呼び出し
「おーい、紅葉。そろそろ飯にしねぇか?」
「あ、はい。あと、これだけ終わったら」
あれからもこいつは、時折やってきては畑の手入れを手伝ってくれる。
わざわざ大変だろうと言ったが、楽しいからいいらしい。物好きなやつだ。
握り飯を用意していると、道具を片付けて紅葉が戻ってきた。
「最近どうなんだ?」
「えーと、トマトとキュウリはもう採れそうです。トウモロコシはあと少しかな。でも、やっぱりここは土がいいんでしょうか。どれもよく育って・・・」
「いや、楓とのことなんだが」
畑談義を遮ると、恥ずかしそうに俯きながら
「あ、それは、まぁぼちぼちというか・・・」
と、にごした返事になるが、顔ははにかんでいる。
ま、これだけ喋れるようになったってことはこいつもかなり変わってきているんだろう。最初の頃なんかどもりっぱなしで声も小さいし、わけわからんかったからな。
「そりゃよかったな」
「はい」
しかし、にこにこしながら飯を食っている様子は警戒心の欠片もない。なんでこんなに俺に懐いてんのかね。
「・・・うまいか?」
「はい!」
「そりゃ、よかったな」
まあいいか。
紅葉と二人、ゆっくりと食事を楽しんでいると。
ちゅんちゅん、ちゅんちゅん
「あ、すずめですね。ごはん欲しいのかな?」
そうしている間にも、一羽、二羽、三羽・・・
[よんでるよ、よんでるよ]
「あ~、こりゃ呼び出しだ」
一羽は近いうちに、二羽は今日中、三羽は早めに。
[せんせいが、よんでるよ]
「わかったわかった。今準備するから伝えといてくれや」
[もどる、もどる]
[ごはん、ごはん、おいしいごはん]
すずめ達は喋りながら戻っていった。
「さてと、んじゃ行くか」
振り向くと所在なさげに立っている紅葉がいた。
「お前も来るか?」
「あ、あの、どこへ・・・」
「あぁ、センセーんとこ。別に無理にとは言わねぇけど」
「い、行きます」
「そうか?じゃあついて来てくれ」
「はい」
めんどくせぇが、センセーには世話になってるからな。仕方ねぇか。
俺は紅葉と一緒に山を下りることにした。




