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山に住む人~根暗少女と毒舌男~  作者: ねこ吉
紅葉の冒険
5/9

迎え

 そして一ヶ月、畑の野菜達はすくすくと育ち、山の中の生活になじんだ頃、楓がやってきた。

「帰ろ、お姉ちゃん」

 私を追い出したときと同じ笑顔で、彼女は言った。

「お母さん達も心配してる。わたしだって、すっごくさみしかったんだから」

「…うそでしょ」

「ほんとだって、お母さんなんかやつれちゃって、家の中も荒れてひどいことになってる」

「そんなの、信じられない」

「自分の目で見ればわかるよ」

「いやだ、帰りたくない」

「お姉ちゃん、わがまま言わないで」

「だって…だって楓が言ったんだよ、私はいらない子だって。お母さん達もそう言ってるって!」

「あぁ、それは…あの人達も、お姉ちゃんがいなくなって気づいたんだよ。お姉ちゃんの大切さに」

「いや! 私はここにいる。楓だって私はいらないと思ってるんでしょ!」

「どういう意味?」

 楓の雰囲気が変わった。笑顔はそのまま、でも私にはわかる、あれは本気で怒っている。

「もう一回言ってみて? わたしが? お姉ちゃんを? いらないと思ってる?」

「だ、だって」

「だって、なに?」

「ぅ、その…、そうじゃなきゃこんなに意地悪しないでしょ?」

「わたしがお姉ちゃんをいらないなんてことはあり得ない。だって、他の人に対してはわたしが代わりになれるけど、わたしにとってお姉ちゃんはお姉ちゃんしかいなくて、わたしが代わりになるわけにはいかないんだから。それに…」

「? それに?」

「お姉ちゃんはわたしのものなんだから、何したっていいんだから。勝手にどこかに行くなんて許さない」

 真剣な瞳でこっちを見据える楓。その言葉はどこまでも自分勝手で、でも…

「じゃあもし、私がもう一人いたら? おんなじ見た目で、おんなじことを考えて、区別がつかないようだったら、やっぱり私なんていらないんでしょ?」

「当然いるわよ」

「へ?」

「だって、お姉ちゃんはお姉ちゃんなんでしょ? だったら何人いてもみんなわたしのものに決まってるじゃない。むしろ増えるなら大歓迎だけど」

 こんなふうに言ってもらえるのが、うれしい自分がいた。認めてもらえること、必要とされること。私がどんなでも、全く同じものが存在しても、“私”がいて良いと言ってもらえること。

「だから、帰ってきてよ。お母さんとかのためじゃなくて、わたしのために。ねぇ、お姉ちゃん」

 かわいらしく首をかしげて、どこまでも傲慢に楓は笑う。

 それでも、帰ってこいと命令しないのは、私が自分で選んだという事実を手に入れたいからだろう。より私を縛るために、私が逃げられないようにするために。

 そして、すべてをわかっていて私は…

「………うん」

 うなずいた。

「うん、楓が、私のこといるなら、帰る」

「ほんと? やっぱやめたなんて許さないよ?」

「ほんとだよ。でも、ちょっと待ってね」

「どうして?」

「お世話になったお礼を言わないと。夕方には帰ってくると思うから」

「その必要はないぜ」

 わきの茂みから彼方さんと吾郎がぬっと顔を出した。

「っ!」

 楓が息をのむ。

「帰るのか」

「はい、お世話になりました」

「世話になったのはこっちだ。畑の世話、助かったしな。にしても、おまえも物好きだな、こんな奴のところへわざわざ帰るたぁ」

「でも、楓は私を、私自身を必要としてくれますから」

「あんたもあんただ、よくこんなとこまで来れたな。一人だろう?」

「愛がありますから」

「えっ?」

 しれっと楓が恥ずかしいことを言う。

「そんじゃ、約束通り送っていってやるよ」

 それをさらっと流す彼方さん。

 麓におりるまで、みんなほとんどしゃべらなかった。

「ここまでくれば大丈夫だろ? 俺たちはこれで失礼するぜ。こいつを見られるとまたややこしいからな」

 ぽん、と彼方さんは吾郎をたたきながら言う。

「本当に、ありがとうございました」

「気をつけて帰れよ」

 ぽん。

 吾郎にしたのと同じように、彼方さんが私の頭をたたく。

「わたしがついてるんだから平気に決まってます」

 楓がその手を払いのける。

(少し寂しい)

 そう思って自分に自分でびっくりする。人に触られるなんて不安の元でしかなかったはずなのに。

「じゃあな」

 なにも気にしていないような態度で彼方さんは背を向ける。一、二歩歩き出したところで足を止め、振り返って、

「あんたら、俺から見りゃあ全く別もんだよ」

にやっと笑ってそう言った。

「ま、似たようなとこもあるけどな」

 ひらひらと手を振って再度歩き始める。その背中に向かって私は思わず声をかけた。

「また…、また、会いに来ても良いですか?」

「おう、いつでも来い。できれば今度は秋にな」

「がぅ」

「吾郎も歓迎するってさ」

「そのときはわたしも一緒に来るからね」

(どうして楓はけんか腰なんだろう? いつもはもっと愛想が良いのに)


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