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第12話 息は合う二人








 気を取り直してレオンに棍棒を渡す。1mを超える巨大な質量の塊。

 六角柱の棍棒で、腕力に自信ある俺でもそこそこ重い。

 軽く持てているように見えるのは、柄に埋め込まれた宝石の形をした魔道具のおかげだな。

 これで重さを軽減しているのだと思われる。値段は高いが、先行投資にはいいだろう。

 だが、いくら力があると言っても、女の子のレオンにはかなり重いはず。

 棍棒はぶん殴ればいいだけで、技術はいらないが膂力が必要だ。 

 そこが不安要素だが……


「こう……ですか?」


 恐る恐る棍棒の柄を握る。ぐっと、剣のように両手を離して握った。

 んーちょっと違うな。

 剣と違って重いから、力を入れるためには両手を近づけて握らなきゃいけない。


「違う違う、こうだ」


 横からレオンの手を取り位置を調整してやる。

 剣は可動域を増やすためにわざと両手を離して握るが、棍棒はパワーが命。

 とにかく力がはいるように握らなきゃいけない。


「えっと、こ、こう……ですか?」


「ふむ……こうじゃないか?」


 俺も棍棒は詳しいわけではないが何度か使ったことがあったりする。

 相手を殺さず、捕獲する際には殴るほうが効率がいい。

 その時のことを思い出し、レオンにレクチャーする。

 レオンは女だから俺の時よりもっと余裕を持って構えた方がいいだろう。

 パワーは必要だが、重量級の戦士ではないから逃げは必要。

 ただ、攻撃の際に全身の力でぶん殴れなければ意味が無いので、きちんと教えなければ。

 俺が教えてやれるのはあくまで大まかなところだけ。


「アル、ちょっといい?」


 するとルミルがちょっと不機嫌そうに声をかけてくる。

 ぺちぺちと聞こえるように、自分の組んだ腕を手のひらで叩く。


「私も教えてほしいことがあるんだけど」


「ルミルも武器のことか?」


 ルミルはこくんと頷く。

 そう言われたら見ないわけにもいかないな。

 久しぶりに見てやるとしよう。

 

「レオン、少し自分の感覚でやってみてくれ、ルミルの方見てくる」


「わかりました……」


 ちょっぴり寂しそうなレオンに背を向けてルミルを見る。


「何を見てほしいんだ?」


 ルミルはシーフクラスの短剣使いだ。

 短剣については俺も使ったことはあるが、今の扱いではこいつのほうが上手いはずだ。

 というより俺は短剣が少し苦手だったりする。

 瞬時の判断力には少し疑問が残るからだ。

 しかし、そんな俺に何を教えてほしいのだろうか。


「最近違和感があるんだよね、構えるからどこかおかしいところがないか見てほしいんだ」


 そう言ってルミルは短剣を構えて軽く振るった。

 接近戦を想定した剣さばき。空を切る音、振りの精確さ。突きの鋭さ。

 文句なしのテクニック。おかしいところはない。

 むしろ俺では指摘できない程に見えた。また上達したな。


「特に変なところはないな」


「も、もっとちゃんと見てよ!」


 流れるような動きで短剣を扱う。体捌きも悪くないし。

 んー……ほんとに分からん。


「悪い、俺には問題ないように見えるんだが」


「むぐっ、そ、そう……」


 悔しそうだ。せっかく褒めてやったのに、なんでだ。

 というわけで、またレオンの方を見る。

 上半身だけで振ってやがる。足腰はいいのにもったいねえ。

 また構えがずれてたので、もっかい手を取って一緒に調整していく。


「アルっ! ほら、これはどう!?」


「おーいいんじゃないか?」


「くっ!」


 そんなに見てほしいのか声をかけてくるルミル。

 しかし、返事をすると悔しがるルミル。

 そして、指摘されて嬉しそうなレオン。


 なんで?


 なぜか得意気なレオンと、なぜか悔しそうなルミルの視線が交差する。

 何を競い合ってるんだこいつらは。

 意味が分からない。

 上手なくせに凹むルミルと、下手っぴのレオンなはずだが。

 立ち位置がおかしくないか?


 ……あ、もしかしてクエスト終わってせっかく帰ってきたのに、俺がレオンばっかり構ってるから拗ねてるのだろうか。

 こいつも何気に構ってちゃんだよな。悪い気はしないが。

 後で構ってやるとしよう。

 だけど、とりあえず今はレオンだ。


「レオン、剣の素振りみたいに棍棒を振り下ろしてみろ」


「は、はいっ」


 レオンはゆっくりと棍棒を上へと振りかぶる。

 すっぽ抜けだけには注意しておこう。

 剣もそうだけど、この質量がすっぽ抜けるのはマジで危ない。


「えいっ!」



 ぶぉんっ!!



 鉄の塊が上から下へと振られる。

 レオンは剣と同じ要領で振り下ろし、ズドンッ! と重い音が響いた。

 地面が揺れるような振動を感じる。


「ど、どうでした……?」


 恐る恐るこちらを伺ってくる。

 才能がないと言われるのではと恐れているようにも見えた。

 問題はない。

 粗はあるが思った通り棍棒を扱う上での欠点らしい欠点はなかった。

 質量を活かした強力な一撃はそれだけで大きな武器だ。


「レオーネさんは怪力なんだね……私みたいなか弱い美少女はそんなの持てないよ」


「し、失礼なっ! 私だって女の子ですよっ!」


 また言い争いを始める二人。

 やっぱ仲良いよなこいつら。似た者同士ってやつか。

 微笑ましい。ふいに俺にもそんな友達がいたらなと考えてしまう。


「レオン、筋はいいと思う、少なくとも剣より―――」


「大体さっきから何なんですか!? 今は私が師匠に教えてもらってるんですよっ!」


「へぇー? 教えてもらってるんだ? でもほんとにそれだけ? もしかしてアルに構ってもらえるのが嬉しいんじゃない?」


「なっ!? そ、そんなわけないじゃないですか! いや、そんなわけないわけではないんですけど……」


 ごほんっ。

 気を取り直して再度口を開く。


「レオン、筋は悪くない。けどやっぱり実戦とは違うから――――」


「ほら! やっぱりそうじゃん! そういう邪な気持ちをこういうところに持ち込むのはどうかと思うよ!」


「邪ってなんですかっ! それを言うならルミルさんのほうこそですよっ!」 


 ………ごほんっ、ごほんっ。


「棍棒との相性は俺が見た限り悪くないな、ほかの武器も――――」


「私がなにさ!? 言っとくけどアルとは私の方が付き合い長いんだよっ!? いわば先輩なの! ちょっとは譲ろうとは思わないの!?」


「大事なのは量より質ですっ! 時間より絆の深さなんですよっ!」


 ………ふう。


 軽く指を鳴らす。

 手首を柔軟に動かし動作に問題がないことを確認。

 右手でルミルの頭部を、左手でレオンの頭部をがしっ! と掴んだ。


「「え」」


「言い残すことはあるか?」


 罪人たちに申し開きはないかと問う。

 二人はだらだらと変な汗を流しながら震え始めた。


「あ、アル? 愛情表現も行き過ぎると駄目だと思うんだけどその辺りはどう思う?」


「師匠? 私は師匠のことをほんとはとても優しい人だと思ってるんですよ、まして可愛い愛弟子に暴力を振るうなんてことはしない……ですよね?」




 めしめしめし……っ!!




「「にゃ゛あ゛ああああ゛あああああああーーーーーッッ!!!」」






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