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海戦

 爆発による火薬の臭いが辺りに充満し、ミサイルの破片が洋上に漂流していた。波は荒れ、まるで人類を敵にまわしているようだった。その海を巨大生物は進んでいた。ワニのような背面部を海上に出し、悠々と泳いでいる。化け物だ。その光景を見、RF4偵察機のパイロットは恐怖した。ハープーン二十発近くの雨を受けながらも、生物は何事もないような素振りを見せていた。


「『いずも』コントロール。ディスイズスパイ01。攻撃から7分が経過したが、目標は依然進行中。オーバー。」


攻撃を受けないであろう高度を維持しつつ、パイロットは酸素マスク越しに報告を入れた。


(スパイ01。ディスイズ『いずも』コントロール。ラジャー。間もなく第二派攻撃が実施される。スパイ01は直ちに現空域より離脱せよ。オーバー。)


無心で生物を見つめている中、無線でノイズ交じりの指示が飛んできた。第二派の攻撃。その内容にパイロットは一瞬、無駄だという一言が脳裏に浮かんだ。間近で見なければ伝わらない攻撃の威力、あれを見てからでは、どのような攻撃を加えようとも無駄であると思わざるを得なかった。しかし、ここで自分が意見具申しても、それこそ無駄でありパイロットは乾いた返事をし、操縦桿を右に倒した。






(艦長より達する。これより本艦は目標に対し第2派攻撃を敢行する。各員奮闘せよ。)


艦内オールにて、その声が護衛艦『たかなみ』内に響く。その内容に、全員が息を呑んだ。ハープーンによる攻撃では歯が立たなかったのか。その結果に自分達は一体何と戦っているのか分からなくなっていた。特に、CICに席がある隊員らは冷や汗をかいていた。


「作戦指揮所より入電。第2派攻撃は、航空攻撃と連携して0700に実施するとのこと。」


『いずも』との通信を任されている一等海曹が、おもむろに室内で声をあげた。その瞬間、全員の鼓動が早くなる。


「第二派攻撃0700了解。」


攻撃開始まで6分。緊張が走る中、艦長は短く返答をし続けるようにして、

「対潜戦闘!指揮所指示の目標!アスロック攻撃始め!」


CICの緊張した空気を薙ぎ払うように、艦長は怒鳴った。砲雷戦を担当する第一分隊が先程と同様に忙しく動き始める。


「発射5分前!VLA用意!」


砲雷長は一分隊の動きを振り返り見、指示を下す。各所で復唱が繰り返される。


「砲雷長VLA発射用意良し!」


その指示から2分。各所での準備が終わり、担当要員が最終報告を飛ばしてきた。


「了解。艦長VLA用意終わりました!」


全体的な報告を受け、砲雷長は隣に腰を降ろしている艦長に口を開いた。艦長は小さく頷く。


(VLA発射一分前。)

「VLA用意!」


発射に携わる要員が復唱する。そして、


「時間!」

「VLA攻撃始め!って!」


統制された時計を見、一人の士長が叫ぶ。それを聞き砲雷長はその言葉を絞らせた刹那、『たかなみ』の前部甲板に設置してある正方形型の垂直発射機から、縦に長い火柱が上がる。それと同時にアスロックと呼ばれる対潜兵装が発射された。その光景は『たかなみ』だけではなく、周囲に展開していた護衛艦各艦からも同じ動きが見られた。


「アスロック発射確認!正常飛行!」


白煙をあげ飛翔する弾頭を見、『たかなみ』艦橋の見張り員は叫ぶように報告を入れた。


「了解!艦橋よりCIC!アスロック正常飛行。目標に向け飛翔中。」


その内容を受け、航海長は険しい表情を浮かべながら無線にその言葉を放つ。そして、飛翔していく弾頭を自らも双眼鏡で見つめた。







 日が昇り始め、海面に太陽光が反射する。その光景にF2編隊の飛行隊長は思わずヘルメットのバイザーを降ろした。直後、


(飛行隊各機、こちら『いずも』。現在護衛艦隊よりアスロックが発射された。よって各機は高度に留意しつつ攻撃を行え。)


通信員の業務的な口調が、耳をざわつかせてきた。高度に留意。その言葉に飛行隊長は反射的に高度計へと目をおくった。一万フィート。表示された数字を見、正面に視線を戻す。そして、


「各機、こちらコマンドリーダー。アスロックが洋上に着面した時点で高度を下げる。『いずも』からの無線を聞き逃すな。」


酸素マスク越しに注意を促した。彼は、三十機という大編隊を率いてこの空域に来ていた。全機が対艦ミサイルをその翼下に抱えている。自分自身も例外ではなく、足元には対艦ミサイルを二発装備していた。まさか自分が飛ぶことになるとは。飛行隊長はオレンジに染まる空を見つめ、一人ごちた。彼は航空学生として入隊し、築城三沢とF2を乗りこなしてきた。


今では横田基地の運用幹部として勤務し、戦闘機を降りて半年が経過していた。しかし、横田基地の廊下で司令部幕僚と会ったが運の尽き。トントン拍子で話が進み、彼は今この空を飛ばざる負えない状況となった。廊下で会わなければ。そう思い、酸素マスク内で軽い溜息をつく。それから数秒、


(アスロック全弾、着水を確認!飛行隊、アタックポジション!)


若い男性の声。飛行隊長は即座に反応し操縦桿を倒した。


「全機!アタック!」


下降に伴う激しいGが彼を襲う。自分の体重の数倍にもなる重力の気持ち悪さに堪えつつ、全機に指示を送った。直後、彼の機体後方を飛行していたF2編隊は個々に降下を始めた。青い機体群は太陽光を浴び、強い反射光を周囲に見せ、空に溶けていく。


「指定座標をレーダーにて確認!安全装置解除!FOX2!」


海面すれすれの高度をとりつつ、アフターバーナーを吹かす。そして指定座標を射程内に収めた事を確認した飛行隊長は荒々しい声で言い放ち、操縦桿にある発射ボタンに指を掛けた。直後、翼下から対艦ミサイルが離脱し、生物へ向けて飛行を始めた。しかし、


(観測班より各機、目標への命中。これを認めず!再攻撃の要あり!)


発射して2分。その報告が飛行隊長の耳をざわつかせた。思わず顔を顰める。だが、予想の反中だった。通常であれば、ミサイルは目標の熱や電波を探知し飛翔する。しかし今回目標は背面部のみを海面に出した状態で進行しており、熱を捉えるのは困難だった。


かといって電波となると、生物がそのような機械的なものを出している筈もない。そのため今回は、観測機の指示した座標に撃ち込むという、爆撃に似た手法をとった。が、爆撃はある程度目標に接近した上で行われるもので、対水上戦闘で今回のような形式のアウトレンジ攻撃を行うのはこれが初だった。


「了解!各機、こちらコマンドリーダー。目標への二次攻撃に移る!」


考えても仕方がない。飛行隊長は軽く首を振った。何故ならば空の世界では、考えている間に相当の距離を無駄に飛行してしまうからだ。我に返り、指示を出す。そして、


「全機!ブレイク!」


一度、フォーメーションを組み直さなければいけない。飛行隊長は反射的に感じ、短く怒鳴った。それと同時に操縦桿を倒す。またも激しいGが彼を襲った。鈍い声をあげつつ堪える。そしてGが収まり、編隊飛行に入ろうとした瞬間、再び彼の耳を無線がざわつかせた。









 「観測機より緊急!目標、進路を護衛艦隊に向けました!距離を詰めつつあります!」


アスロックが命中、航空攻撃も終わり、作戦を第三段階に移行しようとしている中、2曹の階級章を付けた隊員が徐に声をあげた。その内容に作戦幕僚が振り返る。


「目標の到達予想時刻は?」


作戦幕僚は険しい表情を見せ、問い掛ける。その額には汗が流れていた。


「0720。」


指揮所の一角に配置されている観測班の一人が短く報告を出した。0720。後6分。短すぎる。湯元は下唇を噛みしめた。


「目標との距離を維持しつつ・・・」

「目標潜航!」


指示を出そうと口を開いた瞬間、その続報が入り、湯元は今まで落ち着いていた表情を曇らせ、


「目標の位置、確認しているか。」


緊迫を隠せない声で問い掛けた。担当部署が忙しく情報の集約に入る。


「見失ったのであれば、海域の離脱を進言します。」


湯元の隣に腰を降ろしている作戦幕僚は、答えを聞く前に耳打ちしてきた。しかし、湯元は頷くことなく、口を閉ざしている。


「駄目です。目標の位置、確認出来ません。急速に深海へ潜った模様。」


それから2分弱。担当部署は苦戦しながら少しでも情報を得ようと動き回っていた。しかし、それに見合う結果は得られず、渋った表情で一等海尉の階級章を付けた隊員が報告をしてきた。湯元は舌打ちをする。しかし、すぐに気を戻し、


「目標の探知、最優先だ。何としてでも見つけ出せ。艦隊は各艦距離をとらせろ。」


険しい表情を崩さず、湯元は指示を出した。担当部署が忙しく動き出す。


「硫黄基地のP1にスクランブル掛けろ!」


その中、作戦幕僚が声をあげた。しかし、


「P1、エンジントラブルにより離陸出来ません!P3C2機が5分で離陸します!」


予想だにしない突然のトラブル。だが現場は冷静だった。直ちに代替案を提示し、動き出していた。作戦幕僚は一瞬顔が曇ったが、P3Cが飛べることを知り、口を噤む。


「甲板待機は?」


作戦幕僚の指示を聞き、『いずも』の艦長は甲板業務に従事している一尉に声を掛け、問うた。


「スポットに3機、発艦待機しています。3分あれば上がれるかと。」


ヘリの燃料補給について、艦の航空管制員と電話で打ち合わせをしていた一尉は、艦長の声に受話器を置き、答える。艦長はその報告に間髪入れず、


「全機あげろ。艦隊の直掩を除き全部だ。」


叫ぶように指示を出した。一尉は頷き、燃料補給の件を後に回し、航空管制員と打ち合わせに入った。その姿を見、艦長はスクリーンに視線を戻す。全員が緊迫した表情で動いていたが、その気持ちにはどこか、見つかるだろうという安易な考えがあるように思えた。

しかし、湯元1人だけは違い、額に汗を流しつつ、


「見つけないと、死ぬぞ。」


小さく呟き、静かに息を吐いた。






 「目標急速潜航!」


潜水艦『そうりゅう』の発令所内で通信員が報告をあげた。その声に艦長を務める浅野は反射的に振り返った。


「目標の位置は?」


浅野は潜望鏡近くに立ち指示を出していたが、その報告に足を通信員の元に進める。


「目標の位置。確認出来ません。艦隊は混乱状態になっています。」


目の前にある機器を操作しつつ、通信員は続けるように報告をあげた。それを聞き、浅野は舌打ちする。


「前に出ますか?」


浅野艦長の指示を待ち、発令所内に沈黙が広がる中、副長が問い掛けた。全員の視線が浅野に注がれる。


「馬鹿言え!お前も見たろ、シャイアンがどうなったか。」


浅野はうつむき、険しい顔を崩さず吐き捨てた。数日前に見た光景、あれは死ぬ直前まで悪夢として出てくるであろうものだった。巨大な生物の爪によって引き裂かれる米原潜の末路、潜望鏡を通して一部始終を見た浅野にとっては恐怖そのものだった。


それに加え米軍監視任務の後、原潜の破壊音を聞いたソナー員は帰路の途中、そのショックから発狂し、横須賀に緊急搬送された。その経緯からして全員が生物を恐れていた。


「では、どうするんです。奴を見つけないと、艦隊も米軍の二の舞になりますよ!」


全員が意見を出し渋っている中、人一倍正義感が強い副長は怒鳴るような口調で口を開いた。

それは避けなければならない。そう感じた数人の海曹海士らが声を漏らした。しかし、


「お前、コイツが動いたからといって、艦隊が助かると思ってるのか!潜水艦はヒーローじゃねぇんだよ!思いあがるな!」


今まで傍観していた水雷長が話に割り込み、そう叱咤した。副長はその内容に絶句する。発令所内は地獄だった。艦の生死を決める幹部らが真っ向から割れていた。しかし、いくら意見が割れようが、その行く末を決めるのは艦長の浅野であり、彼は決断を迫られていた。


「艦長。指示を。」


再び沈黙が起こる中、副長は一歩前に足を進め浅野に指示を求めた。しかし、


「ソーナー目標探知!」


ヘッドホンを強く耳にあて、ソナー員が短く報告を飛ばしてきた。虚を突かれた形となった発令所の動きはワンテンポ遅れてしまった。まさか近くにいたとは。全員の頭に、生物の餌食となったシャイアンの姿がフラッシュバックする。浅野も例外ではなく冷や汗を掻いていた。


「目標の位置!」


艦長が問い掛ける前に、副長が口を開く。


「本艦の・・・真下です・・・!」


どっと忙しくなる発令所内。だが、ソナー員の続報に全員の動きが止まった。副長は思わず言葉を失う。


「メインタンクブロー!」


直後、浅野がそう言い放った。操舵主が操作に入る。それと同時に艦体が傾き始めた。


「『いずも』に救援要請!総員、離艦用意!」


ここで隊員の人生を終わらせる訳にはいかない。その思いから命令を下した。国を守る自衛官としては失格だった。しかし、この状況下において、浅野は自衛官より人としての決断を選んだ。


「間もなく浮上!」


担当部署からの報告を聞き、浅野は大きく頷く。離艦の命令を受けて、浮上をするに関係のない隊員らは既にハッチ周辺に集合していた。その報告を内線にて受けた副長は直ちに現地の統制に向かう。浅野はその後姿を見送り、発令所にいる隊員らにも離艦を促した。だが、


「浮上やめてください!」


海面まであと数十メートルという所で、ソナー員の言葉が再び全員の動きを止めた。操舵主は驚きの余り、反射的に浮上をやめた。


「どうした!」


浅野は押し潰されそうな恐怖感から怒鳴ってしまった。しかしソナー員は構うことなく、


「目標、急速浮上の後、本艦の周りを遊泳してます・・・!今動くのは不味いかと・・・」


ゆっくりと振り返り、ソナー員はそう続けた。全員が絶句する。


「あと少しの所を・・・!」


水雷長が苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てる。


「大丈夫だ。この艦は核を積んでない。襲われない・・・!」


海曹長の階級章を付けた古参隊員が、周囲をなだめるようにささやいた。


「そうだといいな・・・!距離は?」


浅野は、その声にそう返しつつ、静かな声で問い掛けた。


「もう間近です。距離なんていう距離じゃありません・・・。心臓の音が聞こえます・・」


冷静を装い応えるソナー員だったが、その顔は硬直していた。今一番に恐怖を感じているのはこの艦の誰でもない。このソナー員だった。生物の位置を断続的に伝えなければいけない自分だけは席を立つ訳に行かず、一番死が近い人物だった。しかし、全員の命を守れるのは他におらず、そのソナー員は腰の位置を変えることなく音を聞き続けていた。


「艦長。攻撃を、艦の正面に来た時を狙い攻撃。それと同時に浮上し離艦しましょう。」


全く状況が変化しない現状に、業を煮やした水雷長が進言してきた。発令所内の人間は思わず息を呑む。浅野も突然の進言に、すぐ返事が出来なかった。


「しかし、ここは焦る所では・・・」


確かに状況を打破できる名案だった。しかしそれは同時に生死を分ける博打でもあった。その考えから思わず声が漏れた。


「ソナー、出来そうか?」


浅野が渋っている中、水雷長はソナー員に成功可否を問うた。


「可能だとは思います。今のところ一定のスピードで本艦の周りを回っています。しかし、リスクは大きすぎます。」


声のトーンを抑え、ソナー員はそう意見した。


「こうなった以上、リスクは承知の上だ。艦長、指示を。」


下手なことはしたくない。海曹海士らがそう思うのとは裏腹に、水雷長は攻撃の可否を浅野に迫った。


その直後、


「艦長、副長が状況の説明を求めています。」


内線を受けた隊員が、話に割り込む形で口を開いた。ハッチ近くにて隊員らをまとめるために向かった副長だったが、いつまで経っても海上に出ない事を不審に思い、内線で確認を求めてきたのだった。


「先任に統率を任せ、副長を発令所に。」


攻撃の可否について悩みながら、浅野はそう口を開いた。内線を受けた隊員はその旨を伝える。


「艦長、『いずも』より緊急。本艦から少し離れた距離に爆雷を投下し、生物を離す。その間に避難しろ。とのことです。」


今にも腰が椅子から離れそうな通信員が、泣きそうな表情で報告を飛ばしてきた。それを聞き、発令所内は安堵の空気に包まれた。浅野は深い溜息を吐き、


「深度そのまま。ソナー、爆雷音が聞こえ、生物が離脱したならば速やかに報告。」


軽く肩を回し、各所に指示を与えた。命は助かった。その思いから、発令所の扉付近に居座っていた海曹海士らは自分の席に戻って行く。その流れにのり、副長も発令所に戻ってきた。


「助かった。艦隊の指揮に従えばいい。」


内線をとった隊員から概要を伝えられた副長はただならぬ顔だったが、浅野は落ち着いた表情で艦隊からの指示を伝えた。副長はその内容に安堵する。


「P3C。間もなく爆雷投下。」


その中、通信員が振り返りそう告げてきた。全員が身構える。


「離れてくれよ・・・!」


水雷長が思わず声に出す。


「爆雷投下。」

「ソーナー。爆雷の破裂音探知。」


それから数秒、通信員とソナー員がほぼ同時に声をあげた。周囲から声が漏れる。


「生物は!」


浅野はソナー員に問い質した。それに対しソナー員は右手で待ってくれと数秒制し、


「目標!離れて行きます!」


ソナー員は振り返り歓喜の声をあげた。


「浮上!」


その報告を聞き、浅野は即座に指示を出した。全員が待ちわびた瞬間。

数人の海曹は自分の椅子になだれた。


だが、


「右舷浸水!」


激しい振動と共に機関士が悲鳴のような声をあげた。浅野はその報告を聞き終わる前に、床に叩きつけられ、状況の理解が追いつけていなかった。


「舵!効きません!」


操舵主がハンドルを力一杯操作しながら叫び声をあげる。


「浸水抑えろ!」


浅野と同じく、床に叩きつけられた副長も、状況の理解に追いついていなかった。しかし浸水に対する対処は、反射的に体が覚えており即座に指示を出した。


「深度!深くなる!このままでは圧壊します!」


深度計を見つつ、機関長が報告をあげてきた。発令所内はまさに地獄絵図だった。


「一体・・・何が・・・!」


生物は去った筈だ。水雷長は目の前の現実を呑み込めていなかった。こめかみから出る血を掌で抑えつつ呟く。


「生物の尻尾です・・・!」


全員が焦り、事態に対処している中、水雷長の声にソナー員は振り返りそう答えた。


「尻尾で撃沈か。」


水雷長は絶句し、壊れた笑みを浮かべながらそう口を開いた。全員が死ぬまいと懸命に奮闘していた。しかし、浸水のスピードは予想より早く、潜水艦『そうりゅう』は水圧で押し潰される音をたてながら、太平洋の海底に姿を消した。


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