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第6話 クエスト







「月光草を10本だ、途中で魔物を見つけたら今度こそ倒すぞ」


「了解ですっ!」


 ビシッと敬礼をしてレオンは、やる気一杯に探索を始めた。

 月光草は月の光を蓄えるという性質を持った薬草の一種だ。

 暗いところへと持っていけば月の光で淡く発光する。

 薬草としての効能も高いが、引き抜いてから日持ちもするため観賞用としても人気が高い。

 見分け方は見た目の特徴がいくつかあるため、それで見分ける。

 見た目で分からなければ、手の影なんかで暗くしてやれば薄く光るためすぐに分かるだろう。

 冒険者にとっては至れり尽くせりのアイテムだ。


「師匠ー! 見つけましたー!」


 レオンが何かを片手にこちらに近付いてくる。

 魔物の討伐とは違い、危険もない。初クエストには丁度いいだろう。

 今回はどうにか上手く行きそうだな。

 俺が採取クエストを選んだのは、レオンにまず自信をつけさせるという目的もあった。

 駄目だと思い込めば出来ることもできなくなる。

 だから何でもいいから成功を積ませたかったんだ。

 あいつは異常に自己評価が低いから、これでちっとは元気になればいいが。

 もしかして予想外の失敗をするかもしれないってのは少し考えてたけど、さすがに採取で失敗ってのは難しいよな。 


「じゃじゃ~ん! どうですか師匠! 私だってやればできるんですよ!」


 レオンは自信満々に手の中の草を見せてくる。

 抜き方が下手なのか、根っこの部分がちぎれてやがるし。なによりも……


「…………」

 

 俺は絶句するしかなかった。

 どうしよう。

 まさか月光草どころか薬草ですらなく、ただの雑草を持ってくるとは。

 褒めて褒めて! みたいな顔でレオンはニコニコしながら尻尾を振っている。

 

「レオン、俺月光草は暗いところで光るって言ったよな?」


「はい!」


 レオンの顔は変わらず自信に満ちていた。

 ここまで自信満々だと俺の方が間違ってる気がしてくるな。

 一応手で影をつくってみる。

 

「……なあ、これ光ってるか?」


 レオンが自信たっぷりに手の中を覗き込んでくる。

 もちろん、光るわけもなく。レオンの手にあるのは萎びた雑草以外のなにものでもない。


「んー……光ってはないですけど……頑張れば光りそうな気がするんですよね」


 雑草に何を期待してるんだこいつは。


「光ってるやつ持ってこい!」


ずどんっ!


「ぷぺっ!?」


 デコピンを食らわせてやった。

 思ったより派手に音がした……思わず力を入れすぎてしまったが大丈夫だろうか。

 魔力込めたのもやりすぎだったかもしれない。

 レオンも変な声を出して仰け反った。


「あの……師匠? デコピンってもっと可愛い威力だと思うんですけど……」


 おでこを擦りながら涙目で見てくる。

 普通なら吹っ飛んでるところだが、あまりダメージがないようだ。


「意外と頑丈だよなお前」


「いやいやいやっ! か弱い女の子ですよ!?」


 こうしたトラブルはあったが、悪戦苦闘しながらも2時間後には月光草を集め終わることができたのだった。










 結局魔物の方はそこまで現れなかった。

 出てきたことは出てきたのだが。逃げられたり、運悪く死にかけだったりと、とても討伐出来たとは言い難い戦果だった。

 だが、そういう運も冒険者のスキルの一つだ。魔物と会わないのに越したことはない。

 今回はちょっとでいいから出てきてほしかったけどな。


「あんまり魔物出てきませんでしたねー」


「そうだなー」


 適当な返事を返しながら、そういえば……と、俺もレオンと一緒にいることを楽しんでいる事に気付く。

 こいつといると飽きないよなあ……


「なあ、レオン」


「なんですか?」


「明日武器屋行かないか?」


 狙いが逸れるのは武器が合っていない可能性がある。

 そもそも、剣が向いてるとは思えない。あれは武器の中でも技術がいる方だ。

 その辺りは鍛冶職人のアドバイスを聞いた方がいいだろう。


「ふむふむ、なるほど……そういうことですか」


 レオンも薄々気付いているようだ。

 うんうん、と深く頷いている。


「ここらで武器を景気付けに一新しようというわけですね、確かに私もそろそろ二刀流というものを試したいと思っていたんですよ」


 いや、気付いてなかった。

 というか二刀流って……1本ですら扱えないのにできるわけないだろ。


「私が思うに聖剣なんかがいいと思うんですよね、予算的に300Gくらいだと嬉しいんですけど買えますかね?」


「手頃すぎる聖剣だな……」


 レオンのことだから偽物を買わされそうなので、一応あとで注意はしておこう。

 そんなやりとりをしていると、ふと何かの音が聞こえてきた。

 この音は、馬が駆ける音だな。


「おー、あれってもしかして王都の騎士団か?」


 騎馬の数が、えーと、20くらいか? どこぞへ討伐にでも行っていたのだろうか。

 遠くに見える旗の紋章を確認する。紅白の双頭の鷹。近衛騎士か?

 実物を見たのは初めてだけど、あの紋章は王国のものだ。

 かなり有名な騎士団らしく、特に騎士団長はこの国の姫様自ら務めているらしい。

 一国の姫がわざわざ先頭に立つってのも変な話だが、相当な才女のようで、人望も厚いと聞いている。


「姫騎士様、か……お姫様見れるなんてこれが最初で最後かもな」


 そして、噂に聞いた話ではやたら強いらしい。

 騎士団長クラスだ、並の冒険者など鎧袖一触だろう。

 詳しいことは見たことないから分からないけど、どのくらい強いのだろうか。

 ちょっとだけ興味はある。

 

「こっちに来るな、避けとくぞ」

  

 一生見ることのないと思っていた王国の騎士団だったが、見惚れてたせいで轢かれるとか笑えない。

 俺は轢き殺されないように、道を空けた。


「レオン?」


 だがレオンは動かない。

 固まったようにじっと騎士団の方を見ている。動く気配がない。

 やばい、王国騎士団がやってくる。

 俺はレオンの腕を引っ張って進路から外れたのだが、不思議なことに先頭の数騎がこちらに向かってきた。

 その数騎はゆっくりと減速して、俺たちの傍まで寄ってきて。そのまま目の前で止まった。


 先頭にいるのは、黒く美しい馬。そして、艶めかしい白銀の馬鎧。

 それに跨るのは目が覚めるような美しい少女だった。

 ブロンドのポニーテールに、凛々しい蒼い瞳。そして、薔薇のように紅い唇。

 プロポーションも整っていて、何層にも重ねられたフルプレートが神々しい。

 歳はレオンより少し上くらいだろうか。

 俺よりは年下だが、威厳のようなものを感じる。さすが姫さまってとこか。

 馬上で少女は俺たちを見下ろす……興味のないものを相手にするかのようにその目はどこか冷たい。

 

「あなた」


 容姿通りに凛々しい声だった。

 けど高圧的だ。とても棘のある言葉。

 馬の上からってのもあるんだろうけど、こちらを明らかに下に見ていた。


「……なにか御用でしょうか?」


 こういうノリは苦手なのだが、俺は地面に膝をついて頭を下げた。

 気配で警戒はする。ここは礼儀で返すべきだ。

 何でもないように振舞うが、内心では動揺していた。

 もしかしてなにか粗相をやってしまったのだろうか。

 わざわざお姫様が来るっておかしい気はするけど……

 チラッと馬上の姫騎士様を見てみた。

 容姿もそうだが、仕草一つとっても高貴だ。 

 気品というか、オーラというか……どこか自分たちとは違う世界の人間なんだということを感じさせられる。


「あなたじゃないわ」


 すると目の前の相手は、レオンを見てこう言った。


「あなたよ、こんなところで何をしているの? レオーネ」


 え? 知り合い?

 びっくりした俺は思わずレオンに視線を移す。

 すると俯いていたレオンはどこか気まずそうに、顔をあげた。




「えーと……あはは、お久しぶりです……ルヴィア姉様」




 ―――――は?







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