先生
「ほら、あそこだ」
「動物病院、ですか」
そう、そこは、“みぃ動物病院”と書かれた建物だった。
中に入ると、何匹かの犬や猫がおとなしく待っている。
「おぅ、来たぜ」
受付で声をかけると、奥から
「遅い!早く来いバカ野郎!」
怒鳴っているわけではないがよく通る声で返事が返ってきた。
「ひでぇな、これでも急いできたんだぜ」
紅葉を手招きし、受付の横からひょいと奥に入ると、センセーがでかい犬に向かって説教しているところだった。
「いいか、具合が悪いならきちんと検査を受けろ。暴れていいことなんかなにもない」
[でも注射痛いし]
「今からやるのはレントゲンだ。痛くも痒くもない。じっとしてればすぐ終わる」
[先生すぐ注射するし]
「痛いことが多いのはコロのかあさんがそういう時にしか連れてこんからだ」
[おかあさん?おかあさん好き!]
「わかったら大人しくしていろ」
[おかあさん待ってるでしょ?早く帰してよ]
話がかみ合っているようでかみ合ってねぇな。
「おい、なんで呼んだんだ?」
「ああ、そこの部屋に縞の猫がいるだろう。調子が悪そうなんだが検査で引っかかってこない。どこの具合が悪いのか聞いてくれ」
「りょーかい」
隣の部屋のケージの中を見ると、確かにまだ若いネコがいた。
[おかーさーん、おかーさーん]
[おい、おめぇどうしたんだ?]
[!?おじさん、ネコなの?]
[ちげぇよ。でも話が通じりゃいいだろ]
[よくわかんないけどいいや]
[んで、どっか具合が悪いのか?]
[ん~、わかんないの。なんかご飯も食べる気しないし、元気が出ないの]
[いつからだ?]
[えっと、うちに変なのが来てからかな。ちっちゃくてうるさいの。そいつが来てからおかーさーんもおとーさんも全然かまってくれないの]
「なるほどな」
「何かわかったんですか?」
「あぁ、たぶんな」
[それで、今日なんかこんなところにおいてったの]
[わかったわかった]
捨てられたと騒ぐネコを軽くいなしセンセーに呼び掛ける。
「おい!こいつんとこ最近子供が生まれたろう」
「そうそう、男の子だそうですよ」
返事をしてくれたのは看護師のキョウちゃんだったが。
「こりゃそのストレスだ」
「身体の不調じゃないんだな」
「話を聞くかぎりな」
「よし、助かった。あとはこちらでやるからもういいぞ」
「ついでにノミ避けの薬もらっていっていいか?」
「ああ、そこにあるのならいくらでも持っていけ」
「ありがとよ。さあ帰ろうぜ」
そうして脇に避けてあった薬をリュックに入れて、紅葉を連れて病院を出た。




