第5話 ランク
「ゴブリンは……ちょっと危ないかな、なら採取系もありか?」
俺だけなら問題はないのだが、今回はレオンもいる。
登録したばかりのレオンはGランクだ。能力も……正直、ビギナークラス。
ならばそれに合わせてクエストのランクも下げた方がいいだろう。
安全な採取系をこなしつつ、見つけた魔物と戦うってのが無難かな?
「んー……」
レオンの意見も聞いた方がいいな。あいつは何がやりたいんだろう。
しかし、遅いな……何してるんだ? 何か分からないことでもあったのだろうか。
あいつ、事務作業とか向いてなさそうだしな。
「なあなあ? いいだろ? 俺たちが手取り足取り教えてやるからよ」
「わざわざ初心者のためにDランクの俺たちがパーティを組んでやるって言ってるんだぜ?」
「え、っと……その……」
レオンは絡まれていた。それはもう見事に、テンプレすぎて呆れる。
「……あいつは厄介ごとに巻き込まれないと気が済まないのか?」
とは言ってみたものの、今回は俺も失念していた。
基本的に冒険者は、一般人に被害を出すのは御法度とされている。
だが同業者なら話は別だ。
冒険者同士の場合争い事も多いため、よほどのことがない限りギルドが介入することはない。
加えて、荒くれ者で無駄に力もある。街のチンピラよりもたちが悪い。
だからレオンは冒険者に登録した直後というタイミングで絡まれたのだ。
あれだけの容姿をしているのだから、この流れは予測しておくべきだった。
「わ、私は師匠とパーティを組みますので……」
レオンは小さく震えていた。
そういえば懐かれる前は俺のことも警戒して怯えてたな。
意外と人見知りなところあるよなあいつ。
「師匠? どうせ大したことない奴なんだろ? ほら、見ろよこれ」
冒険者カードを見せる男たち。
そこには確かにDのランクが記されていた。
「俺たちはマジでDランクだ、もうすぐCランクも狙える俺たちが色々教えてやるよ。亜人のお前には勿体ないくらい美味い話だと思うぜ?」
「というか亜人の癖になんで人間様に逆らってんだ? あ゛?」
って、いかんいかん。
さっさと間に入らないとレオンが怯えている。
犬のなりして、心は兎だからな。
「しつこい勧誘はやめたほうがいいぞ」
俺が間に割り込むと、レオンは「師匠っ!」と、目を輝かせてこちらに駆け寄ってくる。
ぎゅーって腕をつかむな! けど、こいつ……無駄に胸があるな。
パーティに勧誘していた冒険者たちは露骨に顔をしかめた。
けど俺の顔を見た途端それは違う表情に変わった。
「し、師匠って、あんただったのか……?」
「おう、悪いけどこいつは俺とパーティを組むんだ、今回はほかを当たってくれ」
「くそッ、いくぞ!」
二人の男たちは不機嫌そうに足を鳴らして去っていった。
なんか魔物相手より人間相手の方が疲れる気がする。
話ができる分、魔物よりも複雑だ。
まあそれはさておきと、レオンを見る。
尻尾がゆっくりと横揺れだが、申し訳なさそうに頭をひしゃげて。
「ほら、いくぞ、俺としては採取クエストをやりながらってのが安全でいいと思うんだが」
紅薬草とか月光草とかが分かりやすくて好きなんだよな。
金になるし、クエスト自体もそこまで難しくない。
と、個人的な感想を言ってみる。
「え? 師匠って有名人なんですか……?」
恐る恐る尋ねるレオンの頭にぽんと手を置く。
怖いことがあった後だ。ぶっきらぼうな俺だが慰めるくらいはするさ。
「あー……どうなんだろうな」
乱闘騒ぎは結構起こしてるから有名と言えば有名なのか?
そんなことを思い出しているとレオンは、俺の顔を覗き込んで聞いてきた。
「あ、あの……! 師匠ってランクはいくつなんですか……?」
「ん? Aだけど」
「A……? へ? Aっ!?」
レオンは驚きで尻尾と耳をぴん!と伸ばした。
ぱっちりとした蒼い目がこれでもかと見開かれる。
なんかすげー驚いてる。ほんと、分かりやすい奴だ。
「師匠ッ!!」
レオンがいきなり大声を出す……びっくりした。
また周りが何事かとこっちを見てくる。
「お前な……いきなりデカい声出すなよ」
キーンってなった耳を押さえながら一言注意する。
もじもじと両手を重ね、レオンは好奇心を隠せないままに尋ねてきた。
「あ、す、すみません……って、そうじゃなくてですね! 師匠ってAランクだったんですか!?」
「そうだけど」
「なんで教えてくれなかったんですかああぁっ!!」
ぐいっと顔を近づけてくるレオン。くりんとしたぱっちり蒼目が俺を睨む。
興奮気味なのか、耳が揺れて尻尾が激しく動いている。
「Aランクってあれですよね!? 一流の中の一流! 限られた天才しかなれないと言われている冒険者たちの憧れですよ!?」
「あー……うん、そうね」
ギルドの中で叫ぶのはやめてほしい。
何かすげー恥ずかしいから。
「凄いじゃないですか! なんかもう凄すぎてもう……凄いじゃないですか!」
語彙少ないな……
「分かった分かった、とにかくクエスト受けようぜ」
むふー!と興奮気味に鼻息を荒くしているレオンを引っ張って、クエストが貼り出されている場所まで行く。
「月光草10本か、場所は……近いしここにするか?」
「師匠半端ないです! 強いですし、優しいですし、Aランクですし! 凄いですぅうっ!」
「はいはい」
なんかもう何を言っても無駄な気がしたので、適当に返事を返す。
レオンは周りを気にせず俺のことを褒め称える。
レオンのふさふさ狼尻尾が千切れそうなほど振られているのが目に入った。
「一生ついていきますよ、師匠ーっ!」
キラキラとした憧れの眼差しを送ってくるレオン。現金なやつだ
「……これにするか」
俺は彼女から目を逸らし、誤魔化すようにクエストを選んだ。
なんだかんだで可愛い弟子にそんなことを言われて、内心は結構嬉しいのだった。
娘を持つ父親、妹を持つ兄ってこんな感じなのだろうか。