第13話 誤解される
「うぅ……ひどいです……」
「ほんとだよ……顔の形変わるかと思ったよ……」
アイアンクローを終えて、頭を押さえてうずくまる二人。
一応今回はかなり軽めにやったんだが、それでもダメージがデカかったようだ。
二人に涙目で睨まれる。ぷるぷる小刻みに震えるさまは子犬に近いな。
そんな二人を、はいはい……と適当に相手して、ほかの武器に目を向ける。
「ほら、レオン。そろそろ時間も遅くなりそうだし。さっさと武器選ぶぞ」
俺が声をかけるとレオンは頭を抑え、こちらに駆け寄ってくる。
そんなに痛かったのだろうか。力加減を考えてやらんとな。
「ほら、悪かったって」
いつものように手をレオンの頭に乗せてわしゃわしゃ。
ちょっと乱暴に頭を撫でる。
「うー、師匠……私こんなことで誤魔化されませんからね」
そうか。めっちゃ尻尾揺れてるぞ。単純な奴め。
言うとまた拗ねそうなので言わないけど。
「……アルってやっぱりレオーネさんに甘くない?」
ルミルは何だか不満そう。じーってこちらの様子を伺っている。
こいつにも何かしてやりたいところだが、ルミルは頭なんて撫でられても喜ばないだろう。
これで喜ぶのは狼っ娘のレオンだけだと思っている。
しかし、何もしないというのも……ううむ。
「お前も撫でてやろうか?」
からかう様に冗談を言ってみる。
するとルミルはレオンと同じようにこっちに駆け寄ってくる。
無言で頭を差し出してきた。
「いいのか?」
「ほ、ほらっ、レオーネさんだけされるっていうのも不公平じゃないっ?」
「それはそうだけど、飯とか奢るのでもいいんだぞ? あ、昨日美味そうな店見つけたんだ。今度そこで」
「い、いいからっ、男に二言があるって言うのっ!?」
ふむ、そこまで言われたらやらないわけにはいかない。
俺はさっきのアイアンクローと同じ立ち位置で片方にレオン、片方にルミルを置いて頭を撫でる。
両手に花というよりは、両手に犬だな。
「うへへ」
にへらっと表情を崩して気持ち良さそうにされるがままのルミル。
こいつも撫でられるの好きだったのだろうか。
それともレオンに対抗してるだけなのか。
まあ何にしても意外と二人の頭を撫でる感触は悪くない。
俺はそのまましばらく続けさせてもらうのだった。
ぶぅんっ! ぶぅんっ!
「剣と比べてどうだ?」
「思ったより狙いやすいです……」
ちょっとずつ調整していって棍棒の扱いにもやや慣れてきたレオン。
重量はあるが、なんだかんだで扱いやすい武器だ。
不器用だがパワーの有るレオンには合っているだろう。
レオンとしても意外としっくりくることに喜んでいた。
まあちょっと複雑そうにはしてるけども。
「複雑です……」
「なにが?」
「いや……棍棒を渡された乙女心というか女心というか……」
「そうか、色々あるんだな」
「……はい」
あの後、しばらくほかの武器なんかも見て回った俺たちは、やはり棍棒がいいなという結論に落ち着いた。
棍棒や剣だけではなく、槍や斧や大盾なんかも試したが、やはり一番しっくり来たのは棍棒だったそうだ。
簡単な的も用意して試しにそれ目掛けてやってみた。
そして、狙い通りの場所に一番命中させて破壊出来たのが斧と棍棒だ。
結局武器選びだけで一日が終わってしまったが、それだけ大事なことだったということだ。
「それでいいのか? もっと軽い奴もあるけど」
「はいっ! これが振りやすかったんですよっ!」
棍棒は六角柱の比較的重いやつを選んだ。重量は火力に通じるしな。
レオン的にはそれが一番しっくり来たらしい。
女のレオンには軽めがいいのではとも思ったが、ここはレオンの感覚を信じるとしよう。
「ああ、そうだ、言い忘れてたけどレオン」
「? なんでしょうか?」
「今日俺の泊まってる宿に来てくれ」
背中に氷を入れられたみたいに、ビクっとレオンが固まる。
というより俺以外の時間が止まった気がした。
「え、えぇえええぇぇぇえぇっ!!!!?!?」
ルミルが叫んだ。耳が痺れるような大絶叫だ。
なに、なんなの? めっちゃびっくりした。
「え? な、何?」
俺はルミルに服を掴まれ揺らされる。鬼気迫る表情で。
「アルっ!? どういうこと!?も、もしかしてそういうことっ!? 見損なったよ!!
やっぱりレオーネさんを弟子にしたのはそういうことが目的だったんだねっ!!」
何か盛大に勘違いしてるなこいつ。
がっくんかっくんされながらレオンを見る。
「あ、あわっ、あわわわわわわっ」
めっちゃ赤くなってあわあわ言ってた。顔が沸騰したヤカンみたいだ。
恥ずかしそうにモジモジとしている。
おい、お前もか。
「おいおい、アル……お前もついに卒業する時が来たんだな……男になって来い!」
「邪推はやめろ、違うからな?」
ギルもなんか変な勘違いをしている。ゲヒヒとほくそ笑んでやがる。
おせっかいなじじいはプライベートなとこまで突っ込んでくるのか。
というか俺の言い方がややこしかったのかもしれない。
以後、気を付けよう。
「何が違うのさぁぁーーーーっ!!」
泣きそうなルミルにお腹をバンバン殴られる。
腰の入ったいいジャブだ。お腹が痛い痛い。
みぞおちを殴ってきやがる。こいつ、マジでやる気だな。
筋肉が薄い部分だけを集中的に、結構な力で殴られると凄いダメージが。
「いや、俺は単純にレオンと……」
「ケダモノ! 一体どんなプレイをしようっていうの!?」
「今後について話そうかと」
お腹パンチがぴたっと止まった。ジッとルミルの瞳が俺を見上げる。
「……今後って? まさか……」
「うん、ほら、トレーニングメニューとか今後の修行についての方向性とか」
レオンを見るとホッとしてた。
いやいや、見損なうなよ? 弟子に手を出すような男だと思われるのは心外だ。
「というわけだ、お前らが思ってるようなことはない。
ほら、いくぞレオン、俺の借りてる宿は銀の小鳥停ってところだ」
「あ……は、はいっ」
慌ててレオンが返事をする。
「?」
なんだろう……
レオンのその時の顔が安堵の反面なんとなく……いや、気のせいだろう。
弟子をそういう目で見るのは良くない。
「うー……でもなんでわざわざ宿にいくのさ。そんなに急ぐことなの……?」
「長くなりそうだし色々あるんだよ」
適当にはぐらかしておく。
別にこいつを信用してないとか言うわけではないが。
だけど、これは俺だけの問題じゃない。奴隷人生かかってるし。
勝手な判断で不必要に言い触らすべきではないだろう。
こうして俺たちはギルの武器屋を後にした。
ルミルは最後まで不満そうだった。