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第15話 縛った少女とゴブリンを戦わせる






 木々が生い茂る森の中。

 街から数キロほどの場所にある小さな森の中に俺とレオンはいた。


「あ、あのー……ほんとにやるんですか?」


 レオンは手首を後ろ手に縛られながら、不安そうに俺を見た。

 そりゃまあゴブリンの巣に両手が使えない状態で放り込まれるとか、俺でもちょっと怖い。

 ちなみにレオンの手を縛ったのは、ゴブリンの巣の手前辺りだ。

 街中で手を縛られた女の子連れて歩くとか、変な噂立ちそうだからな。

 巣の位置については事前に聞いていたので問題ない。


「昨日説明しただろ? いざとなったら助けてやるから大丈夫だって」


「確か逃げるため、でしたっけ」


 レオンに頷きを返す。

 そのため反撃を一切できないように手を縛ったのだ。

 ついでに補足するなら跡が残らないように軽く、だけど絶対に抜けないように縛っておいた。

 これはそういう縛り方だ。奴隷や平民にやるやつじゃなく、高貴なる御仁用の技さ。

 しかし、レオンはそれを聞いてうーっ、と唸る。中型犬くらいの迫力があるな。


「ですが師匠っ! 逃げるなんて卑怯じゃないですかっ!」


「何言ってんだ。逃げるのだって立派な戦略だぞ」


 逃げるのは攻めの次に大事なことだ。

 戦闘、戦争の際にも引き際を誤れば被害は広がるし、上手く逃げれるやつは再起のチャンスを得られる。

 そういうやつは攻める側からしたら意外と厄介なのだ。また守りに徹せられると損害は膨らむしな。

 少なくとも死を覚悟した特攻しかけてくるやつより、逃げてチャンスを伺ってくる奴の方が恐ろしい。

 

「でも師匠、別にわざわざ縛らなくてもよかったのでは……」


「なんで?」


「だって別に縛られてなくても逃げれるじゃないですか」


 レオンの疑問はもっともだ。

 確かに逃げるだけならそれでもいいかもしれない。

 だけど今回は特訓なのだ。


「選択肢を減らすためだな」


「どういうことです?」


「レオン、お前の戦い方を見てると俺はレオンが本当に馬鹿で不器用なんだなって分かったんだよ」


「……唐突に馬鹿にされました。ショックです……」


 また凹ませてしまった。いかんいかん。

 俺は誤魔化すようにレオンの頭をわしゃわしゃと撫でる。


「うぅ、誤魔化しましたね師匠……」


 しかし、なんだかんだで目を細めて気持ち良さそうなレオンに俺は説明する。


「レオンの戦い方を見てると咄嗟の判断力に欠けるように見えたんだよ」


 俺も人のことは言えないがな。

 ついかっとなって立ち向かってしまうこともあるさ。

 だけどレオンは俺よりもひどい。経験が浅い分、拙い。


 戦う能力自体は実はレオンは結構高い。

 それがなんであんなポンコツなことになるのかというと、その原因がさっき言った選択肢だ。

 レオンは戦う時に何も考えてないので、突然の事態に弱い。

 それはもうめっちゃ弱い。応用力が足りないんだ。

 どっちに攻撃するか悩んで、思わず一瞬攻撃を止めてしまっている。

 この辺は戦闘に不慣れなせいだろう。

 戦闘時の判断力を鍛えさせるためにはやはり戦うのが一番ではあるが、いきなり全部やろうとしても失敗する。

 だからこれしかできないという状況をつくった。

 戦いにおいて最も大事なのは、矜持とか武勲じゃない。

 命だ。命以上のものは存在しない。

 だからこそ、初めに逃げるということを叩き込むことにした。


「というわけでまずは逃げ方だ、勿論棍棒の実戦もしてもらうぞ。軽く棍棒の扱い方を教えた後で最後に一人でゴブリンと戦ってもらう」


「な、なるほど」


 一応理解はできたようだ。

 よかったよかった。意味も分からず鍛えたって効果は半減するからな。


「あとあれだ、ギルドから倒しすぎるなって言われたからな」


「なんでですか?」


 基本的に大規模討伐クエストってやつは報酬がいい。

 基本報酬に加えて倒した数も報酬に加算されるので冒険者たちは頑張るぞってなるわけだ。

 それなのにいざ行ってみたらゴブリンがいませんでしたってなるのはマズい。

 ゴブリンの大規模討伐クエストに関してはもう告知してしまっているので取り消しもできないそうだ。

 ようするにマナーの問題だな。

 クエスト前に美味い獲物を横取りするなんてそりゃあいい顔されないだろう。


 レオンがふむふむと深く頷く。

 こいつのこの仕草見ると不安になる。

 ほんとに分かってるのだろうか。


 そうしてしばらく歩く。

 だいぶ近付いてきたはずだ。

 自然と口数が減ってレオンもそれを察したのか黙って進んでいく。

 レオンの顔色が悪い気がするのは気のせいだろう。

 元々こんな顔だった気がする。たぶん。


「あ、し、師匠……ゴブリンですよ」


 レオンが小声で伝えてくる。

 見た限り1匹。はぐれたやつだな。

 周りに仲間もいないし……うん、始めるか。

 

「よし、蹴り入れてこい。で、奥に逃げるんだ。そしたらたぶん囲まれるから」


「うぅ……不安です……めっちゃ怖いです……」


 こうして特訓は始まった。


「ああ、そうだ忘れてた。棍棒も体に巻き付けとこう。重しとして」


「っ!!!?」


 めっちゃびっくりした顔でこっちを見る。

 なんて顔してんだ。目がめっちゃ強張ってやがる。

 それにこのくらい棍棒持ちながら戦うなら当然の負荷だぞ。

 戦うときは装備を着込んで戦うんだからな。

 

「よし、いってこい!」


 けどそうだな……手を縛った少女に重りを持たせてゴブリンの巣に放り込む。

 うん、見る人が見たら衛兵呼ぶよね。


「うぅ、なるようになれですよおおおおっ!!」


 やけくそ気味にレオンは突っ込んでいった。

 あいつ、ここぞという時の度胸はあるんだよな。

 それとも単にアホだから麻痺してるのかもしれない。






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