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第11話 赤髪の少女







「師匠! 私もっと華やかに勝ちたいです! 棍棒なんて格好悪いじゃないですか!」


 レオンがそんなことを言う。

 確かに見栄えはロングソードみたいな剣に比べたら見劣りするかもしれない。

 剣は古来より武の象徴であり、貴族の象徴であるのも確かだ。

 剣を持つ姿は絵になるかもしれないが、棍棒を持つ少女とかひたすらに違和感だ。

 だが―――


「レオン、お前は勘違いをしてる」


「なにがですか?」


「勝つってのはもっと泥臭いものなんだよ。華やかに勝つなんて相手と実力差がありすぎて、傲慢な一握りの天才がやることだ」


 弱い奴が勝ちたいと思ったなら、貪欲にいかないといけない。

 選り好みする弱者なんて、いつまで経っても弱いままだ。

 弱い奴が強くなりたいだなんて思い上がるなら、なりふり構ってなんていられない。


「うー……でも、棍棒なんて……」


 レオンは、まだ納得いってない。下手なりに使ってきた剣に愛着もあるんだろう。

 確かに、こればっかりは実戦で実感しないと納得できないかもしれないな。

 一度、魔物相手に効力を味わってもらわないと納得しないか。

 

 そんなことを考えていると――――


「アルッ! よかったここにいた!」


 バン! と扉が開いて一人の赤髪の少女が入ってきた。

 冒険者風の皮の装備一式に身を包んだ、明るいのが取り柄な少女だ。

 レオンと同じくらいの歳。背格好も同じくらいだろう。


「ルミルか? 久しぶりだな、どうした?」


「クエスト達成したから帰ってきたんだよ。

 それで久しぶりに一緒に何か食べようと思って探したらどこにもいないんだから……何してたんだよー!」


 ずっと探してたんだぞと、グーでお腹をぐりぐりしてくる。やめなさい。

 身長差的にこんな感じでよくお腹を攻撃されるのだ。慣れ親しんだ愛情表現。

 ルミル曰く丁度いい位置らしい。

 いい迷惑ではあるが懐かしい感じだな。 妹がいたらこんな感じだろう。


「し、師匠っ、こちらの方は?」

 

 レオンが間に入ってくる。

 どこか慌てたような感じのレオン。

 いかんいかん忘れてた。


「ん? アル、この人は? それに今師匠って呼ばれてなかった……?」


 ルミルもレオンに気付く。

 しょうがねえなと、俺はお互いを紹介してやる。


「こっちはルミルで冒険者仲間だ、んでこっちがレオーネで俺の弟子だ」


「弟子!? アル弟子なんてとったのっ!?」


「成り行きでな」


 あれこれ説明するのも面倒なので経緯はざっくり省いた。

 するとルミルは不満そうに……


「可愛い子だね……?」


 ぽつりとルミルが呟く。

 

「ん?」


「レオーネさんだよ、もしかして可愛いから弟子にしたの?」


「……そんなわけないだろ」


 ちょっとだけ返事が遅れてしまった。

 いや、別に可愛いから弟子にしたとか言うわけではないのだが、俺も男である。

 嬉しくなかったと言えば嘘になるし、それがまったく影響しなかったかと言えば判断に困るところなのだ。

 ルミルは何がお気に召さなかったのか「むー!」と頬を膨らませる。

 

「アル! ほら、今日くらい付き合ってよ! 一緒にご飯食べに行こうよ! 今日は奢るからさ!」


 腕を掴んで絡めてくる。慎ましい胸がむにっと当たる。

 ぐいっと引っ張って俺を連れていこうとするが、今回はそういうわけにはいかない。

 何せレオンを勝たせてやると約束したばかりなのだ。

 しばらくは付き合えなくなるだろう。すまん、ルミル。

 それを伝えようとすると、今度は反対側の腕が引っ張られた。


「し、師匠っ! 実は棍棒にちょっとだけ興味があったんですよっ! さっそく試してみましょう!」


「お、おい、レオン?」


 さっきまで悩んでたレオンがどういう風の吹き回しだろうか。

 って、強い強い。レオンのやつ強く引っ張りすぎだろ。

 あ、こっちのほうが胸が大きい。


「レオーネさんは引っ込んでてくれる? 私はこれからアルと一緒にご飯を食べに行くから」


「そ、そんなの……! 私の方が先に師匠と約束してたんですからっ!」


 なんだ。レオンのやつ師匠の俺が取られるとでも思ったのか?

 奴隷人生かかってんだから、同じ泥舟に乗った仲間だろう。


「そこはほら、付き合いの長さを優先させるべきだと思わない?」


「思いませんっ!」


 気のせいかバチバチって目線が火花を散らしているように見える。

 困ってギルに視線を向けるとちょっと面白そうにしていた。

 助け舟を出す様子はない。


「あー、ルミル? 悪いけど今回はレオンとの約束が先だったんだよ、飯はまた今度な」


 ルミルが微妙に機嫌悪そうになった。うーって唸りだす。

 レオンは何か嬉しそうだ。尻尾揺れすぎ。


「むー……分かったよ。じゃあまたいつか誘うからその時は一緒に行こうね!」


 だけど切り替えは早かった。

 こういうところはレオンに見習わせてやりたい。

 レオンの場合すぐ悪い方に考えるからな。

 まあそれはさておき機嫌とってやらないと。 


「ああ、その時は俺が奢ってやるよ」


「約束だよ! 絶対だからねッ! 特上のステーキ奢ってもらうんだから!」


「おう」


 ルミルが腕を離す。

 レオンもそれを見てゆっくりと腕を離した。


「そういえばレオーネさんって棍棒使うの?」


「そ、そうですっ! 師匠が選んでくれたんですよっ!」


「棍棒って……ぷっ」


 ルミルが小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

 レオンと違って、こいつは器用だからな。


「むきー! な、なんですかー! 棍棒は強いんですよ! ですよね師匠っ!?」


「ちょっ、アルに助けを求めるなんて卑怯だよっ!」


「卑怯じゃないですっ! 弟子の特権ですっ!」


 こいつら案外気が合うのだろうか?

 良い意味で気安さを感じる。同類だと思う。

 言い合ってはいるけど相性は良さそうだ。


「仲良いな」


「どこが!?」「どこがですか!?」


 同時に言われた。めっちゃ噛み合った。

 やっぱいいだろお前ら。仲良くなれるんじゃないか?

 ギルが後ろで大爆笑していた。ガハハって。爺め……

 






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