を凝らし独り言ちた。


「そう上手く行けばいいがな。」


三曹の言葉に、古参の一曹は双眼鏡を覗きつつ応える。そして、


「ハープーン正常飛行!尚、主砲弾は引き続き目標に命中。しかし効果は認めず!」


一体奴は何者なんだ。最初は恐怖を感じていたが、ここまで攻撃が効かないのを見、一曹は苛立ちを感じつつあった。


「目標への更なる多重攻撃の要ありと考えます。」


主砲攻撃が止まない中、その一曹は無線に報告を入れた後、意見具申をした。航海長はそれを聞き、


「分かっている!精一杯やってるんだ。抑えてくれ!」


羅針盤の前に立ち、CICから逐次送られてくる戦術航行の命令。それを具体的にするべく奔走していたが、一曹の言葉に、落ち着くよう促した。それを聞き、一曹は舌打ちをする。しかし航海長とてこの状況を傍観している訳にはいかなかった。どうにか打破しなければならない。そう考え、


「艦橋よりCIC!艦長。更なる攻撃の要ありと考えます!」


CICで指揮を執っている艦長に直接指示を仰いだ。


(こちらでも現状は理解している。間もなく増援が当海域に到着する。それまで耐えてくれ。)


スピーカー越しから普段温和な艦長の声が聞こえてきた。しかし、今の艦長の声はどこか震えていた。今まで艦長の震えた声を聞いたことがなかった航海長は声を漏らす。


「了解。現状を維持します。」


モニター越しでも怖いんだな。航海長はそう感じつつ、再び艦橋の統率に入った。



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