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対応

 中露からの事実上の武力攻撃。テロという形ではあったが、政権内部で画策されていたことは明白だった。攻撃から一夜明けた百里基地では復旧作業が全力で行われていた。普段であれば、民間業者に工事を委託するのだが、テロ攻撃の後というだけあり警備上、自衛隊内で復旧活動を行うことを強いられていた。そのため夜通しで百里基地には各自衛隊から派遣されてきた施設科部隊が、その正門をくぐっていた。朝を迎える頃には、百里基地のエプロンに土木作業を行う車両群が軒を連ねていた。


「飯山さん。人間てのは、いつまで経っても餓鬼なんですね。」


朝陽が田園地帯を照らす中、茨城空港の展望台からその光景を眺めていた芹沢が唐突に呟いた。彼は攻撃前から後まで、茨城空港の事務室にいた。そのため被害には遭わず、安全が確認された今、外の空気を吸いに飯山と外に出てきていたのだった。


「自分も、今回の件で人間が嫌になりました。」


半分から上が全壊している管制塔。その無残な姿を見つつ、飯山はそう返す。


「自分という存在も?」


芹沢は、飯山の言葉を聞き問い掛けた。二人の服が曉風でなびく。


「職務上とはいえ、私は人に向けて銃を撃ちました。武器を使わなければ止められなかったんです。人一人の動きでさえも。」


少しの間を挟み、飯山はそう口を開いた。昨日の、スパイ行為を働いた航空自衛官に発砲したことが脳裏から離れなていなかったのだ。


「事情は中村さんから聞きました。しかしあれは、仕方なかったのでは。」


停止を呼び掛けても応じなかった者が悪い。芹沢はその考えから、飯山を擁護した。しかし、


「人に暴力を振るうことは、どんな理由があろうと許されることではないんですよ。その時点で人は平等ではなくなります。どちらかが勝ち、どちらかが負ける。」


飯山は悔やんでいた。あの時、撃つ以外に停止させることが出来たのではないか。自分の経験不足が招いた結果に、奥歯を噛み締めた。飯山の悔やむ顔。それを見、芹沢は失笑した。


「迷彩服を着てる人間から、暴力は許されないという言葉を聞くとは思ってもみませんでしたよ。」


飯山の顔を見、口を開く。しかし飯山の表情は変わらない。


「暴力を行使出来るからこそ、ですよ。自分達は武器の恐ろしさを知っています。だからこそ使いたくないんです。使った先の未来が分かるから、だから望んじゃいなかった。」


飯山の言葉は重かった。銃を手にした者だから感じることがあった。だが、ただ単に銃を手にした者の言葉ではなかった。銃を持てない日本という国だからこそ、銃を持つ者の責任は重いものがあった。特に、国を守るという目的の元で銃を託されている自衛官の責務は重く、飯山は溢れそうな思いを押し殺し、そう話した。


「しかし、使わなければ国は滅びてしまいますよ。事実、いま使わなければならない時がきているじゃないですか。」


芹沢は、百里の滑走路を見つめ話す。彼の視線の先には戦闘機がタキシングをしていた。


「そうですね。誰かの言葉で、平和は戦争と戦争の間にあるものだ。と、いうものがあります。自分はそれを真っ向から否定してきました。七十年もぬるま湯に漬かっていた武人の末路です。訓練のための訓練、そう世間から揶揄され、やがて部内でもそのような言葉が飛び交うようになりました。」


そう口を開き、飯山は遠くを見つめる。その表情はどこか寂しげだった。


「つまり、実戦は出来ない組織だと?」


訓練のための訓練。それを耳にし、芹沢はそう問い掛けた。


「能力はあると思っています。しかし、実戦向きではありません。」


軍隊が戦える組織ではない。現役の将校から出た言葉に、芹沢は眉をひそめた。


「と、いうと?」


「日米安保と核の傘。この傘の元で育ってきました。つまりは米軍頼み、米軍ありきの自衛隊なんですよ。もし、中露の本格的な武力侵攻があった際、我々は米軍が来るまでの時間稼ぎしか出来ません。我々にとって元寇の神風は、アメリカなんです。」


溜息をつき、飯山はそう吐き捨てた。


「しかし、今はアメリカはいないんですよ。米軍抜きで、守れるんですか?」


衝撃的な話を聞き、芹沢の心は動揺していた。普段の生活では聞くことの出来ない話題に、興味をそそられていた。無論、それが今の状況では不謹慎極まりないことは百も承知だった。しかし、芹沢は知りたかった。飯山がどのような回答をしてくれるのかを。


「国を守る。その思いで自衛官は職務を遂行している。どんな困難に直面しようと守り切る。それだけです。」


飯山はそう言い切った。その言葉には力が込められていた。


「尊敬しますね。それを聞いて安心しました。ですが、全てを自衛隊に任せる訳にはいきません。私も全力を尽くします。」


飯山の力強い発言に、芹沢は圧倒された。そして、その言葉に導かれるように、彼はそう口を開いた。自分も全力で国を守らなければ。その使命感を胸に、芹沢は朝陽が昇った空を見上げた。その直後、中村が焦りを隠し切れない表情で飯山らの元に走ってきた。二人は振り返り、眉を顰める。


「奴です。上陸します。」


飯山と芹沢が見つめる中、中村は息を整え短く切り出した。奴。巨大生物がまた上陸するのか。そう理解した二人は、その場で言葉を失った。









 (番組の途中ですが、臨時ニュースです。先程政府は、災害緊急事態の布告を宣言しました。これは内閣官房のツイッターに配信されたもので、現在情報の確認を行っております。)


(杉田官房長官が会見場に姿を現しました!)


(・・・・国民の皆様、まず、私達の不手際により、過度な混乱を引き起こしてしまいましたことをお詫び致します。しかしながら、災害緊急事態の布告は事実であり、遅れながらこの場で宣言を致します。宣言の要因についてですが、本日未明、小笠原諸島近海において、前回神奈川県に上陸した巨大生物を、自衛隊が発見しました。現在、この生物は、関東圏に向けて進行中であります。上陸予想日は明後日と防衛省より報告が来ております。よって、政府は先程、自衛隊に生物の上陸阻止を命令。現在海、空自衛隊が対応にあたっています。また、上陸阻止という観点から、沿岸部に上陸を阻止する部隊を配置します。これには、害獣駆除という名目ではありますが、防衛出動に準ずる編成を以て、対応にあたります。このことから、相模湾に面する神奈川県の沿岸部及び、東京湾に面する地域において戦闘が行われる可能性があります。よって、住民の皆様は、各自治体の指示に従い避難するようお願い致します。避難に際しましては公共交通機関を利用してください。自家用車での避難は出来ませんのでご理解のほど、お願い致します。以上です。)


(官房長官!五里山に航空機が墜落したという情報があります!これは本当なんですか!)


(全国の空自基地で火災が発生したと各地の住民から情報提供があるのですが説明をお願いします!)


会見場は、まるで台風だった。杉田が話すことだけ話し、会見場を後にしようとするが、記者の暴風がそれを安易に許さなかった。岡山総理ら、閣僚は内閣危機管理センター内で会見場をライブ中継越しに見ていた。岡山は険しい表情で画面を見つめる。


(五里山における航空機事故につきましては、空自機の墜落事故ということで防衛省の方から公表しています。既に救難隊がパイロットを救助しています。)


一度帰路につかせた足を壇上に戻し、冷静な口調で杉田は記者らに回答した。その内容に記者らは口を噤む。杉田の長所は顔に出ないことだった。どのような事態においても顔色一つ変えず、会見をこなす。マスコミ関係者からは機械人形と揶揄されていたが、官房長官という職が彼には適任だった。公表を控えなければいけないテロ事案に対する山場を越え、岡山は画面越しに安堵した。そして、会見が始まる前に危機管理センター内で議論していた住民避難の内容を閣僚にふった。


「はい。避難にはそれ相応の時間を要すると思います。羽田空港をフルに使っても3日以内の避難は難しいでしょう。」


斎藤国交大臣が片手程のメモ用紙を見つつ口を開いた。飛行機を使っての迅速な手段。その選択肢が難しい事を知り、センター内の職員らから声が漏れた。


「自衛隊は?」


柿沼経産大臣が大山を指差し問い掛けた。


「はい。難しいのが現状です。現在、部隊の移送で現場はオーバーヒート状態です。使えるなら立川飛行場になりますが、避難を求めてきた住民全員を避難させることは無理だと考えます。」


顏を渋らせ、大山は回答した。しかし、


「国民保護はどうした!立派な任務だろ!」


柿沼はその回答を聞き、眉間にしわを寄せ問い質す。数人の閣僚がそれに頷く。


「上陸阻止に充てる部隊以外を動かすことは可能です。しかし、国防上必要な部隊は待機させなければなりません。空自基地に対するテロ攻撃があった今では尚更です!仮に、全部隊を出したとしても、避難誘導に充てる隊員については心配ありません!ただ、住民を後送する車両や航空機が圧倒的に足りていないんです!自衛隊は可能な限り、住民避難の支援はします。しかし、限界はあります。」


大山の声がマイク越しに響き渡る。柿沼や閣僚は黙るしかなかった。現実的に無理であり、これ以上議論しても前に進まないことを悟ったからだった。議論の硬直から起こる沈黙がセンター内を包んだ。


「住民には最小限の荷物と制限をし、避難に充てる手段は公共交通機関のみ。各駅乗り場には警察と自衛隊を配置。暴動の抑止と荷物の点検を行わせる。渋滞の防止として、各高速道路の料金所のゲートは全てあげる。」


沈黙の中、岡山は全員の顔を見、そう切り出した。数人から声があがる。今の内容だけで幾つもの省庁が連携し対処していかなければならないことが明白となった。岡山が口にした内容に文句を言う者は皆無で、センター内は一斉に忙しくなった。


「分かりました。直ちに全バス会社に召集を掛けます。」


「東京駅は既にパニック状態です。機動隊を空路にて展開させ駅構内の収束をはかります。」


「避難する住民の受け入れ先の自治体から連絡が来ました。バスの応援を出してくれるそうです。」


「団地に住む高齢者の避難補助は、即自にやらせます。使用できる都営バスの情報を。」


岡山の指示から数分、各省庁の職員がなすチームワークによって、避難に関するプランが具体的に動き始めた。


「東京駅の統制完了。列車については乗り換え組と現地組、半々の割合で都外に出る車両に乗車させています。バスについても同様です。暴動等の発生はありません。」


「バスタ新宿に避難住民が集まりつつあります。現在展開している警察官では対応が出来ないとのことです。」


「市ヶ谷の警務隊をまわせ。いま、新宿近くで交通支援にあたってるはずだ。」


普段面識がない各省庁の人間達が目の色を変え協力していた。中でも犬猿の仲と言われている警察庁と防衛省は、今までにないほど緊密に連携し助け合っていた。その光景を見、岡山は胸を撫で下ろした。避難は大丈夫だ。その思いからだった。岡山は彼らを見つめ、自分にも喝をいれるため、両頬を思い切りはたいた。


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