第14話 宿にて
「早速だが、今後の方向性について話そうと思う」
銀の小鳥亭の2階にある右奥の一室が俺の部屋だ。
そこに俺とレオンはいた。ちょこんとベッドに座っている。
一度、レオンは自分の借りてる宿屋に戻った。
彼女の服装はいつもの戦闘用の軽さ重視の皮装備ではなく、青を基調とした町娘っぽい恰好だ。
素朴な服装ではあるが似合っていた。
お姫様が着るような華のある格好ではないが、結構可愛かった。
言うと調子乗りそうだから言わないけどな。
「は、はい……よろしくお願いします」
ちょこんとベッドに腰かけたレオンが頷く。
落ち着きなさそうにキョロキョロしたり、手を置く場所を一々変えてみたり。
顔もちょっと赤い気がする。
「どうした? なんか落ち着きないけど」
気になったのでそう尋ねる。
いつもの元気はどうしたレオン。
「い、いやー、男の人の部屋に入ったのって初めてなんですよね」
あははっ、と頬を掻きながら照れくさそうにレオンが笑う。
なんだそんなことか。
いつもは遠慮なんてないくせに変なところを気にするやつだ。
「新しい武器だけどどうだった?」
「使いやすい……気はします、でも実際に使ったことがないからまだなんとも……」
ごもっとも。
早いとこ経験積ませないとな。
相性はいいと思うがそれで戦ったことがないならいまいちピンと来ないだろう。
「そりゃそうか、じゃあ明日は実戦だな」
「何と戦うんですか?」
「ゴブリンだ。数も多いし小さいが人型の魔物は対人戦の練習にもなる」
レオンが「う……」と、怯む。
眉根をしかめて凄い嫌そうな顔だった。
「? どうした?」
「と、トラウマが……未だにちょっと苦手なんですよね……違う魔物にしませんか?」
何弱気なこと言ってんだ。
けど、そういえばレオンと出会ったのはゴブリンに襲われてるのを助けたのが最初だったな。
ゴブリンに囲まれてたところを俺が助けて、気が付けば師匠って呼ばれて……
そういえばと、ずっと聞きたかったことを聞いてみる。
「なあ、なんで俺の弟子になりたいって思ったんだ?」
やたらと速攻で懐かれたよな。
今思えば不思議だ。
俺そんな大したことしてないのに。
するとレオンは何かを思い出すように口を開いた。
「あーそうですね……昔同じようなことがあったんですよ。怖い魔物に襲われて……
その時に助けてくれた人と師匠が似てたんです……だからですかね。頼りやすかったのかもしれません」
「ふーん? 恩人ってことか。どんな奴だったんだ?」
「色々と適当な人でしたね。頭が悪そうで、ガサツで、どことなく間抜けで……」
褒めてない褒めてない。
それ褒めてないですよレオンさん。
「でも、優しい人でした」
だけどレオンは嬉しそうにそう言った。
大事な思い出なんだろう。
俺に似てるってことでアイアンクローおみまいしてやろうかと思ったが、水を差すのはやめておこう。
「そうか……また会えるといいな。その時までに強くなってやろうぜ」
「はいっ!」
「じゃあゴブリンでもいいな?」
「うぐっ」
レオンが顔をしかめる。
苦手なのは分かるが選り好みしてたら強くなんてなれない。
「わ、わかりましたっ、頑張りますっ!」
レオンは両の手をグッと握って覚悟を決める。
よしよし。
「そういえば師匠。ゴブリンということはあの時の場所ですか?」
あの時の場所というのは言うまでもなく俺たちが出会った草原のことだろう。
だけど外れだ。
今回はあそこじゃなくもっと数の多いところに行く。
「実はそこからしばらくしたところ……近くの森の奥でゴブリンの巣が見つかってな」
もう少ししたら大規模な討伐クエストが出るはずだ。
だけど、その前に俺たちがその場所を使わせてもらう。
ギルドや冒険者たちもちょっと減るくらいなら大目に見てくれるだろう。
一応事前に問題がないか聞いてはおくけど。
「そこから出てきたゴブリンを私たちが倒すというわけですね?」
「いや、その巣の中に縄で縛ったお前を放りこもうと思う」
「………………はい?」