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第3話 レオーネの実力








「お前ほんとに急激に距離縮めてきたよな」


 出会ったばかりはもう少し余所余所しかった気がするけど。

 借りてきた猫みたいに大人しくて。

 出会ったその日に師弟関係になってから十日間……やたら話しかけられたな。

 後ろから凄いついてくるし……餌付けした犬っころみたいだ。

 気付けば俺もこの少女がいることが当たり前のようになっていた。

 そして、今日時間が空いたので実力を見てやろうか? と言ってみたら、めっちゃ喜ぶし。

 聞けば昨日の夜は中々寝付けなかったとか……遠足前の子供か。


「師匠はなんだか話しやすいんですよ!」


 パンとミルクはその気持ちの高ぶりが表れたらしい……よくわからないけど。

 遠慮なくそいつをいただくと、少女は明るい笑顔で俺を覗き込む。

 子供に餌付けされてるみたいでちょっと癪なのでほっぺたつついてやった。

 嬉しそうに目を細めて「むぅぅ~」ってしてた。


「出会って10日で遠慮という概念を失ったか……」


 そんなこんなで雑談すること10分ほど。

 街の外に出ようとしたところで、フルフルと尻尾がなびき、わくわくを隠せない獣人少女に俺は再度提案する。


「なあ、ほんとに師匠って呼ぶのやめないか?」


 恥ずかしいってのもあるけど、俺はそんな立派な人間じゃない。


「でも……」


 ショボンとするレオーネ。

 む、言いすぎだったかな。

 ちょっと悪いことをした気分になってくる。

 呼び方くらい好きにさせてもいいのではないだろうか。

 内心で考えているとレオーネは申し訳なさそうに言ってきた。


「私……師匠の名前知りません……」


「なんでっ!?」


 あれ? 自己紹介したよな……? うん、してる。

 レオーネの名前を聞いたときに、俺も名乗ったはずだ。


「なんで師匠の名前を覚えてないんだ……?」


 軽く睨みつけるとレオーネはだらだらと変な汗を流しながら、目を泳がせる。 


「い、いやー……ずっと師匠師匠って呼んでたので、ちょっとずつ記憶から消えていきまして……」


 愛想笑いで誤魔化そうとする。記憶力が鶏並だな。


「あー……うん、そうね、なんかもう師匠でいいや……」


 俺は色々と諦めるのだった。










 場所は変わり街から少し離れた場所にある草原。穏やかな風が原っぱを揺らす。

 近くにはレオーネと出会った森があって、たまに縄張りから出てきた魔物がここらへんで悪さをする。


「あ、そういえば……」


「ん?」


「最近この辺りで一角ウルフが出てくるらしいです」


 情報が古いな、レオーネ。

 俺がクエストで一角ウルフを討伐したのはこの辺りだ。


「あーいや、それは大丈夫だろう」


「駄目ですよ師匠! 一角ウルフはDランクの魔物ですよ? もしもソロで群れに囲まれたらCランクの冒険者でも危ない強敵なんですよ!」


 レオーネはその群れがもう討伐されたってのを知らないみたいだ。

 まあ、わりと最近の情報だし、知らなくても仕方ないかもな。

 

 ちなみに冒険者のランク付けは大まかに言ってG~Fが初心者。

 E~Cで中級者で、Bランクで一流と言われている。

 Aランクになると超がつくほどの実力者と言われ、数は少ないがSランクという伝説級のランクがあるらしい。

 ギルドでは基本的に自分と同格かそれ以下のランクのモンスターを倒すのが推奨されている。


「一角ウルフはもう討伐されたぞ」


「え、そうなんですか?」


 レオーネは少し驚いたように目を見開く。


「凄いですね……! 確かこの情報は最近出たばかりなんですが……やっぱり倒したのは高ランクのパーティなんでしょうか?」


 いや、俺です。

 けどなんとなく今更言いづらい感じが。

 それにこいつに言ったら何となくはしゃぎそうな気がする。

 

「あー……どうなんだろうな」


 曖昧に返しておく。


「私もいつか一角ウルフのような魔物でもやっつけれるくらい強くなってみせますよ!」


 むふー!と鼻息荒く手を高く上げるレオーネ。

 ちょっとだけ照れくさい……まあ、やる気が出たなら何よりだ。

 気恥ずかしさを誤魔化すために周囲の気配を探りつつ視線を周りに向ける。

 すると近くに魔物らしき影が見えた。


「お、丁度いい、あそこにグリーンスライムがいるのが見えるか?」


 グリーンスライムはスライムの亜種のようなものだ。

 生まれたばかりのスライムと違い、薬草などの植物ばかり食べていたせいで体色が変化したスライムらしい。

 スライムよりちょっとだけ強いけど、ほとんど大差ない。

 ランクはG。

 ルーキー向けのモンスターだな。


「あれですね……」


「まずは一人であれを倒すところを見せてほしい」


「お任せください!」


だっ!


 するとレオーネは地を蹴り駆けた。

 狼のような瞬発力の高さ。正直侮っていた。

 スピードはピカイチだな。

 見た限りでは運動神経はかなりのものだ。フィジカルはなかなかのもの。

 レオーネは瞬く間に対象との距離を縮めていく。

 そして、グリーンスライムの前で剣を鞘から抜き、振りかぶった。


がっ


「ん!? あ、あれ!?」


 剣はそのまま吸い込まれるように、近くにあった木に刺さった。

 レオーネは剣を抜こうと力を込めるが、全力で刺してしまったロングソードはまったく動かない。 

 

「ぬ、抜けない!?」


 ぐぎぎと歯噛みするレオーネ。両手で頑張って引っこ抜こうと焦っている。

 足を使え、足を。

 それにしてもすごいな……こんなこと今時初心者でもやらないぞ。剣さばきがまるでなっていない。

 グリーンスライムは急に襲ってきたレオーネを獲物と認識してゆっくりと向かってくる。


「ひっ、し、師匠ー!? た、助けてくださいー!」


 レオーネはこうして一人で勝手に窮地に陥った。


「えー……」


「す、スライムは苦手なんです! ぬるぬるが! にゅるにゅるがああぁ!?」


 近付いてくるスライムにパニックになるレオーネ。

 剣は抜けないし、涙目でこっちに助けを求めて泣き叫ぶ。


「ししょー! ピンチです! スライムが! スライムがあああっ!!」


「…………」


 剣から手を離せばいいのでは……?

 そのことを伝えると、ちょっぴり気まずそうに剣を離して、逃げ帰ってきた。










「よ、っと」


 俺が剣を木から抜いてやる。

 かなり深く刺さっていたし、レオーネは力も強いようだ。

 涙でぐしゃぐしゃ顔の彼女に剣を返した。


「あ、ありがとうございます……」


 彼女は目に見えて落ち込んでいた。

 さすがに人前でスライムを倒せなかったのはショックだったようだ。


「大丈夫だって、ミスなんて誰にでもある、今回は二人だったし運が良かったって思おう、勿論ソロの時には今以上に気を付けないといけないけどな」


「うぅ……面目ないです……」


「ほら、もう気にすんなって、まだチャンスはあるんだ、次で挽回すればいいだろ?」


 そう言うと、レオーネが「そ、そうですね!」と、元気を取り戻す。


「じゃあ次の魔物探すぞ」


「おー!」


 レオーネは元気いっぱいに拳を握りしめた。

 こうして俺たちは、気を取り直して次の魔物を探し始めるのだった。

 


 













「うぅ……ずびばぜん……」


 レオーネは泣きべそをかいて、意気消沈していた。

 

「いや、まあ……うん……」


 あれからの結果は散々だった。

 まず一番の問題だけど剣が当たっていない。

 振れば外すわ、どっかに引っ掛けるわ、すっぽ抜けるわ。

 一度こっちに剣が飛んできたときはマジでビビった。

 殺気がない分、生半可な攻撃よりも読みづらかった。

 あと、戦う時に叫んだせいでこっちの居場所がばれたり、地面に足を引っ掛けて転んだり……とにかく散々だった。


「今日はここまでにしよう、日も暮れそうだしな」


 見ると太陽は姿を隠し始めていた。

 何とも言えない結果で終わりはしたが、実力を見るという目的は達成できたし、ここらでやめないと夜になってしまう。

 落ち込んでいるレオーネを励ましながら、俺たちは街に戻った。


「あぁ……私はスライムにも劣る存在だったんですね……」


 帰り道でレオーネはやたら卑屈なことを言っていた。 


「…………」


 俺もなんて慰めたらいいのか分からない。

 まさかスライムの討伐に失敗する冒険者がいるとは思わなかったからだ。

 でも、俺は心配はしてなかった。

 弱いならこれから強くなればいい。その向上心はこいつにあるだろうし。

 どうやったらこのポンコツ少女を強くできるだろうか……んー。


「あの、師匠……」


 そんなことを考えているとレオーネが話しかけてくる。

 先ほどとは違い真面目な声だった。

 隣に視線を移すと、彼女は恐る恐るといった様子でこちらを見上げてきていた。


「失望しちゃいました……?」


 レオーネは怯えていた。

 その姿は初めて出会った俺に獣人だからと差別されることを恐れていた時のようで……俺に見捨てられることを異常に怖がっているように見えた。

 おいおい、なんて顔してるんだよ……馬鹿みたいにハイテンションだったかと思えば、急に落ち込んで……ほんとに面白い奴だよな。

 俺はできるだけ気楽に答えてやった。


「いや、まったく?」


「え?」


 レオーネは、目をぱちくりさせる。


「で、でも……私、何もできませんでしたし……スライムすら倒せなかったんですよ?」


「じゃあ今度は倒さないとな」


 手を頭に置いてくしゃっと撫でてやる。

 わしゃわしゃして髪を乱して、笑いかける。


「あの……ま、また見てくれるんですか?」


「おう、次の目標はスライム討伐だな」


 俺がそう言うと、レオーネは何かを堪えるように涙ぐんだ。

 ぐしぐしと袖で涙を拭う。


「し、師匠っ!」


「ん?」


「あの……ありがとうございますっ」


 夕日に照らされながら、彼女は本当に嬉しそうに微笑んだ。

 その姿はとても幻想的で美しく……不覚にもちょっとドキッとした。

 黙ってたらとびっきりの美少女なんだけどな。








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